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ジルク
2025-09-13 21:28:00
1173文字
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柘桜(同居人)
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CoC「同居人」ネタバレ
通過中に書いたSS
ベッドの中で薄暗い天井を見上げる。
眠る以外にできることはなく、緊張の解けない状況下では身体も精神も休ませるべきだとわかってはいる。しかし、子供が寝るにも少し早いような時間だからか、自覚している以上に気を張っているのか、眠気は未だ訪れない。
(
……
美味かったな)
夕食に出された鬼嶋凛の脳を思い出す。テット・ド・ヴォーだったか。フランス料理の調理法を用いることに食人への拘りの強さを感じる。ある意味では想像通りだ。金持ちの悪食食道楽野郎らしい。
(「凛を『愛してくれて』、ありがとうございました」、な
……
)
食材の質を上げるのは手間と愛情だと奴は言っていた。愛情をかけ、のびのびと育った人間の脳だからこそあの味だったのだろうか。
脳裏に鬼嶋凛の笑顔が浮かぶ。見舞いに行くたびに飛び付いてきた天真爛漫な少女。もう二度と彼女が喋り笑うところを見ることはないという事実に、心のどこかが沈んでいるような感覚がある。自分が鬼嶋親子に対して、意外なほど心を開いてたことが面白い。
そして、だからこそ美味かったのではないかと思う。
鬼嶋凛を食ったことは後悔していない。人間の狂気に触れることが趣味であり、食人に純粋な興味があったことは否めない。しかし、それ以上に"鬼嶋凛を食いたい"という欲求があった。目の前で殺され、二度と会えない彼女を自らの内に収めたかった。それが叶った喜びこそが、最高のスパイスだったのではないか。
自分の中に湧き起こる発想に、軽い酩酊感を覚える。
(自分が愛せば愛するほど、美味いと感じるんならよ、)
隣のベッドを見る。依織はこちらに背を向けて横になっていた。眠っているのか否かはわからない。ただ規則的な呼吸をしていることが見て取れる。
(こいつも、食ったら美味いのかな)
自分が彼に向ける感情を愛と称したことはない。ただ、この世で自分が一番心を開いているのが彼だ。いつでも誰に対しても優しく振舞う彼は、自分から見れば善性と正気そのものだ。何があろうと揺らがないその性質は、非常に美しく好感が持てる。彼は、俺自身が正気を保つために必要な"正常の指針"だ。狂気に触れ染まる快楽に堕ちきらない為の、俺の命綱。それを自ら、殺し、食らい、失い、取り込むことは、きっと自分にとって最高の狂気になることだろう。
湧き上がる猟奇的な好奇心と欲求に、理性が警鐘を鳴らす。狂気的な興奮で鼓動が速くなると同時に、正気の自分が吐き気を催す。
(
……
やんねえよ、今のところは)
手で覆った口元に笑みが零れる。依織を食ってしまえば、それこそもう二度と人間には戻れないだろう。正気と狂気を持ち合わせるのが人間だ。自分はまだ人間として生きていたい。
壁の方へ向き直り、目を閉じる。眠ってしまおう、明日もまた生きるために。
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