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syanpon
2025-09-10 00:50:40
2202文字
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星に手を伸ばして
オトスバ(ししょすば?)
ドルパロ前日譚みたいな
綺麗な男ではなかったがこの世界にいるには綺麗すぎる男だと思った。
目線は下を向いているのにまっすぐ伸びた背筋が美しかった。短く切り揃えられた黒髪が蛍光灯の灯りに当たって輝く様子をつい目で追ってしまう。
あとは瞳
――
そう、瞳だ。
疲れが滲んだ黒瞳。淀んだそれの中に見えるほんの少しの光。それが一等綺麗だと、美しいと思ったのだ。
「あ、すみません」
「いえ
……
」
これが、オットーとスバルの出会いであった。
***
実力不足、努力不足、根性なし。
これら全てがナツキスバルに当てはまり、ナツキスバルの人生を語るに必要な言葉であった。
尊敬する父親に憧れ、父親の素晴らしさを伝えたくてテレビの中の煌びやかな風景に憧れて扉を叩いたはずだったのだが。
スバルより年上の人間たちには経験と実力と人脈で敵わなかった。
スバルと同年代の人間たちには培った努力の地盤で敵わなかった。
スバルより年下の人間たちには生まれ持った才能で敵わなかった。
現実を見たはいいものの諦めるにもプライドが許さなく、細々とオーディションの不要なエキストラの役をそれなりにこなして日々を惰性で潰す。
大した活動もしていないが活動があるからと言い訳をして学校にもなかなか行けていない。そもそも売れない俳優がどんな顔して登校すればいいのかスバルにはわからなかった。そもそもスバルが俳優をやっているなんて知っている人間の方が少ないだろうが。
17歳という年齢。まだ子供であるが大人への、社会への不安感が首をもたげてくる。学校にも行けていない、俳優活動にも芽が出ない。その全部から目を逸らして背中を這いずる不安感から逃げるようにスバルは事務所の廊下を歩いていた。
自販機で350mlのコーラを買い、次の出番まで話す友達もいないため当てもなく廊下を彷徨う。
「ぶ」
曲がり角を曲がる瞬間、黒い大きな壁にぶつかりスバルは衝撃にぎゅっと目を閉じた。パチパチと瞬きをして見てみれば壁だと思っていたのはスバルよりいくぶんか背の高い男であった。
「あ、すみません」
「いえ
……
」
ひょろりとした背の高い男はその背筋を曲げているからか真正面に立たれるとほんの少し圧がある。化粧でも隠しきれていない隈とそれをもってしても美しい青い瞳。
右を見ても左を見ても美男美女がゴロゴロいる場所だ。それなのに何故か目の前の男から目が離せない。失礼承知でじいと見つめていれば男もスバルのことを眺めていたようで目が合う。普通に気まずい。
「あんた
……
」
男の薄い唇が開く。思ったよりも高くて甘いその声に心臓の変なところがそわそわした。
「こんなところ、似合わないですね」
「
…………
なっ」
カァっと顔に熱が集まる。この世界がスバルに合わない、不相応なんてことスバル自身が一番よくわかっている。だとしてもそれを他人、しかもいまぶつかっただけの人間に面と向かって言われる筋合いはないと思う。
人間いきなり失礼な言葉をぶつけられると何も言えなくなってしまうらしい。何か言い返してやりたかったのに監督に注意され共演者に怖がられる鋭い目つきをさらに吊り上げて目の前の男を睨むことしかできなかった。
「えっと、ちがくて」
目の前の男はびっくりしたようにほんの少しだけ瞳を丸くし、その長い腕を胸元まで上げ言葉を探すように指先を遊ばせる。スバルの眼力に怯んだのだろうか、ここまで来たなら謝罪の一つもらってもいいだろうと男の続きの言葉を待つ。
「えっとですね」
「
……
」
「菜月さん」
男の口がもう一度言葉を探した時、スバルを呼び寄せる声が響き、びくりと肩を跳ね上げた。スバルのマネージャーだ。こんなスバルにも仕事を振ってくれるいい人であるのだがいかんせん空気が読めないところがある。今回も例に漏れず他人がいるのにツカツカと走り寄ってくると突然本題をぶつけてくる。
「菜月さん、今後なんですけどどうします? 正直今の活動だけですとこの事務所にいても意味ないんじゃないかなって思うんですよね。仕事見つけてくるのも慈善事業じゃないですし菜月さんがもっと意欲的になってくれないと困るというか」
「すみません
……
」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくてですね。菜月さんも高校生になったじゃないですか。活動は一度お休みして勉強とか部活に力を入れて今後を見据えるっていうのもいいと思うんですよ」
「あの、この話はあとで」
「ああそうですよね、ご両親も交えてお話ししないとですよね。いつにします? 時間あんまりないのでこっちの指定した時間に合わせてもらえたら助かるんですけど」
両親、という単語に目の前が暗くなる。どうやっても自分は迷惑しかかけない存在なのだと言われているような、そんな酷い被害妄想が頭をしめてぐるぐるとまわる。
活動を辞めたいのか、辞めたくないのか。
本当はやめたくない。
辞めれる言い訳をいくら並べたってここまで縋り付いてしまっているくらいにはまだ未練があるのだ。
「
……
ナツキさん、今後の活動って決まってるじゃないですか」
ぐっ、と体の前に長い腕が絡みつく。そのまま後ろに体を引かれれば男の胸に背中から収まった。
低くて甘くて平坦な声がスバルの耳をくすぐる。
「この人、僕とユニット組むんで」
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