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ジルク
2025-09-13 22:45:35
2211文字
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白鳥芸人班
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夜明け未満
CoC「白鳥の歌を謡うとき」3話までネタバレ
3話と4話の幕間の話。ピーターくん主軸。
ピーターが目を覚ましたのは、空が薄明るくなってきた明け方のことだった。
寝苦しさで眠りから引き上げられたピーターは、その原因がすぐ横にいるギルバートであることに気が付いた。狭いカウチソファの上で、彼はピーターを抱き枕のように抱えて眠っている。回された腕の重さと伝わる体温が、睡眠を阻害したのだろう。
ピーターはギルバートの隣から抜け出す。彼は腕を持ち上げられた際に少し呻いたものの、わずかに身体を丸めて眠り続ける。いつどうして彼に抱きかかえられるのに至ったのか、ピーターの記憶にはない。しかし、部屋に残るアルコールの匂いが昨夜の様子を物語っている。
カウチソファを降りて部屋を見回せば、床には酒瓶が転がり、テーブルの上にはピザやスナックの包みが散らばっていた。その一角では、クリストフがスマホとビール瓶を握りしめたまま突っ伏しており、彼の頭を黒い触手の塊
――
ミラがベッド代わりにしている。ここはギルバートの自宅で、普段は物が多いながらも整頓されておりそれなりに清潔な印象であるが、今は正しく若者のパーティー後の様子である。
ある種平和な惨状を横目に、ピーターは部屋の窓を開けた。涼しい外気が入り、こもった空気が薄まっていく。
ピーターは酒に弱い。匂いだけで酔い始め、一口飲めば眠ってしまう程だ。現に昨夜も、クリストフが持ってきた珍しい酒を味見程度に口にし、眠気を覚えた後の記憶がない。
そのため、ピーターにとって起きたばかりの時のこの部屋の空気は不快だった。いつもであればギルバートが片付けておいてくれるのだが、今回は彼もその前に酔い潰れたらしい。ピーターはその理由についていくらか思考を巡らせたが、特段心当たりはなかった。つまりは九分九厘クリストフが原因だろうと結論付ける。
暫く換気をし、外の空気を吸ってからピーターは窓辺を離れた。テーブルの下に落ちていた自分のスマホを拾う。ニュースアプリの通知を削除し、SNSを開いた。
漫然とタイムラインを眺めていると、数時間前のクリストフの投稿が目に付く。そこには何枚かの写真が添えられ、友人たちと飲酒や食事を楽しんでいる旨、自身の持ってきた酒についてのコメント等が面白おかしく書かれている。最後の写真は、カウチソファに無理やり収まっているピーターとギルバートを背景に、クリストフが自撮りをしたものになっている。いくらかリプライが付いており、大方はクリストフと波長の合う者からなのか、面白がったり好意的だったりする内容である。
ピーターは自身のスマホから視線を外し、クリストフへとそっと近付いた。彼も、彼の頭の上のミラも、相変わらず深く眠っているようである。ピーターはクリストフの手から慎重に彼のスマホを抜き取る。ボタンを押し、たたた、とパスコードを入力する。彼にパスコードを定期的に変更する習慣はなかったようで、以前何とはなしに入力する様子を見た際のもので問題なく開くことができた。
画面にはカメラロールが表示される。最新の画像が、SNSの投稿の最後にあった写真だった。その画像を長押ししようとして、ふとその隣の動画ファイルのサムネイルがピーターの目に留まる。そこには、カメラに背を向けカウチソファで横になっているピーター自身と、その隣の席に座っているギルバートが映っている。
少し躊躇ってから、ピーターはその動画ファイルを開いた。
映像は、ギルバートが眠っているピーターの頭を撫でているところから始まった。彼の視線はピーターの方を向いているものの、どこか焦点の合わない瞳をしている。ソファの背もたれへ頭を乗せるように寄りかかっており、既に大分酔っていることが見て取れる。
「何してんだ?」
画面外からクリストフの声が入る。笑いを堪えた震える声だ。
ギルバートは曖昧な表情のまま、ピーターの頭を撫で続けている。かなり間を開けてから、彼は「ピーター、」とだけ口にした。クリストフがけたけたと笑い、映像が揺れる。
「ピーターがどうしたんだよ」
「
……
悪いかよ」
ギルバートは顔を顰め、返事にならない言葉を返す。その瞳は微かに潤んでいるようにも見えた。
「何も言ってねえだろ」
笑うクリストフを無視し、ギルバートはピーターの隣へと無理やり身を横たえる。そのままピーターの背に顔を埋めるようにして抱き着いた。
「え? マジ? そういう感じ?」
耐えられないとばかりにクリストフが爆笑する。
「うるせえ
……
」
ギルバートが迷惑そうに返すが、その声は相当眠たげで覇気がない。
「
……
ピーター、」
その後彼はいくつか言葉を続けたようだったが、半分寝言のように不明瞭なそれはクリストフの笑う声に重なって、聞き取れるものではなかった。
そうして映像は途切れる。
ピーターは何とも言えない表情を浮かべた。先程の画像を長押しし、動画ファイルも共に選択する。メニューから削除の項目をタップ。操作確認のポップアップに、躊躇なくOKを返す。スマホの画面表示を切り、未だ眠るクリストフの横へ置いておく。
ピーターは再び自分のスマホを開くと、メッセージアプリを立ち上げた。ギルバート宛てに「用事があるから帰るな」と送る。
足音を立てないよう、静かに部屋を出る。日差しが辺りを照らし始めていた。曇りがちなキングスポートでは貴重な、眩しく晴れた朝だ。
建物や木々の影を踏みながら、ピーターは街へ姿を消した。
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