羅繊(せら)
2025-09-13 12:29:10
10334文字
Public 日本語
 

🦅☀:魔王様の靴(全年齢版)

氷焔世界。
光の魔法で飛ばされた司は、何故か夜鷹の持っているスケート靴に意識が入ってしまう。
混乱していたら夜鷹による靴のメンテナンスが始まって……
R-18版はpixivにアップしてあります。

(えっ、ここはどこだ……?)
 俺はついさっきまでイノリさんやリオウさんと一緒にいたはずだ。しかし、突然の転移魔法を受けて、強制的に飛ばされたことだけは覚えている。
 喋れもしないし、動けもしない。しかし鷹の目のパッシブスキルにより、俯瞰して自分の状況を確認できた。
……!!)
 俺は鳥の魔王の腕に抱えられていた。だが、元の姿ではなく、靴の姿だ。
……俺、靴剣士用の靴になってる!?)
 そもそも、どうして魔王が靴剣士の靴を持っているんだ。
 魔王は俺の意識が自分の靴の中に入っているとは気付いていないようで、玉座に腰を下ろすと靴の手入れを始めた。
 まず、柔らかい布でブレードを丁寧に拭われる。
(な、何かこれ……
 愛撫されているみたい、と考えた時点でとんでもない思考に叫び出したくなった。なのに今の俺は靴だから、声を出すことはできない。
(んん……っ)
 物理的に分かれているのに、左右の靴のどちらにも俺の意識が乗っている。もう一方の靴のブレードも優しく拭われて、肉体がないにも関わらずぞわぞわする感覚に襲われる。
 魔王の黄金色の瞳にじっと見つめられているのもいたたまれない。彼がめちゃくちゃ格好良くて綺麗な顔をしているから、尚更。
(あ……っ、そんな、トウの先まで丁寧に拭かれたら……っ)
 ギザギザの部分を殊更丁寧に拭かれて、身体があったら身悶えていただろう、と思うようなやわやわとした刺激に耐えた。
(はぁ、やっと終わったか……?)
 安心したのも束の間、魔王は先が十字になったドライバーを取り出した。
 俺は導師として、靴剣士のブレードの調整をすることもあるから知っている。ドライバーで靴裏のネジを緩めて、ブレードの位置を調整するんだ。
 だけど、さっき柔らかい布で拭われただけでもやばかったのに、ドライバーでネジをぐりぐりされたりなんてしたら……っ。
(ひうぅ……っ)
 ネジの溝にぐっとドライバーの先端が押し付けられて深く嵌り込む。そうしないとネジ山が潰れてしまう、というのはよくわかっていた。特に靴裏のネジはブレードがぐらつかないよう固く締め付けるから、緩める時にも力がいる。
 ぎしりと微かに軋むような音を立てて、ネジが緩められる。
(うあぁ……ッ!)
 靴なのに、どうしてこんなに感覚だけが鋭敏なんだ。強すぎる刺激をどこかに逃がすことさえできず、意識だけで悲鳴を上げる。位置調整用のネジは片方で四本、左右の合計では八本もあるんだ。これを、あと七回も……
 食い込んでいたドライバーが抜かれたかと思うと、すぐに次のネジ穴にガチッと強く押し込まれる。
(んああッ……も、やだ、ああ゛ぁ……ッ)
 魔王の手によってもたらされるそれは、紛れもなく快感だった。
 身体がないから、神経が焼き切られそうな快感を感じていても逃げられないし、身体の限界を迎えて意識を飛ばすこともできない。
(うぐ……、やぁっ、ああんっ)
 達して果てることが叶わない絶頂を延々と味わわされているかのようだった。
 ようやく片側の調整用のネジが全部緩められたかと思うとわずかにブレードがずらされ、再び穴にドライバーが入り込んでくる。今度は押さえ付けられながら強く締め付けられるという苦行が待っていた。
 ぐり、とわずかに空いた隙間を埋め尽くすようにねじ込まれる。
(ひいっ、や、もう、入らないからぁ……っ、あ゛あ゛ッ!!)
 ドライバーを押し込まれながらぎちっと強く締められて、ネジ山が穴に擦れ、尖ったネジの先端が深くヒールに食い込む。
 俺がどんなに悲鳴を上げても、それが聞こえていない魔王は冷徹な眼差しで俺(靴)を見下ろして、休む間も与えてくれずに、淡々と、それでいて丁寧に作業を済ませていく。
(い゛、ぎ……ッ)
 魔王に見つめられながら一人で乱れているのは酷い恥辱だった。

 永遠に続くように思われた八回の締め直しという責め苦がようやく終わった頃には、精神的に疲労困憊だった。これでやっと逃れようのない快感から、解放される。
 鳥の魔王は俺を片腕に抱えて玉座から立ち上がり、どこかへ歩いていく。
 連れてこられたのは、靴剣士の修練場だった。魔王城にこんな場所があったなんて。
 修練場脇で床に下ろされて、嫌な予感がした。靴を持ってきた彼がここでやることなんてひとつしかない。
 長椅子に座った魔王が今まで履いていた靴を脱ぎ、俺の中に一気に奥まで挿入してきた。
(う゛あ゛あ゛……っ!!)
 せめてもっとゆっくりしてほしい、と思うものの、わざわざのろのろと靴を履くわけがない。踵の方をぴったりと収めるため、床にとんとん、と踵側のブレードを打ち付けて馴染ませられ、振動がダイレクトに響く。
(んうう、あ、あぁ……っ)
 俺の中は魔王の形にあつらえたようにぴったりで、隙間なく彼を包み込んでいた。
「ん……?」
 何かいつもと違う気配を感じ取ったのか、魔王が不審そうな声を漏らした。
 気付いてほしい、いや、気付かないでほしい。この美しい魔王に無様な痴態を晒してさげすまれるのは、耐え難かった。
「気のせいか……
 気付かれなかったことに安堵するが、これで終わりじゃない。もう片方が残っている。
 挿れやすいようべろを引っ張られ、俺を満たすものが容赦なく挿入された。
(やっ、今、無理……っ、あぐ……っ、うう゛う゛ッ!!)
 左右の靴どちらにも俺の意識と感覚があるから、もうみちみちに挿れられているのに再び挿れられる、という通常ではありえない感覚を強制的に味わうことになる。
(は、んう……っ、ああ、アッ)
 こちらも同じように踵をとんとんと隙間なく収められて密着感が高まった。
 つま先の部分だけは少し紐に余裕を持たせて、足の甲のところからハトメに通された左右の紐をぐっと力強く引かれる。
(ひう……っ)
 それに合わせて、俺の中が魔王をぎゅっと締め付けるのを感じた。
(あ……っ、やぁっ、そんなきつく、締めないで……っ、あううっ!)
 足首の部分で一際強く引き絞られて、抜けないようがっちりと固定される。魔王のしなやかな指先が器用に俺の紐を引いて、クロスさせながら左右のフックに引っ掛け編み上げていく。
(んっ、んん、あっ、足首の方、まで……っ)
 密着する部分が広がって、その分快感が増した。彼が指が紐をするすると這うのにまで感じたくないのに、どこに触られても刺激を拾ってしまう。
(はう……ッ)
 紐は最後にぎゅっと締められ綺麗なちょうちょ結びにされた。これ、見た目は普通のとあまり変わらないように見えるけど、簡単には解けない結び方だ……
 紐を締められるのはもう片方も残っている。俺は誰にも聞こえないのを幸いにあられもなく喘ぎながらきつく縛られていった。
 靴を履き終わった魔王が立ち上がる。
(んん……っ)
 彼の体重を全身で受け止めるのは、びりびりと痺れるような心地良さがあった。
 修練場の氷の上に乗った魔王が、靴の具合を確かめるように滑り始める。
(うあ、これ、やば……っ)
 俺は鷹の目のスキルにより、一番近くで魔王のスケートが見られる。彼はものすごくスケートが上手かった。ただ『上手い』なんてレベルじゃない。あまりにも巧みにブレードを使われて、ぞくぞくする。一番スピードが出るエッジの一点に乗られて、そこからまったくブレる様子がない。
(そうだ、この人は……
 俺は彼のことを知っていた。角が生えていたり前髪を下ろしていたとしても、どうしてすぐに気付かなかったんだろう。こんな風に最高に格好良く美しいスケートをする人を、俺は他に知らない。
 俺が十二歳の時に見た靴剣士の武闘会。そこで圧倒的な実力差を見せ付けて優勝したのは、黒髪金眼の靴剣士ジュン・ヨダカだった。彼は優勝した実力を見込まれて魔王討伐のための勇者に任じられ、討伐の旅に出て帰らぬ人となった。
 あんなに強い人が負けるはずがない、と思っていたけれど、魔王の城に向かった後の彼を見た者はおらず、魔王を倒した際に魔力に魅入られたとか強すぎる力を制御出来ずに暴走したとか、そんな噂が聞こえてくるばかりだった。
 俺は彼に憧れて、彼のような靴剣士になりたかった。でも、うちには靴剣士用の靴を買うお金がなかったから、せめて剣士に関わっていたくて導師になったんだ。
(ヨダカさん、俺、あなたに会いたくて……っ)
 呼びかけようとしても、今の俺の声は届かない。
 ヨダカさんは左のアウトサイドエッジにぐっと体重をかけ、右のトウで氷を蹴って宙に舞い上がった。これは、ルッツジャンプ。
(うあ……っ、あああ゛……ッ!!)
 空中にいる間に何回転したのかわからないくらいギュルギュルと回った彼は、シャッと氷を切って着氷する。美しい着氷を受け止めた衝撃と共に訪れた絶頂は、あまりに甘美なものだった。ただ単に欲望を吐き出すだけの行為で得られるものとはかけ離れている。
 こんな快感を知ってしまったら、もう知らなかった頃には戻れない。
(あ、あっ、ううっ、これ、好き……っ)
 スピンもステップも、全部、気持ちいい。
(ヨダカさんのスケート……すごい……
 今の俺は、彼を一番近くで感じられる。彼が次にどう動きたいのか、どう跳びたいのか、手に取るようにわかった。密着している俺まで、彼の一部になったような心地がする。
 ああ、でも……導師の助けなしに靴剣士の力を使い続けるのは、消耗が激しいはずなのに。
 ヨダカさんが前方に足を振り上げて跳び上がる。
……っ、ひああぁあ゛……ッ!!)
 着氷と共に、俺はもう何度目かわからない絶頂に追い上げられて、声にならない嬌声を上げた。

 途方もない時間が経った気がする。俺はその間ずっと気を失うこともできずに、ヨダカさんのスケートを見ていた。身体があったら前が見えないくらい泣いていただろう、と思うくらい、素晴らしいスケートだった。彼のスケートの素晴らしさに浸るには、敏感すぎる感覚が邪魔をするが、もうそれさえも期待してしまっている。
 そして、鷹の目で俯瞰して見ていたから、彼がただ滑っているわけではないことに、気付いてしまった。
 氷の上にブレードの軌跡により複雑で巨大な魔法陣が描き出されていく。これは……浄化の魔法陣だ。どうして……、魔王は瘴気を生み出し、魔獣を活性化させて被害を出しているのではなかったのか?
 完成した魔法陣はまばゆい光を放ち、浄化の効果を発揮して、消え去った。
 それを見届けたヨダカさんは、修練場から出て少し疲れた様子で長椅子に腰を下ろす。
(ん……っ)
 しゅるりと紐が解かれ、緩められていく。
(ぁ……っ、んん……っ)
 ずっと中をみちみちに埋め尽くされていて辛かったのに、抜かれると物足りない気分にさせられる。
 ヨダカさんの腕に大切そうに抱え上げられて、今はない心臓がどきどきする気がした。

 玉座の間に戻ってきたところで、扉がばぁんと開け放たれる。
「ツカサ先生! 助けに来まし……た、あれ?」
(イノリさん!)
 飛び込んできたのは、イノリさんとリオウさんだった。黒髪の少女とナチ先生の教え子もいる。こんなところまで、助けにきてくれたのか。
……誰」
「あの、金髪で背が高い男の人がここに来ませんでしたか?」
「さぁ、知らないな」
 ヨダカさんは俺を抱えたまま、玉座に腰を下ろした。そして、来訪者に構わず柔らかい布を取り出して、俺のブレードを優しく丁寧に拭い始める。
(ぁ……っ、だめ……っ、ん、んっ)
 イノリさんやリオウさんがすぐ近くにいるのに、そうして拭かれると感じてしまう。
「あの、でも、私の先生がこっちに向かって飛ばされてたって……
……誰も、来てないよ」
(や、ぁっ、ヨダカさん……っ)
 何故か、最初に拭かれた時よりも手つきが優しくて、硬いブレードなのにとろとろに蕩かされてしまいそうなくらい、気持ちいい。
(あっ、あぁ……ッ、そんな、溝の方まで……っ)
 イノリさんとリオウさんは、俺が見つからなかったことで、どうしよう、とこそこそ話し合っているようだ。
 俺を心配して来てくれたのに、こんな衆人環視の中で感じまくってるところを見られたりなんてしたら、死ぬしかない。
『あの、マスター、何かありましたか? いつもと雰囲気が……。それは新しい靴ですか?』
 黒髪の少女が、念話でヨダカさんに話し掛けているようだ。俺は何故かその内容が聞き取れてしまった。
『うん、今日から使ってる。最初に試し履きした時は硬すぎてバランスが悪いと思っていたけれど、ちょっと調整した後は、驚くほど足に馴染んで、具合がいいよ』
 今、ヨダカさんにものすごく褒められた?
 靴のことなのにとても嬉しい。
 黒髪の少女が首を傾げて、まぁいっかぁ、と呟く。
 えっ、俺がこんなことになってるのってもしかして……? 良くない! 全然良くないよ!!
 ヨダカさんは靴の水気を拭い終わると、革靴の部分にクリームを塗り始めた。彼の指先がくるくると余すところなく俺の革を優しく撫でていく。
(はぁっ、あん……っ、だめ、だめです……っ)
 ヨダカさんの手入れが丁寧すぎて、誰が傍にいようと耐えることなんてできず、俺はずっと喘がされっぱなしだった。
 イノリさんたちは、もしかしたらどこかで俺とすれ違ったのかもしれない、と一旦家に帰ることにしたらしい。黒髪の少女はイノリさんにべったりで、リオウさんと一緒に帰っていく。
……ふ、あぁ……っ、あ……
 玉座の間に二人きりになって、柔らかい布でクリームを拭われる快感に溺れる。
 靴になったまま、人の姿に戻れなかったらどうしよう。
 当然、人に戻りたいし戻れないと困るけれど、戻ったらヨダカさんのスケートを一番近くで感じられなくなってしまう。
 丁寧な手入れを終えたヨダカさんは再び俺を抱き上げて、別の部屋へと運んだ。

 連れてこられたのは、大きな寝台が置かれている、ベッドルームだ。
 ヨダカさんは俺を柔らかな絨毯の上に下ろすと、何かを持ってきた。
 それが靴の型崩れを防ぐ木製のシューキーパーだとわかって慌てる。
 そんなものを挿れられるなんて絶対に嫌だ。だけど、俺は動けもしないし、声も伝わらない。
(嫌だ、やめっ、ひっ、やああ゛……ッ!)
 無情にも固い木製の器具を挿れられて、バネがぐぐっと俺の中を押し広げる。
 ヨダカさんが挿入ってきた時と違い、それは俺にとって苦痛でしかなかった。
(やだっ、いやだぁっ、ヨダカさんっ、ヨダカさん……っ、助けて……ッ!)
 このまま放置されるなんて、耐えられない。
 伝わらないとわかっていながら、必死に彼の名前を呼ぶ。
…………
 ヨダカさんは俺をしばらくじっと見つめてから、シューキーパーを抜いてくれた。
 何か、伝わったんだろうか。
……うう、ヨダカさんじゃないと、嫌です)
 伝わるかどうかわからないまま、精一杯の思いを伝える。
 床に片膝をついたヨダカさんが、片方の俺を持ち上げて、つま先にキスをした。
「え……っ、わ、戻れた!?」
 出した声が空気を震わせる。
…………
 ヨダカさんが無言のまま、金色の瞳で俺をじっと見ている。
「あの、すっ、すみません、これは……っ」
 靴から戻った俺は、何も着ていなくて素っ裸だった。憧れのヨダカさんに突然裸体を見せ付ける変態になってしまって死にたい。
 急に肉体が戻ったせいで上手く動けないでいたら、ひょいと抱き上げられて、広いベッドに下ろされた。
「う、動けるようになったら、すぐに帰りますので……っ」
 半泣きで焦る俺に、ヨダカさんが覆い被さってきて、上から見下ろされる。
「君が……僕の、靴だったの」
「気持ち悪い思いをさせて本当にすみません、俺も不可抗力で……っ、んん……!?」
 上から唇を塞がれて、強引に唇を割られ、深いキスを仕掛けられた。
 えっ、ヨダカさんにキスされてる?
「んん、んう……っ、ふぁ、ん、うう……
 戸惑う俺の舌を絡め取り、じゅっと吸い上げて甘噛みしてくる。上顎の凹凸を舐められて甘えるように喉が鳴った。
 ヨダカさんとのキス、気持ちいい……
……ねぇ、僕じゃないと嫌、って、本当?」
「ほんと、です……ヨダカさんがいい」
 最後に呼び掛けたのが、聞こえてたんだ。さっきの辛かったことを思い出して、ぶわりと涙が溢れる。靴だった間は泣けもしなかった。
 溢れた涙を舐め取られ、目尻にキスされる。
……君は、人だった頃の僕を知っているんだね」
 上から抱き締められて、ヨダカさんの重みを全身で受け止める。それは靴を履かれている時のようで心地良かった。
「はい。あなたはずっと……俺の憧れでした。俺も、あなたと同じ靴剣士になりたかった……。でも今は、違う道を歩んでいて良かったと思っています」
 どうにか動かせるようになった両腕でヨダカさんの背を抱き締める。接触を拒まれないことにほっとした。今は導師の魔法を手助けする護符タリスマンが手元にないから、こうして触れていないと十分な効果が発揮できない。
 彼の身体は衣服越しだとしてもまったく体温が感じられないほど冷え切っていた。
……治癒キュア回復リカバリー
……っ」
 驚いて身体を浮かせようとする彼をぐっと抱き締めて引き止め、俺の魔力を行き渡らせる。
「あなたは大人だから……解除指導は必要ないかもしれませんが、魔法装衣そういもなしに、あの寒い場所で長時間滑り続けるのは無茶ですよ……
 導師と靴剣士はペアで旅に出るのが通例だ。だが、靴剣士のジュン・ヨダカは彼の魔力が強すぎたせいもあって相性の良い導師が存在せず、彼は一人きりで魔王討伐の旅に出たという。
 旅に出た頃の彼は、導師の助けがなくても自身の力のみで制限解除ができたはずだ。だけど、恐らく今のヨダカさんは魔法装衣の力を失っている。
……君こそ、媒体なしに魔法を使うなんて、無茶をする。相性が悪かったら、反動を受けるのは君だよ」
 ヨダカさんの手が気遣わしげに俺の頬を撫でる。彼の言葉は、どこまでも優しい。
「相性がいいのはわかっていたんです。あなたに履かれて滑っていた時、俺はあなたの一部になったような気分でした。魔力の相性が悪ければあんなに……気持ちよく、ならない……はずなので」
 靴剣士が実行する技にはすべて魔力を使う。それは靴とブレードを通して俺にも伝わっていた。
 だからといって自ら感じていたことを明かすのは恥ずかしい。でも、勝手に覗き見ていたことを明かさないのもフェアじゃない気がした。
「僕の技が、気持ち良かったの」
……はい」
 問い返されて、羞恥に身を焼かれるような心地がした。燃えるように熱くなった頬をひんやりとした指で撫でられる。
……可愛いね。……ねぇ、僕のものになって。……君の魔力は、性質は真逆なのに僕と同じで心地いい……、手放したくない」
 金色の瞳に射抜かれて、心臓が大きな音を立てる。この孤独な魔王に俺のすべてを捧げたい、と思った。
「わかりました。その代わり……あなたのことを、教えて下さい。……あなたが、何を守ろうとしているのかも」
「うん。……後でね」
 ちゅ、と優しく唇を啄まれる。その唇は、さっきよりも温かくなっていた。

  ◆ ◆ ◆

 そして翌朝。
 俺は、イノリさんが俺を探さなくていいように、伝書鳩を使って無事を知らせる手紙を送り、ジュンさんは国王宛に親書を送っていた。『ツカサという素晴らしいつがいができたから当分安心』というような内容らしい。俺が魔王の番になったって、大々的に知られてしまうな……

 俺は魔王城の中を案内してもらいながら、ジュンさんの話を聞いていた。
「かなり……広いんですね」
 一緒に歩いている間、恋人繋ぎで手を握られている。
 昨夜散々に乱れまくったこともあり、顔を合わせるのも手を握られているのも無性に恥ずかしい。
 魔力の相性がいいからなのか、気絶するまで抱き潰されたにも関わらず、朝からすっきりとした目覚めで体調は万全だった。
 ジュンさんの肌も髪も、ここで最初に見たときより輝きを増して、ツヤツヤしている。元から格好良くて綺麗だったのに、美麗さがパワーアップしすぎていて直視できない。
「僕が倒した先代の魔王が作ったものだからね。今使っているのは数部屋だけだよ」
 魔王の城はかなり広大だけど、現在使っているのはごく一部らしい。
 魔界は常冬で、凍り付いている広間がいくつもあるから、靴剣士用の訓練場として整備すれば、夏場の練習場所にちょうど良さそうだな、なんて導師の思考で考えてしまう。
 ジュンさんは二十歳の時に魔王討伐のためにこの城を訪れ、配下の魔獣と魔王を一人で倒したという。
 しかし、魔王を倒したことで魔界と地上の魔力量の均衡が崩れ、魔界の瘴気が地上に流れ出すようになってしまった。
 ジュンさんは奇跡の力を行使するために獣の力を手に入れ、自ら夜の国の王の座に就いた。その時に、魔法装衣の力は失ってしまったらしい。
 魔王が在位していれば瘴気の流出は抑えられるが、地面から湧き出す瘴気がなくなるわけではないので、定期的に浄化の魔法をかける必要がある。
 そのため、ジュンさんは広大な練習場の氷の上に靴剣士のスキルで浄化の魔法陣を描き、魔界全体に浄化の効力が及ぶようにしていた。
「それを一人で……なんて、どうしてそんな無茶をしたんですか」
「僕が適任だったから。他に誰も、同じことができる靴剣士はいなかった」
……それでも、一人で十四年続けるには重すぎる役目です……
 そうして、彼は長年導師のケアを受けなかったことで不調をきたし、不安定な魔力の影響を受けた魔獣鳩が地上で飲食店や農作物に被害を出す事態となっていた。各地で個別に対処できるレベルだったから良かったが。
 そういえば、俺が王様から鳥の魔王について聞いた時も、『魔王を倒せ』とは言われなかった。様子を見てきてってことだったのか? あの王様、指示が適当すぎてわかりにくいんだよ……
……これからは、ツカサが一緒にいてくれる」
 そうだよね、というように軽く指に力を込められた。
 隣のジュンさんと目が合うと、愛しげな眼差しを向けられて胸がきゅんとする。彼が『手放したくない』と求めたのは俺だけなんだ。
「はい、俺があなたの助けになれるのは嬉しい、です。……あのっ、ジュンさんに制限解除魔法をかけてみてもいいですか?」
 これは昨日、彼に俺の魔法を使った時から考えていたことだ。魔法装衣があるのとないのでは、消耗度合いがまったく違う。何より、装衣を纏ったジュンさんを見てみたい。
……いいよ」
 了承を得て、彼の身体を両腕でぎゅっと抱き締める。まだ護符タリスマンが手元にないからこうして密着するしかない。昨日もっとすごいことをたくさんしたのに、抱きついているだけでドキドキした。
「解除指導!」
 俺がジュンさんを導く、というのも何だかおこがましいが、導師の魔法は、対象者の魔力の流れを整え、本来の能力を十全に扱えるようにするものだ。
 魔法を発動させて一歩離れると、ジュンさんを中心にぶわりと光と風が舞って、彼の衣装が変化した。透け感のある黒い布地に金糸と銀糸で刺繍がなされ、キラキラ輝く宝石が散りばめられている、ものすごく格好良い衣装だった。
(ぎゃああああ! ジュンさんかっこいい!! ……あれ?)
 俺が上げた悲鳴は音にならない。
(えっ、何で、どうして……!?)
「僕の力を十分に引き出すには……確かに、それに相応しい靴が必要だね」
 靴の姿に変わった俺を、ジュンさんの手が優しく抱き上げた。
「どこにいってしまったのか、と思ったら、ツカサの中にいた……いや、これもツカサか」
(ん……っ)
 ジュンさんの手につま先の革を撫でられて、そわそわした。
「撫でられるのも気持ちいいの? ツカサ……可愛いね」
(えっ、もしかして、聞こえてます……?)
「うん。番の声なんだから、ツカサがどんな姿でも聞こえるよ。さっそく、滑りに行こうか」
(あ、あの……、俺、めちゃくちゃうるさい、かも)
 ジュンさんが格好良いジャンプを跳ぶ度に俺が足元であんあん言ってたら最悪では!?
「魔法装衣を纏った僕のスケート、見たくないの」
(見たい! 見たいです!!)
 武闘会で優勝した時のジュンさんも黒い魔法装衣で、十四年経っても忘れられないくらい格好良かったんだ。
「うん。たくさん見て、いっぱい感じて……ツカサの声を聞かせて」

 本来の能力を発揮したジュンさんのスケートは本当に凄くて、俺は声を抑えることなんて到底できずに喘ぎまくり、その後のお手入れでも感じすぎて大変だった。
 でも、彼と一体になって滑る甘美さは何物にも変えがたく、大切に優しくメンテナンスされるのも嬉しいのだから、どうしようもない。ジュンさんが俺以外の違う靴を履いて滑り、拭いたり磨いたりしていたら、嫉妬してしまうかもしれないと思うほどだ。

 ジュンさんのキスで戻してもらった俺は、またベッドでも愛されて、終わらない蜜月を過ごすことになった。

(終)