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ジルク
2025-09-13 21:44:16
1910文字
Public
白鳥自カプ
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とある春の夜
CoC「白鳥の歌を謡うとき」1話ネタバレ
セッション中、個タブで発生した余談の補完的SS。
「くそ、ご丁寧にわざわざ一式持ってこなくたってよかっただろ」
雑巾や掃除用洗剤の入ったバケツを乱雑に床へ置く。がしゃん、と静まり返った寮舎に音が響いた。
箒を手に、のろのろと床を掃き始める。深夜のトイレは明かりを付けても光が行き渡らず、作業効率は悪い。
(やっぱチクってやればよかったかな)
そう思い、溜息を吐く。あの二人に巻き込まれて一緒に罰を受けるのは日常茶飯事だ。こうして一人、割りを食うことも一度や二度ではない。まあ、そもそも一緒に罰を受けることになってもバックレられることは多々あるのだが。
小窓から外を見る。寮舎の外は暗く、見える範囲に人影はない。あの二人はどこまで行ったのだろう。あの青い光には追いついたのだろうか。
(これで何にも見つけられなかったら許さねえからな
……
)
ボーモント先生にはクリストフが来るまでと言われたが、あいつは朝になってもここには来ないだろう。掃除の件を覚えていたとしても、気が済んで帰ってくればどうせ自室へ直行だ。完全に罰を肩代わりしてやった上、何にも情報を得られなかった愚痴までは聞きたくない。
手を動かしながら明日の朝のことを考える。いつものようにゲラゲラ笑いながら楽しそうに話すピーターとクリスの姿を想像して。
……
どうしてか、心臓を掴まれたかのように胸が苦しくなる。思わず手が止まり、靴のつま先をじいっと見る。
「よっ! なんでこんな夜更けに掃除してんの?」
唐突に背後から声を掛けられる。聞き慣れた、ここにいるはずのない人物の声。
「お前も抜け出してきたのかよ」
振り返れば、ローレンスがにっと笑った。
「わかるだろ、概ねクリスのせい」
前を向き直り、さっさと手を動かし始める。日中ボーモンド先生を訪ねたときに一緒だったんだから、ちょっと考えればわかりそうなものだ。
「あはは! いつも通りだね!」
彼は快活に笑う。暫くこちらが働いているのを見ていたかと思えば、立てかけておいたモップを一本手に取った。そのまま自分の周辺の床を適当に拭き始める。
「
……
いいよ別に手伝わなくて」
思いの外ぶっきらぼうな声が出た。
「一人だけ仲間外れでご機嫌斜めなのかい?」
息を呑む。さっきから感じていた苦しい気持ちに、名前が付いた。図星だ。俺は、ピーターとクリスが羨ましかったんだ。
一瞬止まった手を動かし、振り返らずに言葉を返す。
「さあな。ま、いつも通りだろ」
「そうそういつも通り。だから、慰めてあげようかなって」
愉快そうな声を無視し、彼の足元へモップをかけなおす。
「そんな丁寧にやる? 相変わらず真面目だなあ」
「先生がうるさいんだよ」
彼は早々に飽きたようで、壁にもたれモップの柄をもてあそんでいる。
淡々と作業を進める俺を、ただ眺めているその視線に居心地が悪くなる。
「それより何しに来たんだよ」
「みんなで面白いことできんのが一番だったんだけどね。僕も出遅れたかな」
少し間をあけて、彼がもう一度口を開く。
「お前はいつも損な役回りだね、ギル」
さあっと顔が熱くなった。
勢いよく振り返る。彼は、不思議な、淡い笑みを浮かべていた。
(お前がそれを言うのか)
反射的に浮かんだ言葉は、喉に詰まり、声にならない。しかし、表情で十分伝わってしまったのだろう、彼はくすくすと笑った。
下唇を噛み、彼に背を向ける。
「
……
るっせ」
そのまま掃除を続ける。会話もなく、彼はあくびをしつつぼーっとしたりこちらを眺めたりしている。
「眠いんなら帰ればいいのに」
嫌味っぽく言えば、彼は首を傾げて笑んだ。
「僕が帰ったら寂しいだろ? それにほら、オバケが出るかもしれないし?」
「またその話か」
溜息を吐く。
「あいつらの前であんまガキの頃の話すんなよ」
「嫌だった?」
笑みを崩さない彼に、何も答えられない。こいつは、どうしてこうも俺の気に障ることを言うのが上手いんだろう。
無言で掃除を終わらせ、片付け始める。それを見て、彼は「じゃ、眠いし帰るね」と言い残し出て行った。
一人になり、今日何度目かわからない溜息を吐く。やり残したことがないか最後に確認し、自分も部屋へ帰ろうと思ったとき。ふと、洗面台の鏡に映る自分に目が留まってしまった。
金髪、たれ目気味の二重、緑の瞳。火傷痕のおかげか指摘されることはほとんどないが、俺と彼の顔立ちは似ている、と思う。
右頬の火傷痕の縁をなぞる。これが、彼と自分の違いであり、ある意味自分のアイデンティティであり、彼がいなかったらなかったかもしれない特徴。
目を伏せ、なんとなく手を洗い直す。早く寝よう。もうとっくに真夜中を過ぎているんだから。
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