roku
2025-09-11 08:55:05
2828文字
Public 松深
 

深愛【松深】

・言葉なんかなくても伝わるだろ?の松と、
言葉がないと伝わらないピョン!の深の話

いつの間にか深い関係になってるふたりが好きです
深津の前ではよく笑う松本だといいなという私の思いがこもっています

pixivから移動(2025.5.14掲載)

初めて深津がやって来たのは大学生になり一人暮らしを始めてまだ日も浅い雨の日。帰り道で雨に降られ、この程度ならと走って帰れば玄関の扉を背もたれにして立っていた。理由は雨宿りだったが、深津の通う大学も、住んでいるアパートも、松本のそこからは随分離れた場所にあるので容易に嘘だとわかった。松本は、「突然降ってきたから濡れたピョン」と言うわりに雨粒が落ちた形跡のない深津の服を認めながらもそれをあれこれ言うこともなく、部屋の鍵を開け招き入れた。
「前から思ってたけど見た目のイメージに反して散らかってるピョン」
ソファにドサッと置かれた取り込んだままの洗濯物。キッチンには朝コーヒーを飲んだであろうカップがそのまま放置されている。
「どんなイメージだよ」
「リモコンにラップのイメージピョン」
「ははっ!」
そんなに潔癖なら寮には入ってないし、バスケなんて汗だくになるスポーツもしてないと笑う。
「確かに松本の言う通りピョン」
松本が放置していたものを片付けていると、深津が何やらリュックを開けてがさごそと中身を取り出した。
「何してんだ?」
「夕飯だピョン」
それは毎月28日限定のとりの日パック。高校時代、ジャンクな食べ物とは無縁に過ごしたふたりには考えられないくらいのごちそうだった。
「ははっ!お前はわかりにくいんだよ」
雨宿りでないことはわかっていた。だが本当の目的が何なのかまではわからずにいた。深津の住むエリアに店舗がなく、松本のアパートの近くにはあるそのチェーン店。松本はそういうことだったのかと合点がいった。

それからというもの、何かと理由をつけて深津がやってくるようになった。

◇◇◇

「あ、そうだ。これ渡しておく」
松本が握った拳を深津の前に出すと、深津は首を傾げつつも手のひらを拳の下で広げた。そこにぽとんと落ちてきたのは1本の鍵。
……なに、ピョン?」
「遅くなってすまないな」
「どういうことだ?」
驚きのあまり接尾語を忘れている。
「ん?お前が欲しいって言ってたから」
それは1週間前。テレビを見ながら互いのレポートを進めていた時だった。レポートをそっちのけにして深津が食い入るように見ていたドラマのワンシーン。頻繁にやって来る彼氏に対し、「いつでも好きな時にここに来ていいよ」と彼女が合鍵を渡していた。
「羨ましいピョン
ぽつりと漏らした深津の言葉を松本は聞き逃さなかった。
「いらねぇなら返せよ」
「いるピョン!」

それからというもの、何の理由もなく深津がやってくるようになった。

◇◇◇

ドラマに感化され合鍵を渡してからというもの、深津とは半同棲のような関係性が築かれている。
松本にとって深津はとても心地のいい存在だった。ふたりきりの空間に沈黙が流れても気まずくなることはなく、ゆったりと流れる時間は心を穏やかにさせてくれる。“波長が合う”というものがあるのならこれだろうと肌で感じていた。
ソファでうたた寝している深津の肩を抱いたり、酒に酔いとろんと潤んだ瞳で見つめるその頬をつまんだり、夕飯の準備を後ろから覗き込んでくる頭を撫でたり。こうしてスキンシップを図ればほんの少し驚いて、そしてふわっと表情を柔らかくする。松本はそんな深津を見るのが好きだった。
友情を超えたその感情は恋情よりも深い愛情であった。

「松本の初めてのちゅーはいつ、誰とピョン」
唐突に何だ?と怪訝な表情になるも、深津の視線の先にある画面を捉えて脈絡がないわけじゃないことを理解する。深津お気に入りのバラエティ番組でたった今話題になっているのが“初めてのキス”だった。女芸人はたいてい先輩の男芸人だったりするもので、それを見た深津が松本に訊ねたという流れだ。
「知りたいか?」
「ピョン」
「耳貸せよ」
ふたりしかいない部屋でわざわざそんなに近づかなくてもいいだろうに松本は深津に近づくよう促す。言われるがまま松本に顔を寄せた深津の唇に触れた“何か”
それは松本の唇だった。
「な、な、なっ何する、、ぴょ、ん」
離れた松本の瞳に映るのは目をぱちくりさせ顔を茹でダコのように真っ赤にした深津。
「ふっ、はははっ!」
動揺なんてしない。長年そう言われてきたはずのポイントガードは、松本の前では何一つ隠せないでいる。
「教えてやるよ。いつ、誰としたのか」
………やっぱりいい!」
「今、深津と」
「な、う、うそピョン
「嘘じゃねぇよ。深津は?」
肩を抱き寄せ軽く覗き込むように寄れば、その近すぎる距離にふいっと顔を背けた深津。
……じ、……ピョン」
「ん?」
山王で培った大きな声はどこへやら、テレビの音にかき消されそうなほど小さな声で「松本と同じピョン」と答えた深津に、「そりゃよかった」と笑った。

◇◇◇

合鍵を持っているにも関わらずインターホンを鳴らした深津は、日付も変わろうとしているのに近所迷惑だとドアの前に立ちはだかる松本に「たらいまぴょん」と舌足らずで抱きついた。
「酒くせぇよ」
「いっぱいのんらぴょん」
「強くねぇんだからあんまり飲むなって言ってるだろ」
呆れている松本は腰に巻き付いている深津の腕を掴んでずるずると廊下を引きずる。優しくない扱いに不満をもらすも、酩酊状態の深津が何を言っているのかわからない。それでも伝わるのはそれだけ長く一緒にいるからか。
「抱っこは無理だぞ」
「いじわるぴょん」
松本は深津をソファに座らせグラスに水を注ぐ。それを自ら口に含んで深津の後頭部を寄せ口づけた。
……ん、っ」
深津はごくっと喉を鳴らし松本の口内から移された水を満足そうに飲み込んだ。
「松本との関係性を聞かれたピョン」
水分によりアルコールが薄まったのか、ほんの少し酔いが醒めた深津が口を開いた。
「それで?」
………友達というには仲が良すぎるし、仲間かと言われれば今は違う。じゃあ
「恋人だろ?」
悩む深津に迷いなく答えた松本。その言葉に深津の中に残っていたアルコールが全て蒸発する。
「こい、びと?」
「だろ?」
……いつから?」
「いつからだろうな」
確かに始まりを告げるための言葉をお互い口にしたことはない。だが、深津が頻繁に訪れるようになり、松本が合鍵を渡して、週末は当たり前のようにふたりで過ごすようになった。その中でキスも、そしてそれ以上のこともしてきた。
「オレたち付き合ってねぇのか?」
松本は、恋人でないなら深津が自分をどういう気持ちで受け入れていたのかわからなかった。
「セフレじゃないピョン?」
「ぷっ、はははっ‼どんな発想だよ⁇」
……恋人って言っていいピョン?」
アルコールのせいで潤んだ黒目がちの瞳といつも以上に色っぽい唇。松本は吸い寄せられるようにしてその柔らかい唇にキスをした。
「当たり前だろ」と、そんなことはきっと口にしなくても伝わっているだろう。