#章# 外伝・後日談
「最近
……司が、触らせてくれないんだ」
僕は慎一郎くんの家に来て、格好悪くぼやいていた。
「そっ、そう、なんだね
……」
司は今日、登校日で家にはいない。世界選手権が終わって春になったのに、未だにベッドルームは二つのままで、僕は司と一緒に寝てもらえていなかった。
僕が下手だったか、抱き方が気に入らなかったのか? しつこくておっさん臭かったか?
そうだとしたら改善するから教えてほしい。身だしなみや体臭には気を遣っているつもりだ。でもそういうことが理由ではないような気はしていた。しかし、『何もしないから』と言っても駄目だったし、『したいの?』と訊いても涙目で逃げられた。正直なところ辛いし、一度知ってしまった司を忘れることもできない。日々余裕が削られていく、煙草が欲しい。
司は現役の選手だし、十六歳だし、身体の関係を無理強いするつもりはないから、そのことは彼にも伝えている。
でも、せっかく想いが通じ合ったのだから、もっと触れたいしキスもしたい。
なのに『無理です』『あんまり近付かないでください』と彼に言われるのは非常に堪えた。
これが、今まで司に辛い思いをさせてきた報いか。
「はぁぁ
……」
特大のため息をついていたら、慎一郎くんが僕の前にお茶を置いてくれた。
エイヴァは気を遣ったのか、理凰をベビーカーに乗せて散歩に行ってくれている。
「司くんと、話はしたのかい?」
「
…………」
僕が一方的に近付こうとしすぎて、距離を保った上で改まって話というのはしていないかもしれない。
「まずは、そこからだね。司くんはまだ未成年だから、表立って応援というのはしづらいんだけど
……、司くんは出会った頃も今も、純くんのことが大好きだよ」
「
……うん」
「純くんがいなくなることを考えなくなったのは、僕もとても嬉しい」
慎一郎くんが淹れてくれたお茶は美味しかった。味を楽しむことを知ったのは、司と一緒に暮らすようになってからだ。
「きっと、司くんも嬉しくて、すぐには適応できないんだと思うよ。彼は僕の目から見ても、純くんを引き止めたくて必死だったから」
「
……そうだね。ちゃんと、話してみる。
……先に手紙を書くのもいいかもな」
口だと上手く僕の想いを伝えることができなさそうだから。
「ああ、それは良さそうだ。純くんは手紙だと饒舌だし
……自分のペースで落ち着いて読み返せるからね」
「うん」
そうして僕は、初めての恋文を書くことにした。
◆ ◆ ◆
「ただいま〜」
マンションのドアを開けて帰宅の声を掛けると、純先生が自分の部屋から出てきた。
「おかえり、司」
うっ、今日も純先生が格好良い。部屋着でもかっこいいってどうなってるんだ。いや、何も着てなくてもかっこいいんだから当然だった。
「
……これを、君に」
ずしりとした封書を手渡される。えっ、何?
札束だったら遠慮したい。進級祝いとか言って平気で札束を渡してくる人だから。
「恋文だよ」
「ふぁっ!?」
純先生の口から聞く初めてのワードに、俺は変な声を上げて固まった。
「
……僕から、君に。
……少し長くなってしまった」
少しという量ではない気がする、純先生からのラブレター。受け取った手が震えるほど感動した。
「あっ
……、ありがとうございます」
「
……読んでくれると、嬉しい」
普段と様子の違う先生が、ふいと顔を逸らす。
えっ、もしかして、純先生が緊張してる?
「今すぐ読みます!!」
「うん
……、ひとりで、読んで」
先生は自分の部屋に戻ってしまった。
分厚い手紙に何が書いてあるのか、気になって仕方がない。
俺は自分の部屋のデスクで、封筒から分厚い紙の束を取り出して深呼吸で心を落ち着けた後、手紙を開いた。
『拝啓 夜鷹司様』
純先生が書く字はとても綺麗だ。普段から先生が愛用している万年筆の、夜のような深い紺色のインクで、俺の名前が書かれている。
どうしよう、一行目を見ただけで既にどきどきしてきた。
(後略)
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