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望月 鏡翠
2025-09-11 22:42:36
871文字
Public
日課
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#1838 賢女の家
#毎日最低800文字のSSを書く
声をかける前に、しゃがれた声が家の内側から聞こえた。しゃがれているが想像よりも若い声だった。
賢女の家は白い煙が満ちている。それは紛れもなく黒い霧になって襲ってくる蚊への対策である。
人間がどうかも疑わしい彼女たちも、虫を厭うのだと思うと初めて親近感が湧いた。
しかし、草木も生えぬ極地でどうやって火を絶やさずにいることができるのかは、想像もつかなかった。
家は二重になっていて扉の内側にフェルトで作った分厚い幕がある。この辺りに住まう唯一の大型動物ジャコウウシの毛だろう。
煙は一度ドアの内側を含めた二重構造の内側を巡るようになっており家を暖めていた。
同時に来客を燻して、虫が中に入らぬようにしている。
充分に煙臭くなった後、私と案内人はようやく賢女の家に入った。壁が二重になっているせいで、外から見た時に比べて小さく感じる。
窓はなく穴蔵のように薄暗かった。
彼女は我々を見てせせら笑った。何事かを聞く前からまず、荷物を全て検めはじめた。
野営を獣が嗅ぎつけたとき、よくこういう気持ちになった。
荷を漁り、彼らのなわばりへの侵入者であるところの人間は、見聞が終わるまでの間、天に祈りながら待つしかないのだ。
自分たちの荷物が、彼らにとって警戒するほどの脅威でもなければ、奪うほど魅力的でもなければ、無事に夜を越えられる。
北の賢女は、荷物の全てを確かめると、鼻を鳴らして椅子に戻った。
「久しぶりに人が訪ねて来たかと思ったら、アタシは他の代用品かい。三方全てに断られたのなら、叶わない夢なんか捨てて生きるのが慎ましい人間の態度ってやつじゃないのかい」
他の賢女のことなど、一言も口にしていない。なのに、まるで荷物に手紙が入っていたとでもいうように、雄弁だった。
魔女は、話を続けるようだった。
それは少なからず、こちらの話も聞いてもらうことができる可能性を示唆していた。
椅子は用意してもらえなかったので、私たちは床に座り込み彼女の言葉を待った。
案内人は、立っていることに疲れただけだろう。
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