ふじしろ
2025-09-13 16:08:54
1957文字
Public マイ狂
 

大人になりたい

リコレクションafterのマイ狂。タスがあの結末を想像出来たかは半々かなと思ってます。
※前書いたマイ狂の後の世界です。こっ恥ずかしい告白合戦を繰り広げてやることやった後の話です。

俺たちの住処の廃ホテルの騒動が一段落して数日、俺は日々工業地区中を駆け回っていた。
確率が低いことは分かっているが俺はどうしてもヤツを見つけなきゃいけなかった。
いざという時の引きは強い方だ、そこに賭けるしかない。
そうしてバイトの時間以外は走り込みを兼ねて工業地区の端から端までヤツの姿を探し回った。
「あ! 見つけたぞ、おいコラ!」
とうとう目当ての姿を見つけて声を張り上げる。
俺の声にマイタスは怪訝そうにこちらを見遣った。
「荒鬼狂介か」
「おい、話がある」
マイタスの姿を目の前にして、ここ数日沸々と滾っていた怒りが頂点に達して彼を思い切り睨み付けた。
「お前、俺たちのこと、助けただろ」
「は?」
俺の言葉にマイタスは何を言ってると言わんばかりの表情を見せる。
「この間のことだよ。知らねえとは言わせねえぞ」
少し前、俺たちが住処にしている廃ホテルに再開発だとガラの悪そうな男たちが押し掛けてきた。
そこにマイタスはナルシスト野郎のカオストーンを持ち出してきてちょっかいを掛けてきた。
結局再開発だと言ってた野郎たちを退け、カオスワールドからホテルの持ち主の男を助け出した縁で俺たちは今のまま廃ホテルで暮らせるようになった。
つまりマイタスがちょっかいを掛けてきたから俺たちは住処を守ることが出来たのだ。
それが俺には堪らなく口惜しくて、気に食わなくて腹立たしかった。
「この間のことか。結局お前たちはあそこを追い出されたのか?」
「んなわけあるか! 仙堂さんが建て替えまでいていいって言ってくれたんだよ」
「それは良かったな。まあ、路頭に迷ったお前らの相手もつまらなそうだからな、結構なことじゃねえか」
「だからお前がそうしたんだろうが!」
声を張るとマイタスは訳が分からないと顔を歪めた。
「俺がしたことはあの男にカオストーンを渡しただけだ。後のことなんか知るかよ」
「てめェの言う事なんかやすやす信じねぇぞ。仙堂さんのこと知ってるとか何かあんだろ」
後でナルシスト野郎に聞いたが、こいつには不動産に関わる情報が集まってくるらしい。
だから何もないなんて言わせる気はなかった。
噛みつくとマイタスは呆れたように息を吐いた。
「あのな、虹顔市にいれば仙堂の名前はもちろん知っているが、何十年も前に病院送りになったヤツのことなんか詳しく知るわけがないだろう。まったくお前は俺のこと、いくつだと思ってるんだか……
「本当に知らないのかよ」
「もちろんあの廃ホテルのオーナーだから仙堂にカオストーンを渡したし、それでカオスが完成すればそれで良し、しなくても良し。お前らとちっと遊べれば良かっただけだからな、その後のことなんかいちいち考えちゃいねえよ」
呆れ顔で話すマイタスからは嘘を吐いてる空気は感じなかった。
本当にあの時のことはマイタスが仕組んだんじゃないのか。
沸点に達していた怒りはマイタスの様子にすっと引き、その代わりに急に恥ずかしさが募ってきた。
「その、勝手に思い込んでて悪かったよ」
しょぼしょぼと謝るとマイタスはふんと大きく鼻を鳴らした。
「ほら、お前、あの時にあんな風に言ってたから、てっきり情けでも掛けられたのかもって思っちまった」
マイタスと港の近くのホテルで話した時のことを思い出す。
ひどいことをする気はないと言う彼はあの時確かに優しかった。
だからこそ、そんな風に考えてしまった。
「お前のことは知らないが俺は自分のこととカオスイズムのことはしっかり分けるタイプなんでね」
マイタスは目を細めて嫌味ったらしく言う。
くそっと口惜しくなるのと同時にもっと大人になりたい、そう思った。
ガキだと言うには大きくなりすぎているが、大人かと言われると自分ではそうだとはまだ言えない気がする。
阿形の兄貴やエージェントを見ているとそう感じるし、目の前の男を見てもだ。
俺だったら、そんなことは絶対しないと思っていてもマイタスを前にしたら自分の思いが入ってしまうかもしれない。
まだそんな風にしっかり分けてると言い切れる自信が持てないかもしれない。
黙り込んでいるとマイタスは再び息を吐いた。
「一緒にするとてめえが辛くなるだけだからな」
「あ? 何か言ったか?」
ぼそりと呟かれた言葉が聞き取れなくて聞き返すが、マイタスは俺に背を向け何でもないと言うだけだった。
「もう用は済んだか? 俺は行くぞ。お前と違って暇じゃないんだ」
そう言うと彼は俺に背を向けたまま歩き出し、顔の高さまで上げた手を払って見せた。
その背中はすごく大きくて、早く追いついてその背中に並びたいと思って、自分の未熟さが胸を刺す。
ぜってえ直ぐに追いつくし追い越す。
遠くなっていく後ろ姿に改めてそう誓った。