望月 鏡翠
2025-09-14 21:06:54
900文字
Public 日課
 

#1845 彼の生業

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 神の剣の一掻きでこの世が生まれたというのなら、そいつは国土を作るときに三千世界の魑魅魍魎も纏めて掬って滴らせてしまったのだろう。
 獣の理を外れた異形の姿と力を持った化け物たちは、どれほど狩っても尽きることはなかった。
 夜毎に灯す篝火は、人の領域がそこまでである証であったが、中には、篝火を模す妖怪もいる。騙し騙され、裏を掻き、人と妖怪の知恵比べが、もう何世代にも渡っていたちごっこのように繰り返されている。
 萬木が生まれたときには既に、化け物退治はこの土地の生活となっていて、どちらが仕掛けたことなのか、もうわからなくなっていた。
 大袈裟に大義を掲げて武器を取る者もいる。彼らには命や戦いや人の世というやつが、何か交渉な営みに見えているらしい。
 萬木にとっては、もっと単純で俗っぽい事柄だ。
 真面目に畑を耕すよりも、金になった。
 それに親にもらった体が、この仕事に向いていた。
 狩った妖の体は武器や防具、装飾品、果ては金持ちが使う効果不明の漢方薬まで、余すところなく金になった。
 少し離れて街まで行けば高く売れたし、仲買を遠さ様に海の向こうから来た商人を捕まえれば、より高く売れた。向こうも相場より安く買えるのだから、良い取引だ。
 一年は優に暮らせるだけの金が手に入る。金がなくなればまた、狩りに出ればいい。そういう生活を続けてきて、それ以外の生活を知らない萬木にとって、毎日を真面目に働くというのは、想像もつかないことだった。
 はたして、妖怪と人が争い始める前は傭兵をして生きているような連中はどのようにして生きていたのだろうか。
 人がこの世に生まれ落ちた瞬間から、宿命として定められていた営みなのだろうか。
 そうであるなら、母親の腹の中から刀を握っていたと言われるような戦うこと以外に能のない男がこの世に生まれ落ちてしまうのも納得だ。
 酒に酩酊した頭で、萬木は人生の答えのような確信を掴んだ。しかしこの世に生まれ落ちた意味とも言える閃きは、所詮酔夢でしかない夜が明ける頃には消え、また昨晩の酒が懐の金をどのくらい減らしたのかを指折り数える生活に戻るのである。