紫輝
2025-09-13 09:08:53
3582文字
Public リとヌと御仔の話
 

はじめてのおしゃしん

リとヌと御仔と写真の話。御仔と監視者が仲良しだったら可愛いよなっていうアレです(雑)。監視者にでっっっっっかい夢を見ています。KH履修済みの民なので。天才建築家のトランクとかもあるしほら!ね!

……んぅ」
 身じろぎと共に、レヴィの意識は不意に眠りの国から浮かび上がった。リビングは差し込む陽の光に照らされて暖かく、すぐそばには安心できるにおいがふたつ。ぱちりぱちりとラベンダーの瞳を瞬いて見上げた先に大好きな両親の顔を見つけて、レヴィはふにゃりと笑む。とうさまの綺麗なアメジストも、パパの透明なアクアマリンも、今は隠れていて見えない。どうやらレヴィと一緒にお昼寝している――それに気づいて、一緒が嬉しくて、レヴィはくすくすと忍び笑う。
 二人の瞳は目蓋の向こう側だけれど、その唇はゆったりと弧を描いていた。いつもレヴィに見せてくれる笑顔だ。なんだかとても素敵な気持ちで両親の顔をじっと見つめていて、いい事を思いつく。部屋を見回し、目的のものを見つけて、お昼寝を始める前から乗っていたパパの膝からそろりと降りた。振り向いて様子を窺うと、二人はちゃんと夢の中のようだ。どうやら起こさずに済んだらしい。ふう、とこっそり息をついて、レヴィは目的のものの元へ向かう。目指したのはレヴィの身長と同じくらいの高さのキャビネットだ。そこはパパの相棒である『凛流の監視者』の定位置だった。いつもパパの傍を飛んでいるそのマシナリーは、レヴィにとって親しみのあるものだ。写真を撮ってくれたり、声を記録してくれたり、パパを助けてくれたりする、大切な家族である。
 えっと、と呟き、えいと持ち上げたのは小さな踏み台だった。レヴィが「お手伝い」をするときのために用意されているそれをキャビネットの前に置いて、うんしょと登れば凛流の監視者の一つ目とレヴィのアイオライトが合う。
「りんりゅーしゃん、おきて」
 背伸びをして小さな手を伸ばし、ぺたぺたとその丸いボディに触れると、ピピ、と音がしてまばたきをするようにレンズが動いた。凛流の監視者がふわりと浮き上がる。どうやら起きてくれたようだ。踏み台から降りたレヴィの、顔の前に飛んできたマシナリーに語りかける。
「あのね、パパととうさまのおしゃしん、とりたいの」
 どこが耳か分からなかったのでレンズへ顔を寄せてひそひそ、思いついたいい事を打ち明ければ、答えるようにキュイン、と音を立ててから監視者はそのボディを回転させる。犬の姿のマシナリーが何かを探しているときのような動作に、レヴィはソファを指差した。
「パパととうさま、あっちだよ。ねんねしてるから、そっとだよ」
 しい、と人差し指を立てるレヴィの声に監視者は答えてくれなかったけれど、両親へ近づくマシナリーから音はしなかったから、きっと理解はしてくれたのだろう。そんなことを思いながらドキドキと待っていたレヴィの元へ、ランプを一度白く光らせた監視者が戻ってくる。白い光は『おしゃしん』の光だ。ころんとした部分をそっと両手で包んで、レヴィはお願いを聞いてくれたマシナリーに頬を寄せた。
「ありがとぉ、りんりゅーしゃん」
 浮き上がった監視者が、ふよんふよんとレヴィの頭の上を旋回する。まるでどういたしましてとでも言うように。凛流の監視者が記録した『おしゃしん』をみんなで見られるようにしてくれるのはパパだ。パパはよくお休みの日にとうさまとレヴィと一緒に写真を見るから、レヴィの思いついたいい事が『おしゃしん』になるのもきっとその時だろう。楽しみだなぁとくふくふ笑った口から、ふあ、と欠伸が漏れる。ごしごしと目を擦って、そういえばお昼寝が途中だったことを思い出した。
 両親の元へそっと近づく。もう一度膝まで登ったらきっと起こしてしまうだろう。それはだめだ。だけど二人がここにいるのに自分だけベッドに行くなんてもっとだめだ。寂しい。むむと悩んで、はっと気づく。寄り添って寝息を立てている二人の間の小さな隙間に。そこはパパととうさま、どちらの膝にも乗っていないときのレヴィの席だ。
 そっとソファへよじ登り、自分専用の居場所に小さな身体を収めてふすんと鼻を鳴らす。それから右手と左手それぞれで両親の手をしっかり握って、レヴィは大満足で目を閉じるのだった。



……あれ」
 いつものように、ローテーブルの上に写真を広げていたリオセスリが声を漏らす。
「どうした?」
「いや覚えのない写真があって」
 息子の笑顔や自分やリオセスリが映った写真に混じってほらと示されたそれは自宅で撮られたもののようだった。いつも家族でくつろぎの時を過ごすソファで、自分とリオセスリが寄り添って眠っている。
私にも覚えのない写真だ。いつ
「誤作動か?」
「あっ! それ、それね、ぼく!」
 そんな事あるか?とでも言うような、疑念の混じったリオセスリの言葉を遮るように、彼の背中にぴょんと抱きつき自分達の間から顔を出した可愛らしい犯人が自首してきた。ちゃんと撮れた!と誇らしげに喜ぶレヴィに、二人顔を見合わせて瞬く。
「レヴィが撮ったのかい?」
「ん! パパととうさま、にこにこですやすやだったから、りんりゅーしゃんにね、おねがいしたの!」
 とんとんして目を合わせてお願いしたら撮ってくれた、とレヴィは言う。俄かに信じがたい話だが、レヴィの触れた場所や触れ方が偶然機構を動かす操作に近かったのだろう。可能性はゼロではない――リオセスリが言う。このマシナリーに誰よりも詳しい彼が言うならきっとそうなのだろう。
「おしゃしん、うれしいときにとるってパパいってたでしょ? まねっこしたの」
 恐らくレヴィにとっての『写真』は、大切なものや忘れたくない出来事を記録するためのものだ。リオセスリがそんな時にシャッターを切っているのを、この仔はよく知っているからという、ヌヴィレットの予想通りの答えをくれたレヴィに、じわりと胸を温めたのはうたた寝する自分達の様に喜びを感じてくれる、我が仔の豊かで優しい心に対する感動と少々の気恥ずかしさだ。レヴィが生まれてから、煩わしいものでしかなかった写真が随分身近になった。記録や粗探しではなく、思い出を残すための撮影にはある種の高揚や心地良さを感じていると言ってもいい。それにしたって二人揃ってレヴィの「撮影」に気づかないとは。気が抜けすぎていると言うべきか。いやリオセスリであれば正しい自宅での過ごし方だと笑うだろうな、そんなことを考えながらちらと目をやった伴侶は、視線を泳がせて頬を掻いている。羞恥を覚えている時の彼の癖だ。きっとレヴィの言葉に同じことを思ったのだろう。
「俺たちが『にこにこですやすや』だったのを嬉しく思ってくれたのかい?」
「ん! パパととうさまがにこにこだとね、ぼくうれしい」
「そうか。レヴィは優しい仔だな」
 くふくふ笑う我が仔の頭を撫でると白い頬が珊瑚の色に染まる。ぐりぐりと手のひらに押し付けられる頭から伝わるもっと撫でての主張がたまらなく愛らしい。
これもレヴィかい?」
 自分の肩口で為されるヌヴィレットとレヴィの戯れにあたたかな眼差しを注いでいたリオセスリが、止まっていた手を動かして再び首を傾げる。目をやった写真は先ほどと同じ、ソファで眠る自分達のそれだ。今度の写真には自分達の間にレヴィがいた。各々の手に小さな手を重ねて眠っているレヴィは、自分達にも負けないくらいの『にこにこですやすや』を見せてくれている。
「可愛らしい」
「そうだな。可愛い」
 しみじみとそんな事を言い合ってからレヴィへと目を向けると、息子はアイオライトを瞬いて首を振った。
「うー? これ、ぼくしらない」
 ぼくじゃない。パパおきてた?
 流れるように濡れ衣を着せられかけたリオセスリがレヴィのように首を振って。
「俺も『にこにこですやすや』だったからなぁ。これを撮った記憶はないな」
 三人揃って首を傾げた、けれど。
良い写真だ」
 そっと写真を撫でて呟く。他の写真達のように付随する思い出はないけれど、他の写真達と同じように見ているだけで穏やかで幸せな気持ちにさせてくれる、素敵な一枚だと思った。
「ヌヴィレットさんの言う通りだ。記憶はないがいい写真だってのはわかる」
 これも残そう、リオセスリが噛み締めるように口にして保管分の束の上にその写真を乗せると、レヴィが自分の作品を指差して声を上げる。
「パパ、これも!!」
「いやこれは別に、」
「ぼくのうれしいポイするのダメ!」
「ぐぅ……
「観念するしかないようだ、リオセスリ殿」
 愛息子にこう言われてしまっては己の羞恥心を叩き伏せる以外にあるまい。唸るリオセスリに苦笑を向けると、彼はガシガシと頭を掻いてため息をつく。
わかった。レヴィのうれしいも残そうな」
「ん!!」
 よろしい、と言わんばかりの満足げな首肯と笑顔につられるように、二人肩を竦めて笑った。