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roku
2025-09-10 08:42:18
1588文字
Public
松エジ
初詣【松エジ】
・初詣には行ってない
pixivから移動(2025.1.4掲載)
「年が明けたら初詣行きましょうね!」
そう言って笑っていた沢北は今、松本が電源を入れた画面の向こうで鳥居を背にして「あけましておめでとうございまーす」と清々しいまでの姿を全国にさらしている。
なんたらアワード受賞でのスーツ姿も似合っていたが、袴姿も様になっている。イケメンは何をしてもイケメンということか。そんなことを考えながら寝起きでコーヒーを啜った。
傍から見れば松本だって同じようなものだが、本人はそうは思っていないらしい。
ほとんど休みなく働き続けている時は、まとまった休みが欲しいと願うのに、いざその時が来れば時間を持て余している。理由はひとつ。沢北がここにいないから。
その番組は、進行役の芸人とタレントが去年活躍したスポーツ選手とともに初詣に行くというものだった。
「沢北選手は初詣の思い出はありますか?」
参道を進みながら投げかけられた質問に「まだないです」と何の面白みもない答えを返す。その顔は不満を全面に押し出していた。
何やってんだ、アイツは
…
。ちゃんと仕事しろよな。
オープニングの清々しさを失った沢北に、そんなことを思った。
◇◇◇
「おかえり」
無言のままドカッとソファに座った沢北に声をかければ不貞腐れたまま返ってきた「ただいま」
「お前な、生放送であの態度はまずいんじゃねぇのか?」
「え?見てたの!?」
「偶然だ。ただ仕事を受けた以上はきちんとやりきれよ」
そんなことを言われても、沢北はこの仕事をしたかったわけじゃない。マネージャーが勝手に引き受けたのだ。それを知った沢北は断りたいと交渉したが、その願いは聞き入れられなかった。
「嫌だって言ったし!やりたくなかったし!でもマネージャーが
…
」
「嫌でもやりたくなくてもやり切るのが仕事だろ?大人として責任は果たすべきだ。それにお前は“沢北選手”なんだよ」
松本の言っていることがわからないわけではない。だけど“沢北選手”である前に、“沢北栄治”なのだ。松本にはそれをわかってほしかった。なぜなら約束したのだ。今目の前にいる松本と、初詣に行こうと。松本は人混みが苦手であるにも関わらず、「元日じゃなければそこまで混んでねぇし行くか」と笑ってくれたのだ。なのに沢北の年明け初の仕事が初詣だったせいで、その約束を果たすことができなかった。それだけでも苛々していた沢北だったが、「初詣の思い出は?」などと聞かれ、これから作るはずだった思い出をダメにされて我慢できなかったのだ。
「オレは松本さんと初詣に行くの、楽しみにしてたのに!」
「
……
はぁ」
聞こえたため息に、堪えていた涙がぽろりとこぼれた。
「
……
やっぱり行きたくなかったんじゃん!オレばっかり好きで
…
もうやだ
…
」
「いい加減にしろよ!」
大きな声をあげた松本が沢北を押し倒した。
「ま、松本さん
…
!?」
「やっと
…
やっとお前と過ごせる休みだったのに」
「へ?」
「何が楽しくてお前が他のヤツと行く初詣見なきゃなんねぇんだよ!」
松本は沢北を跨ぎそのまま覆い被さった。
「ちょっと、松本さんっ!」
「それでも仕事なんだから仕方ねぇって言い聞かせて
……
なのにお前ときたらその仕事すら全うしてねぇじゃねぇか
…
」
仕事を全うしないなら自分と初詣に行けばよかっただろう。松本は暗にそう言っていた。
「
……
すんません」
「わかればいい」
そう言いながら松本は沢北の首もとに噛みついた。
「
…
っ、ちょ、そこ
…
見えちゃう
…
」
「見せつけてやるんだよ!
…
だってお前はオレの沢北栄治だろ?」
「
……
もぉ
…
松本さんってほんとずりぃ
…
」
沢北は長い腕と足で松本を捉えた。
「おい、初詣は行かねぇのか?」
「もう初詣じゃねーし、先にヒメハジメ?しません?」
へらっと笑った沢北に、松本は大きなため息を吐き、「お前がそれでいいならな」と口端を上げた。
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