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望月 鏡翠
2025-09-12 23:02:25
956文字
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日課
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#1840 捧げ物
#毎日最低800文字のSSを書く
賢女は私の荷を蹴り飛ばした。
価値のある宝物と旅の必需品が、混ざり合ってバラバラと床に散らばった。悪魔のような女だ。
案内人は転がってきた大粒の真珠を懐に入れたが、私はそれを見逃さずロバを追う鞭で叩いて落とした。
いずれも賢女たちが求めた神秘の品だ。金銭的価値以上の意味を秘め卜占でも行おうとでもいうかのように、意味ありげに配置されている。
「まずは西に向かったはずだ。あの女が一番御し易い。それに人好きだ。贈り物は子供の乳歯に乾いた臍の緒、それに男の喉仏と指が六本の手、角が生えた人間の頭の骨。中々たくさん揃えたじゃないか。だけどあの女の答えは否だ。捧げ物を受け取ってすらもらえなかった。話すら聞いてもらえなかったから相談料も無し。あのお人好しがね! その拒絶の意味をよく考えなかったらしい」
捧げ物の一つ一つを指差して、彼女は儀式の呪文の一部であるように、大仰に語った。
異様な空気に私と案内人は怯えて黙り込んだ。
彼女は別の捧げ物を指さしてまた吠えた。
「そしてアンタは東に向かった。あの女は金にがめつい。タダで話は聞いちゃくれない。持っていったのはなんだい。冬虫夏草に鯨の腹にできる石、大昔の龍の骨。それに南で取れる貴重な香辛料に、乳香。あの女は腕のいい薬師だものね。貴重な薬の数々、本当なら喉から手が出るほど欲しかっただろうさ。だけど結果は門前払いだ。扉を開けることすらしてもらえなかった。違うかい? 西の賢女から伝言があったのさ。あの二人仲が良いからね。アンタが来ると。だから話を聞いただけで金を取る守銭奴が、アンタからは金を取らなかった」
荷物の中には奇妙な虫や何か臭う石が、そのまま詰め込まれている。それらに混ざって場違いに、南の賢女への捧げ物だった海の宝石がキラキラと暖炉の光を反射する。
南も断られた。門前払いではないだけましだったが、あえなく断られた。
「世界を越えたいというだけで、どうしてそこまで拒まれるのか、私には理解できない。些細な願いのはずだ。叶えられずとも話くらいは聞いてくれてもいいと思うのです」
「ダメだろうね。誰に聞いたってダメだ。良心と知識があれば必ずそれを否定する」
北の賢女は、一欠片の良心も持ち合わせなさそうな顔でニヤニヤと笑っていた。
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