roku
2025-09-09 16:39:25
1904文字
Public その他CP
 

ハンドクリーム【松イチ】【沢イチ】

・松本→一之倉←沢北
・クラスの女子からもらったハンドクリームをつけてる一之倉の話

pixivから移動(2024.9.28掲載)

「なんか今日イチノさん、いい匂いしません?」
部室で着替えの最中、沢北が一之倉に顔を近づけてクンクンと犬のように匂いを嗅ぐ。それに反応した松本も軽く鼻から息を吸い「確かに」と賛同する。
「もしかしてこれかな?」
一之倉は鞄から絵の具ほどのサイズのチューブを取り出した。
「なんすか?」
「ハンドクリーム」
「珍しいな」
一之倉を挟んで左右から沢北と松本が話しかける。
「バスケしてると手がかさつくんだよねって話したらあげるって」
「誰から貰ったんだ?」
やや食い気味の松本は、眉間に皺を寄せて一之倉を見た。というより睨んだ。の方が正しいくらい険しい表情だ。
「クラスの女子だよ」
「はぁ!?」
今度は沢北が部室に響き渡るほどの大きな声を出す。この場に河田がいれば間違いなく締められているだろう。
「何だよ。うるさいな」
「女子からプレゼント貰うとかありえないんですけど!!」
「どの口が言ってんだよ!」
一之倉は広げた右手で沢北の頬をぎゅっと挟む。ムッと突き出した口は、一之倉が手を離しても形を変えず不機嫌を顕にしている。
一方の松本は、沢北のように騒ぎはしないが一之倉が手にしているハンドクリームにジトッとした視線を送っている。
「何?塗る?」
「いや「塗りまーす!!」
松本の言葉を勢いよく遮り一之倉の手からそれを奪う。蓋を開けると自分の手にブチュっとチューブの3分の1ほどの量を出し、「ほら松本さんも手出してくださいよ!」と促した。沢北の意図を汲み取った松本は素直に手を差し出した。沢北は同じぐらいの量を松本の手に出し「これでみんなすべすべっすねー」と笑った。
「おい!」
「なんすか?」
「ほとんどなくなってるじゃん!」
「別にいいじゃねぇか。これで同じ匂いだな」
「そういう問題じゃないんだけど!」
「大丈夫っす」
何が大丈夫なのか、噛み合わない会話。さらにふたりは何も悪いことはしてません。という顔をしながら両手を合わせてクリームを塗り込んでいく。いくら手が大きいとはいえ明らかに多いそれは、浸透してもなお手に残り、結果ふたりの手はすべすべではなくベタベタになった。



……これはどういうことピョン?」
「何すか?」
「べたべたするピョン」
深津が手にしているのはいつも使っている何の変哲もないバスケットボール。ただ、そう言われて見てみれば確かに光を反射しててらてらとしている。
「えぇ?オレじゃないっすよ!」
「お前が使ったボールピョン」
「あ!!もしかしてこれ!?」
広げた手のひらはボールと同じように光っている。
「いい加減にするピョン」
その漆黒の瞳は静かな怒りを宿している。
「え、あの、これは松本さんが!」
「あ?」
「イチノさんが女子からハンドクリーム貰ったのが嫌だったみたいで、使い切っちゃおう!ってことになったんで」
へへっと笑ってみせるが深津の目は当たり前だが笑っていない。ひとつまばたきをして視線を松本に移す。
「はぁ!?オレじゃねぇし!沢北!お前人のせいにすんのか!?先輩だぞ?」
「じゃあなんですか!?松本さんは後輩のせいにするんですか!?」
「そもそもお前が塗ったんだろうがよ!」
「手出したじゃないですか!」
「うるせーピョン!連帯責任だピョン。フロアもボールも全部綺麗にしてから帰れピョン!」
深津はふたりにそう吐き捨て、片付けを始めた1年たちに解散!と声をかけた。もちろん1年は戸惑っていたがキャプテン命令ピョンと全員を帰らせた。



「ったく、沢北のせいでとばっちりじゃねぇか」
「はぁ?だいたいノリノリだったじゃないですか!」
沢北の目にはそう映ったようだった。
少なくとも松本は、一之倉が女子から貰った物を嬉しそうに使っている姿が気に入らなかったのは確かだ。
「ノリノリではねぇけどな」
「ナイスアイデアだとは思ったでしょ」
「そ「どこがだよ」
松本の肯定の言葉は、モップで床を拭く一之倉に遮られた。
「イチノさん!」「一之倉!」
「お前らのせいでオレまで巻き添え食らっただろ!」
「それはごめんなさい」
「すまなかった」
謝罪に続いた「けど」と「でも」は沢北と松本ほぼ同時だった。
「何、言い訳?」
切れ長の瞳が鋭くふたりを刺す。
「いや、まぁ、それは、だな」
そもそもイチノさんが女子からプレゼント貰うからじゃん……
そうだな」
もごもごと口を動かした沢北に同調する松本。
「はぁ〜。こんなくだらないことするなら代わりの物よこせよ!」
そう言い放つとモップ掛けを再開させた一之倉。
ふたりからの好意にその頬は緩んでいた。