山本
2025-09-13 21:35:04
5669文字
Public 幼馴染シリーズ
 

幼馴染との恋愛論inパパママ教室

9/13pixivにて更新の現パロ幼馴染夫婦🐯🕒♀に関する小話。
パパママ教室に参加する🐯🕒♀。






くれはの産婦人科医院の一室、六組の夫婦を前にくれはと助産師の女性が挨拶をして夫婦一組一組に自己紹介を促していく。妻の方には名前を、夫の方へは名前と妻の現在の週数と出産予定日を発表させての自己紹介だ。
ある者は二十週から三十六週の間に受けるパパママ教室に参加をしているのに十五週くらいだとか当てずっぽうの週数を答えたり、またある者は週数で言えと言われているのに何ヶ月という形で答えていたりとくれはに容赦のない言葉を浴びせられる有様だ。
出産予定日を問われれば悩んだ末に梅雨頃だよね?とかアバウト過ぎる発言で妻に問う者、何月かは覚えいるのに何日かを覚えてなくて目を泳がせ焦る者など。正確に答えられる者の方が少ない。その有様に助産師の女性が苦笑で見つめ、くれはが容赦のない言葉を浴びせていく。
曰く、今この週数でその時期まで一体どれだけ赤ん坊をお腹の中にいさせる気だとか、出産予定日も覚えてないのに協力してやっていけるのかだとか、本当に情けも容赦もない。赤ん坊は絶対予定日までお腹にいてくれるだなんて夢を見てるんじゃないよだの、代わりに産めない奴が無関心でいきなり父親としての覚悟を持てるとか幻想を抱いてんじゃないよだの、もう言われている夫側が可哀想なほど歯に衣着せぬ言い様だ。
そんな中、ある夫婦の夫は週数もしっかり答えて出産予定日も少し考えつつきちんと答えてくれはに少しはまともな男もいたもんだと褒められていた。
そして、ローはと言うと……
「名前はトラファルガー・ロー。妻は現在妊娠二十五週一日で出産予定日が八月十三日。以上」
顔色を変えず考える間もなくサラッと週数に加え何日かというところまで答えていた。サンジは隣で母子手帳を出してもらったプリントに書き込んだのを見て驚いたように何度も頷いている。くれはは呆れたようにローを見て溜息をついた。診察室で聞いた限り、一歩間違えばヤバめの夫という印象がより補強された感覚だ。
パパママ教室参加者夫婦の自己紹介をそんな感じでスタートさせ、次に妊婦体験ということで九ヶ月相当の体験スーツが配られる。こんなに重いのかと驚く者や案外軽いじゃんとか笑って余裕ぶる者、様々な反応がある中でローがしっかり実感しようとするようにスーツの腹部分に触れ、屈伸運動などをする。
「これは短時間ならナメてかかれるだろうがずっとじゃ腰にくるな。行動も制限されて動くこと自体大変だろう。なるほど、いい体験ができた」
サンジはローが医者だからそんな反応なのだろうかと思うほどに冷静なリアクション。周りでは余裕ぶって調子に乗って飛んだり跳ねたりしていた誰かの夫が、無闇矢鱈お腹に衝撃を与えるんじゃないよとくれはに叱られている。その上で、実際の妊婦のお腹にいるのは人形でも重りでもなくあんたたちの赤ん坊だよ、馬鹿みたいにポンポン飛び回っていいとでも思ってんのかいと言われ小さくなっていた。
その光景に他の調子に乗っていた夫は大人しくなり、真面目に重いねとか妻に感想を言っていた夫などは眉を顰めている。だというのにローは冷ややかに一瞥して行動にかかる負荷や制限などを確かめるように動いていて、どうにも同じ空気を感じてると思えない。相手にする気が皆無である。
「ちょっとした動作も見てる以上に負担になるな。サンジ、あまり無理はするな。おれが代われることはおれがやる、何でも言ってくれ」
「あのよ、気になんねェの?あっち」
「ん?何でだ?」
……いや、何でもねェ」
他所の夫婦になど目もくれず、サンジがどんな感覚を体感しているのか知ろうと自身の目的のみを優先するローに複雑な気持ちのサンジ。自分を思い気遣って、少しでも感覚を知ろうとしてくれているのは伝わっているので普通気になるだろとも言えない。でも自分のことを思ってどんな感覚か知ろうとしてくれるのはとても嬉しいので複雑な気持ちになってしまい何も言えないのだ。
そんな複雑な気持ちでローを見ているサンジの視界にくれはが映って目が合い、ローが気付かぬままズンズンとこちらへ向かってくる。ローが結構肩にもくるなとか呟いていると、くれはがポンとローの肩に手を置き声をかけた。
「あんたは少しは周りを見な。あんたが周りを気にしないことによってあんたの嫁があんた以上に周りを気にしなきゃならなくなるんだよ」
背後から突然かけられた声にローの肩が面白いくらい跳ねて慌てて振り向く。サングラスをかけたくれはの顔が至近距離でローを凝視して更に付け加える。
「あんたは妊娠してる嫁に気まで遣わせるのかい」
ローが勢いよくブンブンと首を横に振って返し、くれはがニヤリと笑みを浮かべてヒーッヒッヒッヒと魔女のような笑い声で離れていく。どうやら診察室で投げつけられたメスがよほど恐ろしかったらしいと改めて感じてローの背に手を当てる。ローは少々青ざめた顔をしていて、ローがここまで怖がるだなんてすごいなとくれはを見た。
妊婦体験スーツにあちこちで各々の反応が見られる中、前に戻っていったくれはと助産師が当院ではスーツを着用したまま講座や実習を受けてもらうとの旨を話す。体験スーツでの妊婦体験は、短時間ではその大変さは伝わりにくい。なので少しでも長く体験してもらってパパ側にも知ってもらおうという取り組みだと助産師が言う。
余裕そうな夫や夫婦で何やら笑顔で囁き合う姿とかがある中で、ローはくれはへの恐怖を引き摺るでもなくサンジの手を取り、いい経験ができる病院で良かったと言った。その笑顔にキュンときてサンジがやられてしまう。クチコミが良かったから選んだ産婦人科の個人医院だが、その選択を認められた気がして堪らなく嬉しかったのだ。しかも、これまでの健診でくれはを怖い、恐ろしい、何でここを選んだのかと怯える他所の夫というのを見ていただけにときめいてしまって止まらない。ここまで来るとサンジには、ローが周囲に目もくれないのはサンジの妊婦としての気持ちを共有してくれようとしてるからなんだと思えてしまう。
そんなサンジの姿をチラリと見てどっちもどっちの夫婦じゃないかと半ば呆れ気味のくれは。口にこそしないが、所謂バカップルに分類されるアレかと納得して妊娠の過程や妊婦の体の変化、胎児や赤ん坊についての講座が始まる。
講座が始まると、最初こそ余裕そうに構えていた夫たちも徐々にモゾモゾと落ち着きなく動きだして小さな溜息まで聞こえだす。どうやら大きなお腹を抱えての座りっぱなしの動かない状態というのが思ったより辛かったらしい。
パパママ教室の冒頭で妊婦へは少しでも辛い時や体調が優れない時はいつでも言ってくれと言っていた助産師だが、講座の途中で一人の夫が手を挙げ座ってるのが辛いから休みたいと言うと笑顔で却下。最初からずっとやけにテンションも高くいた人物の発言に対し、今だけじゃない奥さんが頑張れてるのに今だけの旦那さんが先に音を上げちゃ駄目よとニッコリ言い放って講座を再開した。
絶望からか、大きな長い溜息が聞こえるが助産師もくれはも無視。講座は進み、ローは姿勢を変えつつサンジを気遣い真剣に聞いている。ローにはほとんど知っていることだろうとサンジには思えたが、それでも真剣な眼差しで聞いているローの横顔が格好良いなと思ってしまう。
要所要所でローに惚れ直しているうちに講座は終了。ヨガやストレッチなど、妊婦一人でできるものから夫婦でできるものまで妊婦体験スーツを着用のまま行った。
その後はおむつ替えや沐浴、抱き方や着替えなど赤ん坊のお世話に関する実習に移る。
最初に抱き方を指導され各々が人形で実践する。実際に新生児の重さと首の不安定さの人形に先に緊張感を僅かに伴い抱っこするお腹の大きな妊婦陣。不安の色は表情から伺えながらも助産師やくれはから軽くアドバイスを受けるくらいでコツを掴んでいく。
サンジは経験のない新生児の抱っこに人形相手ながら戸惑いつつ周りを見て抱っこしてみる。オロオロする様子に大丈夫上手いと言って腕を支えるロー。そこへくれはが近付きサンジの右肩をクッと押して下げさせた。
「あんまり肩を上げ過ぎると抱っこし続けられやしないよ。肩も凝って骨格も歪むからね。もう少し今みたいに力を抜いて抱っこしな。それ以外は上手いじゃないか。ヒッヒッヒ」
アドバイスと褒めをサラッと告げ去っていくくれはに、感心というべきか尊敬というべきかわからない畏怖もこもった感情を抱えローが見送る。サンジは最初よりも抱っこしやすいと嬉々としていてローまで笑顔になった。
こんなに重いんだなと呟きあやすようにユラユラ揺らすサンジに感動すら覚えるロー。今度はそのローが抱っこをする番となり、見様見真似と助産師が言っていたコツを思い起こして抱っこした。
「こう、か……?」
「う、うん。大丈夫じゃない……かな」
ローの高身長からくる腕の長さも相俟って抱え込むような格好で新生児の人形がどこか窮屈そうだ。だが、助産師の言っていたポイントはできている気がするし何がおかしいのかローもサンジもわからない。ローは妹のラミがいるが、年齢差的にローは新生児の間は抱っこをできていなかったし、首がすわる前の時期も母親に支えられての抱っこだったのもありわからない。他に弟も妹もいないため年月の経過によるものもあるだろう。
合っているのか合っていないのかわからない抱っこにオロオロしているとくれはが来て顔を顰めた。
「あんたは赤ん坊を抱き潰す気かい!そんなにギューギュー抱き抱えたら赤ちゃんが潰れるって見てわかりな!!」
バシンと思いっきり背中を平手で叩かれ驚きと痛みで顔を歪め新生児人形を落としそうになるロー。それを慌てて腕に抱えると背中の痛みを堪えてくれはを睨む。しかしくれはは容赦なく駄目出しをしていく。
「首が安定するように頭を腕に乗せな!右手はお尻を支える!自分の力を考えて抱っこしな。馬鹿力で赤ん坊を抱き潰すんじゃないよ!」
まだビリビリとする背中の痛みにくれはを睨みたい気持ちを抑え抱っこし直すと、当初の窮屈感のある様子と一変した。
「すげー!確かに違うな」
「おお……!!」
「まァ、学ぶ姿勢があるだけ父親になる基本は認めてやろうかねェ。ヒッヒッヒ!学ぼうって気をなくしたら人間おしまいだよ」
様になった抱っこに感動している姿を見見て言いつつ、わざと周囲に聞こえるボリュームで言った。最初だけは元気にはしゃいでいた夫も面倒臭そうだった夫も、終始妻と真面目に参加していた夫もくれはの言葉に思うところあり気な顔を見せている。
その後もおむつ替えで少し窮屈に思えるくらいしっかりテープを止めると助産師に教えられ、こんなにキツくしたら苦しいんじゃと思いつつやるサンジ。ローはおむつ替えは助産師に褒められており、沐浴に移っていく。
サンジは落としそうで怖いと言いながら嬉しそうにガーゼハンカチで人形に沐浴をさせる。ベビーバスから出す際にはお湯がボタボタと落ちて沐浴のやり方ひとつとって考えてやらねばならないと話し合っていく。
そこからローが沐浴を体験しているとくれはが来た。
「どうだい」
「えっ?ああ、何とか」
「耳を押さえるとは言ったけど力が強過ぎだよ!赤ん坊の頭をリンゴみたいに潰す気かい!?」
「えっ!?あっ。ああ」
力加減をしているつもりでまだ強かったらしい指摘にローが慌てていると少し離れた場所から「ちょっと!!」と大きな声が聞こえた。それにローもサンジもくれはも目を向ける。視線の先には新生児の人形を両手で持ってポタポタと雫を垂らしているある夫の姿。最初だけはテンションを高くして妊婦体験スーツで飛び跳ねてた人物だ。
「何してるの!?赤ちゃんを振らないで!!」
怒って注意した助産師にその人物が戸惑いながら床濡れるしと言い訳をしている。それを見ていたくれはが険しい顔をしてズカズカ寄っていった。
鬼の形相で近付きくれはが問答無用でその胸ぐらを掴む。くれはが近付いていっている間に助産師が男性の手から新生児人形を奪い落下を防ぐ。
「赤ん坊を中華麺か何かだと思ってんのかい小僧!!父親じゃなくてラーメン屋にでもなるつもりか!!」
くれはの剣幕にその場の空気が凍りつく。その瞬間ローが口を開いた。
「揺さぶられ症候群の危険性に頚椎、関節への負荷による負傷のリスク、それらを回避したとしても濡れた乳児の体が手から滑り落ちて落下により負傷、最悪死亡する危険性がある。乳児、特に新生児は骨格、関節に筋肉などが未発達な状態なことから注意を怠れば生命の危険すらある。人間は頭の大きさから体が未発達な状態で生まれるため細心の注意を払わなきゃならない。スーツを着て飛び跳ねていたこともそうだが、妊娠や出産、新生児などの乳児に対する知識と常識に欠け過ぎてるんじゃないか?今時ニュースでも揺さぶられ症候群については報道されてるぞ」
ローの言葉にくれはが振り向きニヤリと笑って見てから険しい形相で男性を睨み付ける。
「種さえ仕込めば誰でも父親になれるとでも思ってるのかい?そんな考え思い直させてやるから覚悟しな。赤ん坊が殺される前に躾直してやる。殺人犯にならなくて済むんだ、ハッピーだろう?ヒーッヒッヒッヒ!」
真っ青になって何か言い訳をしようとしたその男性はくれはに居残りだと命じられ涙目になっている。くれははその男性の妻に半ば強引な勢いで許可を得ると、掴んでいた胸ぐらを離して続きを再開した。
パパママ教室はそこから実に平和に進行。全プログラムが終了しそれぞれ参加者夫婦が帰っていく中で居残りとなった男性はくれはに捕まり、妻は助産師に案内されどこかに消えていく。ローとサンジはこの後の話をしながら退出。サンジはローと結婚して愛情の重さに悩みもしたが、実はとても幸せで何も間違ってない選択だったなと実感して産院を後にした。