仕事を終え家に帰るとポストの中に不在通知が入っていた。受取人は松本で、その差出人は同居人である沢北になっている。荷物は宅急便のその他にレ点が入っていて詳細は書かれておらず、通知から中身はわからない。遠征先から何を送ってきたのだろうか。なぜオレに?という疑問は残るが、ひとまず松本は自分宛であった荷物の再配達を依頼した。
受け取った荷物は思っていたよりも大きなサイズで、送り状の品名には“ツリー”と書かれてあった。
ツリーって、時期的に考えてクリスマスツリーってことか?そんなことを考えながらリビングへ運び、厳重な梱包を解く。中から出てきたのは組み立て式のクリスマスツリーだった。面倒だとは思ったが、元来真面目な性格の松本だ。自分宛に届いたこの荷物をそのままにしておくことは気が引けた。それに、箱のまま放置していたら帰って来た沢北が文句をたれるのは目に見えている。
あいつは……何でこんなでかいの買ったんだよ!!
組み立て終えた松本は叫んだ。といってもさすがにひとりの部屋で口には出さなかったが。
完成したそれは松本の背丈と変わらず、さほど広くもないリビングを占領してしまう。ソファに座って見上げれば、思わずため息が漏れた。
◇
「ただいま〜!プレゼント受け取ってくれました!?」
「お前なぁ…いい加減にしろよ」
「あ!ちゃんと組み立ててくれてるじゃん」
松本の大きな呆れと小さなの怒りを歯牙にもかけず、へらへらと満足気にツリーを眺める。
「邪魔だろ」
「何でそんなこと言うんすか?」
「だって本当のことだろ」
「クリスマスしたかったんすよ!」
「それにしてももっと小さいのでよかっただろ」
「これでも小さいし!アメリカのはもっと大き…か…っ…」
沢北はそこまで言って慌てて口を手で塞ぐ。
日本に移籍してすぐの頃、アメリカはこうだった、アメリカでは普通だった、とアメリカでの生活が長かったせいか、無意識のうちに何かにつけてアメリカと比べてしまい「そんなにアメリカがいいなら戻れよ」と喧嘩になり、別れる一歩手前までいったことがあった。
「ごめんなさい」
綺麗なアーモンド型の瞳を潤ませ謝罪を紡いだ沢北に、松本は「おやすみ」と視線を外しリビングを後にした。向かったのはふたりで使用している寝室ではなく、リモートの際に使っている仕事部屋だった。
◇
いつもならば松本より早く起きている沢北がベッドから出てくることはなく、松本は玄関先で見送ってくれる恋人の姿を見ることはなく出社した。
松本が家を出たのを確認したあと、のそのそと起きてきた沢北は、松本が組み立ててくれたツリーの前で膝を抱えて座り込む。特別何かがしたかったわけじゃない。ただ一緒にツリーを飾って、クリスマスを松本と笑って過ごしたかった。ぐすっと鼻を鳴らしツリーを見上げれば、目尻から一筋の涙が伝った。
「ただいま」
いくら喧嘩をしても、険悪な雰囲気でも、挨拶を欠かさないのは松本の真面目さゆえなのか。それにつられ沢北も「おかえりなさい」と返し松本の方に顔を向ければ両手に下げられた大きな紙袋。
「……大荷物っすね」
「栄治」
「なんすか?」
「昨日はすまなかったな」
「……え?」
「どんなのがいいかわからなかったから、勧められるまま買ったらこんな量になっちまった」
松本が紙袋からがさごそと取り出したのは、たくさんのツリーの飾り。いわゆる、オーナメントというやつだ。
「……なんで?」
「クリスマス、したかったんだろ?」
「そうだけど…」
「さすがにでかすぎんだよ。ここはアメリカみたいに広くねぇからな」
「……ごめんなさい」
「でも、せっかくお前が買ってくれたんだ。飾らねぇのはもったいないし、寂しいだろ」
「みのるさぁぁぁん!!!」
沢北は涙と鼻水で顔をべしゃべしゃにしながら松本に思い切り抱きついた。
「うおっ!危ねぇだろ!」
「だってぇ……稔さんが優しいから……」
「ほら、いつまでも泣いてねぇでこれ付けるぞ」
「はい!」
紙袋をひっくり返してひとつずつツリーに飾っていく。店員とのやり取りを思い出し、そういえば、と口にする。
「この飾り、ひとつひとつに意味があるらしい」
「そうなんすか?どんな?」
「……忘れた」
「ははっ!なにそれ!」
沢北が大きく笑えば、興味がないからとそっぽを向く。あ、でも…と手にしたのはツリーの一番上に必ずといっていいほど飾られている星型の飾り。
「これは“希望の星”を意味してるらしい」
「へー。何でそれだけ覚えてんの?」
「一番上で輝く星が希望とか、何か栄治みたいだなって思ってな」
そう言いながらトップに飾り振り返った松本。ふわっと緩んだ表情に、沢北の胸がきゅうっと苦しくなる。
「……もぉ、そういうのずるいんだってば!」
顔を真っ赤に染めてしゃがみ込んだ沢北は、その目の前に靴下をぶら下げた。
「……ここに、プレゼント…入れてくださいね」
「いい子にしてたらな」
松本は沢北と同じようにしゃがんで肩を抱き寄せ耳元で囁き唇を奪う。
「……ん、っ…」
そのまま押し倒せば、普段なら床は嫌だと駄々をこねる沢北が素直に身を委ねた。それはきっとクリスマスという特別な日がそうさせたに違いない。
◇
そのまま床で2回いたしてしまったふたりはベッドへ行くのも億劫で、ラグの上で毛布にくるまり抱き合って眠った。先に目を覚ました沢北が昨夜吊るした靴下を確認して時を止めた。
「………なに、これ?」
「……ん?」
沢北の声に目を覚ました松本がどうしたと訊ねる。
「これ!」
「プレゼント入れろって言ったのはお前だろ?」
「言いました。言いましたけどっ!」
「結婚、するだろ?」
断られるなどとはこれっぽっちも思っていない自信満々な言い方に、大きな瞳にこれでもかというほどの水分を溜めて「………だからずるいんだってば!!」と松本の胸に顔を埋めた。
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