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roku
2025-09-11 08:17:19
1998文字
Public
松深
バレンタイン【松深】
・両片思いの末の話
pixivから移動(2025.2.14掲載)
仕事から帰ってきた松本がその両手に提げている大きな紙袋を認めて、深津は大きな溜息を吐く。
「今年も大量だピョン」
「だって深津、チョコレート好きじゃねぇか」
「ピョン」
松本はそう思っているが、実は好んで食べるほど好きというわけではなかった。
高校生の頃、甘いものが苦手な松本がバレンタインに貰ったチョコレートをどうしようかと悩んでいたので「オレも食べるベシ」と助太刀したのが始まり。それはチョコレートが食べたかったわけでも、貰えなかった深津が松本を羨ましいと思ったわけでもない。ただ、松本にはそれを渡した女子の気持ちを受け取ってほしくなかったのだ。それは松本のことが好きな深津が抱いていた“嫉妬”という醜い感情だった。
まぁ、今思えば心を込めて贈ったチョコレートを同輩に分け与えているあたり、松本もなかなか最低な男だ。
それから2回、深津のもとへチョコレートを持ってきた松本は、なぜだか卒業したあとも「食べてくれるだろ?」と深津のもとへやってきた。
チョコレートのブランドはわからなかったが、ひとつだけ、毎年同じ店のものが入っていることに気づいたのは、大学2年、5回目の助太刀のときだった。それからも毎年、その店のチョコレートはその他たくさんのチョコレートに混じっていた。実を言えば深津は、ビターの中でほんのりお酒の味がするこのチョコレートが一番好きだった。ただ、毎年毎年同じ物を贈るというのは相当松本に入れ込んでいるのだろう。松本自身が気づいているかどうかはわからないが。
「オレはこれ以外いらねーピョン」
これを松本に贈り続けている女性の思いを全て食べ尽くしてやろうなどと考えてしまうほど深津は松本に思いを寄せていた。
「そうなのか?」
「これが一番好きピョン」
深津が漏らした本音に「ふーん」とほんのり目を細めた松本はどこか嬉しそうにも見えた。
「何だピョン?」
「それ、毎年美味しそうに食ってるもんな」
“毎年”。そう言った。松本は気づいていながらその女性の好意を無下にしているのか。どこまでも最低な男だ。だがそんな男を長年思っている自分もなかなかに毒されているなと、深津は思う。
「深津はさ、本当はチョコレートそんなに好きじゃねぇのか?」
「
………
ピョン」
「でもこれは食うのな」
「毎年同じものを贈り続ける重たい女に応える気はないんだろ?ならオレが食ってもいいピョン」
「んー。チョコレートをくれる女性の気持ちに応える気はねぇかな」
遊んで捨てる訳じゃないならまだマシなのかもしれないな。なんて考えすら浮かんでしまうのは片思いを拗らせた結果か。
「ただ、それを食べるなら深津には応えてもらわなきゃいけねぇな」
意味ありげな言い回しが引っかかり、ラッピングを解く手を止め顔を上げた。
「どういう意味だ
…
ピョン?」
テーブルに乗り出した松本の整った顔が目の前に迫る。
「ん?甘いもん好きでもねぇのに毎年このチョコだけは絶対食べるじゃねぇか」
「それは
…
これが美味いからで
…
」
「そうだろうな」
食べたことがないはずのチョコレートの味を知ってる様な言い方。
「食べたことあるピョン?」
「あぁ、あるぞ」
その返事は、深津がこのチョコレートの存在に気づく5回目までの間に松本が口にしたことを意味していた。
「誰からかも知ってる」
「
……
なのに応えてやらないピョン?」
「まぁ応えるのはオレじゃなくて深津、お前だから」
松本は箱から取り出したチョコを口に咥え深津の口へと押し付けた。驚きで開いた口の隙間にそれを押し込んで、最後にぷくりと分厚い唇に残ったチョコレートをぺろりと舌で舐め取った。
あまりに突然の出来事に深津は瞬きすら忘れて松本を見つめている。
「ははっ!深津でもそんな顔するのな」
驚くに決まっている。松本の
…
ずっと好きなやつからのキスだぞ。何を考えているんだ。
「何してる
……
ピョン」
「こっちは毎年お前が好きなチョコレート渡してんだ。お前はそれを一番好きだって食べてんじゃねぇか。これぐらいさせろよ」
松本の言葉を飲み込んだ深津の脳はその意味を都合の良いように解釈する。
「
……
松本、オレのこと、好き、ピョン?」
途切れ途切れに紡いだ言葉。
「そうだな」
「
……
遠回しすぎるピョン」
「まぁ、気づかないならそれでよかったんだ」
「
…
わけわかんねーピョン」
「で、深津は?」
「
………
何も用意してねーピョン」
まさか同じ気持ちでいるなどとは微塵も思っていなかった。拗らせた思いを一生閉じ込めて生きるのだと思っていた。だから簡単に好きだなんて口にできない。
「そうか
…
。なら深津でいいや」
細めた目。上げた口角。伸びてきた手。頬から伝わる熱。フッと息を吐いた松本の唇が重なり、心臓がバクバクと大きな音を立てる。
気づいた時には床が背中を受け止めて、松本は天井を背負っていた。
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