ジルク
2025-09-13 21:22:07
1596文字
Public 山羊歌なまもの班
 

Present for You

CoC「山羊の歌は謡えない」シナリオ開始前の話。
1988年12月のなまもの班。

「ねえ、アシュトンお兄ちゃんはサンタさんに何を貰うの?」
クリスマスを待ちわびる12月のある朝。食事の片付けを手伝いながら、隣でわたしと同じように食器を拭いている兄に聞いてみる。
本当は食事中に聞きたかったのに、ニコラスお兄ちゃんがサンタはいないだの悪い子のところには木炭しかくれないだの言ってきて、それどころではなくなってしまったのだ。
「そうだなあ、まだ迷ってて決めてないかな。メアリは決めたのかい?」
「うん! 新しい絵の具と筆が欲しくって!」
「メアリはお絵描きが好きだもんね。最近また上手になったんじゃない?」
「えへへ……。あ、そうだ、何と何で迷ってるの?」
危なく聞きそびれるところだった。ちゃんと皆に聞いて回ってるのに、一人だけ聞けてないとなったら困るのだ。
(アシュトンお兄ちゃんには聞かなくても大丈夫な気もするけど、念のために聞いておかないとね!)
一人で頷いていると、目の前の兄が首を傾げた。
「本か新しいペンかなって思ってるけど……どうして?」
「ううん! 何でもないの!」
ちょうど最後のお皿を拭き終わる。布巾を洗濯用のかごに放り込んで食堂から駆けだした。
目指すは物置。ヘレン先生が取っておいてくれた毛糸玉が、紙袋に入れられてわたしを待っているのだ。

-----------------------------------------------

クリスマス当日。
皆がサンタさんからのプレゼントを開け終わり、ざわめく空気が少し落ち着いたときだ。
「今年はメアリとマルタからもプレゼントがあるのよ」
ヘレン先生の声に、マルタお姉ちゃんと目配せをする。二人で編んだ毛糸は、ヘレン先生が綺麗にラッピングしてくれてある。
「皆のテディベアにマフラーを編んだの!」
一人一人に包みを渡す。マルタお姉ちゃんが優しい声音で付け足した。
「メアリが提案してくれたのよ。お揃いのマフラーがあったら可愛いねって」
アダムスハウスの子供たちは、皆テディベアを持っている。ハウスに来るときにヘレン先生がくれるのだ。色や素材はまちまちだけれど、同じ大きさのそっくりなテディベアたち。全部ヘレン先生の手作りだ。わたしのは明るいピンクで、ずっと大切にしている。
「へー! すごいなメアリ! これ編んだのか?」
「うん! デイビーのはレモンイエローにしてみたの。テディベアはオレンジ色でしょ、似合うかなって思って」
「オレ部屋から持ってくるな!」
デイビーはパッと駆け出し、テディベアを手に持って戻ってくる。
目の前でマフラーを巻かれたぬいぐるみは、心なしか笑っているように見えた。
「長さもぴったりだ! メアリは器用なんだなあ」
「すごいでしょ!」
マルタお姉ちゃん以外には秘密にしたくって、いろいろ聞いて回ったかいがあったなあと嬉しくなる。クリスマスプレゼントに何を貰うのかの調査も、その一環だ。
喜んで貰えるかちょっと不安だったけれど、皆が褒めてくれて満足感で胸がいっぱいになった。

-----------------------------------------------

「ありがとね、ニコラス、アシュトン」
マルタがそっと二人に声をかける。ニコラスはやれやれといった風に溜息を吐いてみせ、アシュトンは柔らかく微笑んだ。
「あれでバレてないと思ってるんだからなあ」
「メアリとしては一生懸命だったのよ」
「あいつ隠し事向いてないな」
「いろいろ聞かれたら流石に何かあるのかなってわかっちゃうよね」
「それでも、何も言わないでいてくれたでしょう?」
笑うマルタに、ニコラスは視線をそらす。
「まったく、素直じゃないな、ニック」
アシュトンが零せば、ニコラスは皮肉で応酬し、マルタはその様子を見て微笑む。
ちょっぴり特別なアダムスハウスの一日が、今日も平和に過ぎていく。