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ジルク
2025-09-13 21:14:10
1441文字
Public
三佐(RESUME)
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2018年夏のある朝
CoC「RESUME」ネタバレ
RESUME通過後せかきえより少し前の三宮光佑。
ぶうん、と原付のエンジン音が聞こえた。
窓を振り返る。空は既に薄明かるく、ごく淡い青が広がっていた。
「もうこんな時間か
……
」
くぁ、と欠伸をしながら伸びをする。身体が重い。
開いていた厚い論文集に栞を挟み、ルーズリーフをファイルに綴じる。論文を読むのは情報のソースが確実なだけサイトを漁るよりも精査の作業は楽だが、如何せん読み解くのに時間がかかる。
怠い身体を引きずるように立ち上がり、からら、と網戸を開けた。外に人の気配はなく、ただ蝉の声が満ちている。
ベランダに出て軽く柵にもたれかかる。いつだったか「体重をかけすぎるな、対して丈夫じゃないんだから」と小言を言われたのを思い出した。確かに学生向けの安アパートは造りが甘いところもある。しかし、徹夜明けの身体はどこかに寄りかかってでもいないと立っているのもかったるい。
煙草を一本取り出し火を付ける。広がる煙を見ながら頭に浮かぶのは親友の顔だ。あと一時間もすれば、隣からも窓の開く音が聞こえ、煙草を持った彼がベランダに姿を現すだろう。何年も隣に住んでいれば互いの生活習慣は何となく把握できる。
あの冬の朝の光景を思い出す。駐車場の隅で煙草を吸っていた後ろ姿、からかうような笑み。どんな会話を交わしたのだったか、細かい部分はうろ覚えだ。
(忘れたくねえのに)
まるで夢だったかのように、少しずつ記憶は曖昧になっていく。それでも、あれは夢じゃないという確信がある。為さねばならないことがある。
一口、深く煙を吸い、吐いた。
瞼を閉じ、丁寧に記憶を掘り起こす。
展望台、掴まれた肩、笑みの消えた彼の表情。崩れる足元、轟音、圧迫感。振りほどけない腕、回数を重ねるたびに込められる力は弱まっていた気がするのに離せなかったその手。幾度かの繰り返しの後、一人で踏み出した足。振り返る。寂しそうな、泣きそうな、それでいて満足したような笑みを浮かべた親友。
『じゃあな、光佑』『まあ、元気で』
脳内に響く彼の声は、最期の言葉だというのに妙に柔らかく、優しく
――
。そのまま、彼は崖崩れに呑まれていく。
「っ、あ、」
胸元を押さえて蹲る。上手く息が出来ない。鼻の奥がつんと痛むのを感じ、目を見開いた。震える呼吸に集中し、ゆっくりと息を吸い、吐く。
(
……
まだ、大丈夫だな)
鮮明に思い出せる感情がある。それは彼を救うための原動力になるものだ。今を生きる彼と過ごす時間はどうしようもなく楽しいが、この時間は長く続かない。それを覚えていないと、束の間の幸福に溺れてしまいそうになる。
(夢なんかで終わらせてやるかよ)
それに。“なかったこと”にしてしまったとは言え、自分のために命を賭けた彼がいたことは事実だ。「人が死ぬのは、その死を忘れられたときだ」と誰かが言った。だからこそ、覚えてなくてはいけない。忘れてはいけない。
(それが、この道を選んだ俺がするべきことだろ)
灰が落ちそうになっていた煙草を、灰皿代わりの空き缶に捩じ込む。
立ち上がり、空を仰いだ。先程より青が濃くなっている。今日も暑くなりそうだ。
(
……
おっ、と)
足元がふらつく。頭が痛い。流石に少しでも眠るべきか。
ポケットからスマホを取り出し、日付と時間を確認する。水曜日。授業は2限からだ。
(4時間
……
起きられっかな
……
)
ぼんやりと考えつつ部屋へ戻り、ベッドに倒れ込む。今日は確か彼も2限からだったはず。声くらい掛けてくれるだろう。
働かない頭でそう思い、意識を手放した。
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