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roku
2025-09-11 08:10:33
2201文字
Public
松エジ
バレンタイン【松エジ】
・余裕たっぷりの松本とそれに翻弄される沢北の話
・少しだけモブ子出ます
pixivから移動(2025.2.14掲載)
「オレ、甘いものは苦手なんだ」
沢北がそれを聞いたのはただの偶然。だけどできることなら聞きたくなかった。
松本さん、甘いものダメなんだ
…
。
沢北の手に提げられたコンビニのビニール袋の中には行き場を失ったチョコレートたち。
「そっか
…
じゃあ仕方ない、ね
…
」
「すまないな」
「ううん、いいの。私こそごめんね」
そんなやり取りのあと、松本にチョコレートを受け取ってほしかった彼女は沢北の横を通り過ぎて行った。その目は微かに潤んでいた。
「
……
あ、すんません。覗くつもりはなかったっす」
「別に構わねぇけど」
「松本さんってモテるんすね」
どう考えても沢北の方が人気がある。にも関わらず、沢北はよくこういう言い方をする。
「嫌味か?」
「違いますよ。思ったことまんまです」
ふたりで廊下を歩き出したところで「松本くん!」と呼び止める声。もうすぐ部活が始まるというのに松本は足を止め律儀に振り返る。
「あ、えっと
…
」
松本に倣って同じように足を止め振り返った沢北は、圧をかけるように彼女を見下ろしている。そのアーモンド型の瞳に温度はない。
「あ、それ松本さんにですか?」
視線を彼女の手元に下げ、わかりきっていることをあえて訊ねた。
「え、あ、うん」
「松本さん、甘いもの嫌いなんですよね〜」
沢北は彼女がそれを松本へ差し出す前にそう断りを入れ、「ねっ?」と松本を覗き込む。
「
……
そうなの?」
「あぁ、まぁ
…
そうなんだ。だから受け取れない。すまないな」
「そっか、残念。じゃあ来年は甘くないものにするね」
そう言った彼女は沢北に向かってフッと口角を上げた。彼女は気づいていた。沢北が自分を牽制したことに。沢北は心の中で舌打ちをし、「早く行かないと遅刻っす!」と松本の腕を引いた。
「お前何怒ってんだよ?」
「別に怒ってませんよ」
ただ、オレはあの人嫌いです!
さすがにそこまでは口にできなかった。
◇◇◇
消灯時間が近づき、部員は各々部屋へと戻り、談話室には数えるほどしか残っていない。そんな中、松本がいないことを確認した沢北は、キッチンにあるゴミ箱のペダルを踏み蓋を開けた。そして持っていたビニール袋から手を放そうとしたその時
――
「それは?」
振り返ればそこに松本が立っていて、その視線は沢北の手元にあった。
「うわっ!ま、松本さん!?」
袋の中身を覗き込み「捨てるのか?」と訊ねた松本。
「まぁ
…
」
「受け取ったものは責任持って食べ切れよ」
どうやら松本は沢北が女子から貰ったものだと勘違いしているようだった。
「違いますよ!
……
受け取ってもらえそうにないんで、いらないんです
…
」
「お前が渡すのか?」
「だから、受け取ってもらえないから渡さないんですってば!」
「ならオレにくれよ」
「え?」
「オレが受け取ってやる」
そう言って差し出されたのは、節くれだっていて、ほんの少しかさついていて、沢北と変わらない大きさの手。
「待って!なんで?」
「あ?」
「甘いもの、好きじゃないって
…
」
「あー
…
あれが一番断る理由としては角が立たねぇかなと思ってな」
松本はバツが悪そうに頭をガシガシと掻いた。
「
……
松本さん、嘘とかつくんすね
……
」
沢北の言葉に、オレを何だと思ってるんだと笑う松本。
「沢北からのチョコレートなら大歓迎だぞ」
すうっと細めた目で捉えたアーモンドアイがスローモーションで大きくなっていく。
「
……
それは嘘?ほんと?」
「さぁ、どっちだと思う?」
松本は意味深な言葉を残し、沢北から袋を奪って何事もなかったかのように談話室を出ていった。
沢北は慌てて松本を追いその名を呼んだ。松本は、昼間女子生徒に呼ばれたときと同じように足を止めて振り返る。
「それ、コンビニの安いやつっすけど、本命なんで!!」
廊下に響き渡るほどの大きさで告げた思い。
松本は一歩、また一歩と距離を詰め、その手首を掴んで部屋へ引き入れ、閉めたドアに沢北を押し付けた。
「知ってる」
「へ?」
「お前がオレのこと好きなのは知ってる」
「
………
なんで?」
何かあれば「松本さん、松本さん!」とやたらと懐いてきて、いつからか何もなくても「松本さん!」と言い出した。相手をすれば花が咲くように笑い、スキンシップを図ってきた。それが“好き”ではなくて何だというのだ。
「バレてないと思ってたのか?」
こくりと頷きそのまま顔を上げない沢北。松本はしゅんとなった沢北の頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「なぁ」
「
…
なんすか」
隠していたはずの気持ちがバレていて、なおかつ知らないふりをされていた沢北は、ぶすっと頬を膨らましている。
「あれ、本当だからな」
「あれ?」
「おう。沢北からのチョコレートなら大歓迎だ」
もう一度、今度は耳元で小さく囁いた。
「え、な、何で!?」
「あ?そんなの決まってんだろ?」
沢北の膨らんだ頬を片手で挟んで、その唇に甘く噛みついた。
「
――
っ!!」
へなへなとその場に座り込んだ沢北をよそに、ビニール袋から取り出したチョコレートの包みを開けてぱくりと口へ放り込んだ。
「
………
な、な
…
なに、して、んす、か
…
」
「チョコレート食べてる」
「違うって!き、き、キス
…
しましたよね!?」
「おう。オレもお前のこと、好きだからな」
顔を真っ赤に染めた沢北を見た松本は、その唇に綺麗な弧を描いた。
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