roku
2025-09-10 08:52:06
7751文字
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リコリス【沢イチ】

※一之倉の初恋の相手は松本(ちゃんと沢イチ)
・自信満々でカッコいい沢北はいません
・『リコリス』の花言葉は「誓い」

pixivから移動(2024.11.3掲載)

「ねぇイチノさん」
初めはちゃんと“一之倉さん”だった。
いつからか沢北は一之倉を“イチノさん”と呼ぶようになった。それは一之倉がそう呼べと言ったからか、みんながそう呼んでいたからか、始まりは定かではない。
「なんだよ」
ベッドにうつ伏せたままペラペラと雑誌を捲る。
「べつにー」とつまらなさそうな声に軽く視線を送り、「そ」と短く返し視線を元に戻した。ベッドサイドに腰を掛けていた沢北が、よいしょと膝を乗せたことでギシッと軋んで背中に近づいた気配。
「聡さん」
名前を呼んだ沢北の声は「ねぇ、かまって」と言っているようで、一之倉は雑誌を閉じて顔だけで振り向いた。
チュッ
待ってました、といわんばかりのタイミングで重なった唇はすぐに離れ、代わりに沢北の全体重が一之倉の背中に乗っかった。
「重たい」
「少しだけ。ね、いいでしょ?」
甘く強請る沢北に「だめ」と突っぱねると「何で〜!?」と涙目になる。
……顔」
「ん?」
「これだとお前の顔が見えない
最後の方は、顔を埋めた枕の中に吸い込まれ、沢北の耳にはっきりとは届かなかったが、坊主頭のせいで露になっている耳や首筋が真っ赤で、何となくわかってしまった。
「待って!もう一回ちゃんと言って!!」
「言わな……わぁっ!」
沢北によってくるりと反転させられた身体は仰向けになる。目の前でぱぁっと咲いた沢北の笑顔に、緩みそうになる口元をきゅっと結んだ。
あぁ、こいつ本当にオレのことが好きなんだな。
一之倉の手首を固定したまま絡まった指先。シーツに縫い付けられたその手は沢北の手を軽く握り返した。
「ねぇ、キスしていい?」
「さっきしただろ」
素直にいいとは言えなくてこんな言い方しかできない。
「さっきのとは違うやつです!」
沢北がわざわざお伺いを立てるのは、一之倉の気持ちをはっきりとその口から聞いたことがないからだった。コートの上では自信満々のスーパーエースも、コートの外ではただの高校生。恋愛に関していえば普通の高校生よりも不器用な初心者だった。
一之倉は、沢北が自分にどこか遠慮していることはわかっていた。その原因が自身にあることも。だけど何をどう表現することが正しいのかわからずにいつまでも気持ちは口にできないままでいた。
だから、いいよという返事の代わりにゆっくりと目を伏せた。



明日沢北はアメリカへと旅立つ。
海が見たい。そんな沢北の最後の願いを叶えるために寮から少し離れた海までやってきた。寮を出て「競争しましょ!」と走り出した沢北を追い、なぜ最後の日にこんなことと思ったのは言うまでもない。
「お前な、せっかく
せっかくふたりきりなのだ。手ぐらい繋いでも誰も見ていない。一之倉はそう言おうとしてやめた。
「??」
最後ぐらいきちんと思いを伝えなければ後悔すると思いながらも続きを紡ぐことをためらっていると、あっさりと攫われてしまった手。
「なっ!!」
「へへっ。ふたりきりだし誰も見てないからいーじゃん!」
……そうだな」
その手に指を絡めてきつく握り足を止めた。
いちのさん?」
一歩先で足を止めた沢北が振り返る。
「オレ、沢北のこと、好きだよ」
沈みかけた夕日に向かって叫ぶ、なんて青春みたいなことはしないけれど、その声は波の音に掻き消されることなくはっきりと沢北へ届いた。
………ほんと?」
こくりと頷けば視界が真っ暗になった。抱きしめられていると気づいたのは、沢北の大きくなる心音が鼓膜に響いてきたから。
「どうしよう
「なんだよ?」
……すっげぇうれしい……
肩に額を埋めてズズッと鼻をすすっている。
「泣き虫」
沢北の広い背中に腕を回す一之倉の心臓もまたトクトクと速度を上げていった。
「イチノさんも、ドキドキするんだね」
またへへっと笑う沢北に「知らない」と腕の中で俯けば、身体をそっと離した沢北の手が両の頬を挟んだ。一之倉は次に続く言葉を知っていた。だけど沢北の口からその言葉が紡がれることはなく触れ合った唇は、ほんの少し震えていた。
「イチノさん。オレいっぱい手紙書くから、ちゃんと返事くださいよ!!」
「オレに手紙書くよりやることあるだろ」
もちろん手紙が届けば嬉しいだろう。だけど沢北には何よりもバスケを優先させてほしい。そんな気持ちから出た言葉だった。
後ろ手に組んで歩き出した一之倉を数歩で追い越し「恋人に手紙を書くのは大事なことなんですよ!」と立ちはだかるように両腕を広げた。わかってるんすか!?と涙目で訴えるので「わかったよ」と観念した。すると沢北はぎゅっと握った拳から小指を立てて一之倉の目の前に差し出した。
「約束です」
「子どもじゃないんだからそんなこと
「してください!……オレ、まだ子どもだから」
ぶすっと唇を突き出して拗ねるその姿はまさに子どもで、くすりと笑ってしまった。
「ちょ、何笑ってんすか!?もぉ〜」
指切りひとつで、ここからひとり羽ばたいていく沢北が笑顔でいられるなら。
そう思った一之倉は同じように立てた小指を絡ませた。



沢北からは約束通りたくさんの手紙が届いた。内容はバスケのことばかりで、それが何より沢北らしかった。手紙の最後はいつも「イチノさん、大好き」と締めくくられていて、その決して綺麗とは言えない文字をなぞり沢北を想った。一之倉はその都度返事を返すことはなかったけれど、何回かに一回近況を報告する手紙を書いた。ただ、一度も好きだと文字にすることはできなかった。

大学生活が始まってからは忙しくなったのか手紙の数が減った。それでも普通に比べれば多い方だった。一之倉は少ないながらも近況を綴った手紙を送り続けたが、返事の頻度はさらに減っていき最終的に沢北から手紙は来なくなった。
恋人に手紙を書くのは大事なことなんですよ!
笑顔で言った沢北を思い出して、もう大事なことではなくなったのか。それとも向こうに好い人ができてもう恋人ではなくなったのか。そんなことを考えるようになり、一之倉も筆を執るのをやめてしまった。



20歳になったらみんなで飲みに行こう!
卒業前にバスケ部のメンバーそんな約束をした。そしてその連絡は野辺からやってきたはずなのに、現地へ赴けばそこには松本しかいなかった。聞きたいことは色々あったけど、何だか面倒になったので止めた。初めての酒が松本とのサシ飲みであることにどこかくすぐったい気持ちになった。
酒のメニューを開いたはいいが、何せふたりとも初めてでよくわからなかったので、一之倉が職場の飲み会でよく聞く「とりあえずビール?」というセリフを投げかけた。松本はそうだなと賛同し、ビールで乾杯した。お互い一口流し込んで「「苦い!」」と顔を顰めた。慣れても美味しいと感じる日が来ない気のするビールをちまちま飲みながら、松本は大学生活を、一之倉は社会人生活を語り合った。
「そういえば、沢北帰ってくるんだな」
「えっ?」
松本の言葉に枝豆を運ぶ手が止まった。
「聞いてないのか?」
………知らない。いつ?」
「確か来週の土曜だったかな?」
………そっか」
ただの先輩である松本が知っていて、恋人であるはずの自分が知らないなんて。やっぱり恋人じゃなくなっていたのだろう。
胸の奥の方がチクチクと痛み始めた。それを掻き消すように目の前の焼酎を流し込んだ。
「おい、一之倉!そんな勢いで飲んだら危ねえぞ」
「これぐらい大丈夫だよ」
大丈夫なわけもなく、危ないと言った松本の言葉通りしばらく経つと頭がふわふわして松本の話し声が遠くなっていった。



重い瞼を上げればそこは知らない場所だった。だけど一之倉が今居る場所がどこなのかをすぐに理解できたのは、高校3年間を過ごしたあの部屋と同じ匂いがしたからだ。
……松本」
ベッドの上で上半身を起こし名前を呼んだ。
「おぉ、大丈夫か?急に突っ伏したからびっくりしたぞ」
「ごめん」
ほんの少し大人になった大学生の松本がひとりで暮らしている部屋でふたりきり。広さは寮と変わらないから距離も近い。あの頃はふたりきりになると松本への気持ちを隠すことに必死だったけど、今、胸の高鳴りも、苦しさも感じないのは沢北がいるからにほかならない。だけどそんな沢北から帰国の連絡はなく、それは沢北の心が変わってしまったことを物語っていた。
一之倉は背中を丸め、立てた膝を抱え込んだ。
「ほんとにごめん
「沢北と喧嘩中か?」
ベッドに腰をかけた松本がミネラルウォーターのペットボトルを差し出し問いかける。
……違う」
「まさかとは思うけど、別れてねぇよな?」
“別れる”
その言葉は、少し前から一之倉の心の奥深くに刺さって抜けないトゲとなっていた。
……どうだろ」
「ははっ!何だ、それ?」
「オレは別れたつもりはないし、別れたいと思ったこともないけど……沢北は違うかもしれない
力なく溢れた本音。松本は何と言葉をかけるべきか、悩んでいる。
……あいつモテるから、やっぱり女の子がよくなったんだと思う」
「そう、沢北が言ったのか?」
ほんの少し怒りを含んでいる声色に、なぜ松本が怒っているのかと不思議に思った。
「直接は言われてないけど、もう、手紙のひとつもこなくなったから」
膝を抱える腕にさらに力が入る。
「そっか。じゃあオレにしとくか?」
………え?」
あまりにも流れるように言うので聞き間違いかと思ったが、松本の表情は真剣そのものだった。
「あの頃オレは一之倉のことが好きだったから」
初めて聞いた松本の気持ちに驚きを隠せない。
「一之倉もオレのことが好きだっただろ?」
松本は自身に満ちた表情で、一之倉が沢北と付き合うと決めた日に捨てた気持ちを紡いだ。
「だけどいつの間にか沢北に攫われてた」
「ちょっと待って!」
手のひらを松本の前にかざして言葉を遮るけれど、松本に口を結ぶ気配はない。
「あいつがやって来る前に伝えればよかったと何度も後悔した」
今さらそんなことを言われたところで、一之倉はどうすればいいのかわからない。
「あいつが一之倉に寂しい思いをさせるなら、今度はオレが一之倉を攫う」
言うやいなやベッドに乗り一之倉を押し倒した。一瞬にして一之倉の視界は天井を背負った松本だけになる。近づく松本の顔。逃げなければと思うのにの身体が言うことを聞かない。
「なっま「松本さん、ストップ!!」
バタンッ!と勢いよく開いた扉の向こう側には居るはずのない人物。
……なん、で?」
状況が理解できなくて、声の主に向け絞りだせたのはたったひとこと。
「イチノさんこそ松本さんと何してんすか?」
「違うんだ、沢北!これは……
これは?どんな言い訳を並べても沢北には届かない気がした。なぜなら沢北は一之倉が松本に思いを寄せていたことを知っているから。
「これは、何ですか?」
………見ての通りだよ」
「「は?」」
一之倉の答えに松本と沢北、ふたりの声が重なる。
「え?」
「イチノさんはオレの恋人でしょ?」
……まだ、恋人なの?」
「これからもずっとそうだし!!だからいい加減松本さんはイチノさんの上から退いてください!!」
沢北に言われ、「おぉ、すまん」と素直にベッドから下りた。
……それとももしかしてまだ松本さんのこと好きなんすか?」
アーモンド型の瞳は潤んで綺麗に整えた眉が頼りなく下がる。
「そんなわけないだろ!!オレがどんだけお前のこと好きだと思ってんだよ……
一之倉はもともと好きという気持ちを言葉で伝わることが苦手だった。沢北が同性だったからなおさらで。それでもできる限り形で伝えてきたつもりだった。なのに何ひとつ伝わっていなかったことが悲しくて、シーツにくるまり壁側に寝返りを打ち沢北に背を向けた。
「そんなの、わかんないじゃんイチノさん好きって言ってくれないから……
いつも自信満々の沢北の弱々しい声に首だけで振り返った一之倉。
「ごめんな」
「え?待って!そこは「好き」でしょ!?」
流れとしてはそうだったが、振り返った一之倉の視界に入った家主の存在を思い出したのだ。
「いちゃつくなら帰れよ」
「あ、松本さんちでした。ほら、帰りましょ」
一之倉の身体を起こし肩を抱く。その行動があまりにも自然すぎてモヤモヤした。
「慣れてるな」
小さな呟きを拾った沢北は「それ以上くだらないこと言うと怒りますよ?」と唇を突き出しながら、一之倉の手を絡め取った。
「松本さん、ありがとうございました」
「おぉ。もし次同じようなことがあれば遠慮なく一之倉のこともらうからな」
「松本!?」
「もうないので安心して女の子と付き合ってくださーい!」
「はいはい」
ひらひらと手を振る沢北を適当にあしらい、ふたりを見送った。



「来週の土曜じゃなかったのか?」
コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いて訊ねた。
「あざす。松本さん、そう言ってました?」
「うん」
受け取ったコーヒーに口をつけ「あの人たまに適当っすよね」と笑う。一之倉にしてみれば松本が適当かどうかより、なぜ自分には帰国する日を教えてくれなかったのか。それが気になった。
「あ、何でイチノさんに言わなかったか?って思ってます?」
図星を指され、そういえば沢北は意外と人をきちんと見ているタイプであることを思い出した。
「まぁ
「不安だったんです」
「え?」
「大学入ったらバスケもそうだけど、それ以外も何だか忙しくなってイチノさんに手紙書く時間すらなくなってってそれでもイチノさんは変わらず手紙くれてたのになくなったから……。きっと約束を守れないオレに愛想を尽かしたんだってそう思ったら言えなかったんです」
ごめんなさいと両手でマグカップを握りしめる。
「オレもごめんな」
伸ばした手で沢北の頭を撫でる。
まさか沢北がそんな風に思っていたなんて考えもしなかった。
「オレ、女の子がよくなったなんて一切ないんで!」
……オレ、沢北に言った?」
「えっ、あっ、いや、これは
松本には言ったが沢北に言った覚えがなく、床に両手をついて下からグイッと顔を近づければ視線を泳がせた。
「これは?」
「ごめんなさいっ!!電話
「電話?」
「繋がってたんです。松本さんと」
………は?」
―――てことなんです」
沢北の話はこうだ。
一之倉の本音が見えなくて松本に相談した。すると電話がかかってきて、黙って聞いてろと言われ大人しく聞いていたそうだ。
「どこから……?」
「イチノさんが松本さんちで目覚めたところから」
「全部じゃないかよ!」
はぁ〜と大きな溜息をついてベットにダイブした。
「イチノさん、オレのことめっちゃ好きじゃん」
「そうだよ!悪いか!?」
枕に顔を埋めれば、あの頃のように背中に覆い被さってきた。
「悪くない。嬉しい。もっと言って」
沢北が耳元で囁やけばビクッと反応する身体。
「重たい」
「違うし」
「退けよ」
……あっ!」
沢北は学生の頃に同じようなことがあったのを思い出した。あのとき一之倉は確か「顔が見えない」そう言ったはずだ。
一之倉の上から身体を退かせ、隣に膝枕をして寝転んだ沢北は、へへっと眦を下げた。
一之倉は沢北に向き合い胸に額をくっつける。
「沢北。好きだよ。ごめんな。不安にさせて」
「イチノさぁぁぁん」
一之倉の身体を力一杯抱きしめ、うわーんと大きな声を上げて泣き出した。
「ちょっと!うるさい!」
「だってぇ〜イチノさんがぁぁ〜!!オレも好き!!ずっと好き!!」
「はいはい、ありがと」
背中をぽんぽんと叩いてあやす。
「うぅぅ……アメリカ帰りたくない……
バスケ一筋の沢北がそんなことできるわけないのに、そう思ってくれたことが嬉しかった。
「ちゃんと戻ってバスケしろよ」
………イチノさん」
「ん?」
「キス、していい?」
腕の隙間から見やった沢北があまりに真剣な顔つきなので思わず笑ってしまった。
「ちょっとイチノさん、何で笑ってんの!?」
「今さらそれ聞くんだって思って」
「聞かなくていいんすか?」
「あたりま――ん」
言い終わる前に塞がれた唇。あの頃とは違う、もっともっと深くて熱いキス。沢北の長い舌が一之倉の舌を絡め取る。くちゅくちゅといやらしい音を立てて咥内を侵していく。
「んっ……さ、わ……
背中に回した手が無意識に沢北のシャツを掴む。
「イチノさん、かわいい。」
一之倉を引き寄せた沢北の下半身は熱を帯びている。
「沢北!?」
「ごめんなさい。元気になっちゃった」
へらっと表情を崩した沢北は、ごめんなさいという言葉とは裏腹に全く悪いと思っていない。
「ねぇ、イチノさん
沢北はあの頃のように遠慮がちに一之倉を呼んだ。沢北が言わんとしてることはもちろん一之倉にきちんと伝わっている。
「続き、しよっか」
「いいんすか?」
「当たり前だろ」
沢北は一之倉を抱きしめくるりと体勢を変えた。一之倉の視界いっぱいに今にも泣き出しそうな沢北が映る。
「泣くなよ」
頬に手を添えてフッと口もとを緩めた。
沢北は添えられた手のひらにチュッと口づけて「泣いてないっす」と強がっていた。



「イチノさん」
「ん?」
沢北の左の腕の上に置いた頭を軽く横に向け短く返事をすれば、「ずっと一緒にいたいです」と、沢北は仰向けで天井を眺めたままぽつりと漏らした。
「別れないよ」
「うん。知ってる。でもそうじゃなくて離れたくないっていうか何ていうか……
いつもはストレートな沢北が言い淀んでいる。
「どうした?」
ふぅと一呼吸して意を決した沢北は、視線を天井から一之倉へと移し、「いつかアメリカに来てくれませんか?」と告げた。
……アメリカか」
「やっぱ今のなし!聞かなかったことにしてください!!」
一之倉の反応に慌ててすぐに否定した。
すると一之倉の薄い唇が「アメリカ、いいな」と綺麗な弧を描いた。
「イチノさん?」
「アメリカ、行くよ」
嬉しさのあまり、アーモンドアイに涙を溜めて鼻を大きくすする沢北に「約束な」と差し向けれた小指。
「イチノさぁん!!好き!!本当に好き!!」
がばっと勢いよく抱きついた沢北は泣き止む気配がなく、一之倉の肩口に額を擦りつけている。
「お前はずっと泣き虫だな」
抱きしめ返して頭を撫でる。
……ごめんなさい」
「まぁそういうところがかわいいからいいけど」
言葉にしなければ伝わらないことを知った一之倉は、今まで伝えられなかった分もこれから口にしようと決めた。
……イチノさん。オレがアメリカに戻る前に指輪プレゼントさせてください」
一之倉の左手を取り、薬指のつけ根にキスを落とす。
「ペアだったら貰ってやる」
「当たり前じゃないっすか!!」
へへっと幸せそうに笑う沢北を見て、一之倉は初めてちゃんと『恋人』になれた気がした。