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史加
2025-09-08 23:34:23
1876文字
Public
zzz(アキ悠)
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『月が綺麗だね』
アキ悠/2025年9月からのヘッダー用SSS/付き合っていないふたりのとある秋の夜の話
泅瓏囲の空は夜を迎えてもうっすらと明るいのに、どこか物寂しい雰囲気を帯びている。ラマニアンホロウの放つ光が絶えず届く位置にあり、輝磁の採掘や加工に勤しむ者たちが夜更けであろうと働いていて、どこか疲れた気配がそこかしこに滲んでいるせいだろう。ルミナスクエアのように街を鮮やかに彩るネオンも、夜遅くまで娯楽に耽る若者の声もここにはなく、当然アキラのようになんの目的もなく出歩いている者もいない。廃れた街というわけでもないけれど、郊外に似た寒々しさがある。
ホロウの不気味な輝きのせいで空にまたたいているはずの小さな星々も霞んでしまってよく見えない。ただ、月だけは別だった。丸く満ちたそれは色付く銀杏の葉にも似た黄金の輝きを湛え、その存在をありありと主張している。普段よりも明るく見えるのは、ここのところ夜が長くなり始めたからだろう。新エリー都の季節の移ろいはわかりづらいところもあるが、空の変化は大きい。今はまばゆいこの月も、次に満ちるときにはきっと冴え冴えとした光を静かに放ち、見る者に与える印象をまた変えているだろう。
アキラとリンが衛非地区に拠点を移してからあっという間に時が経ち、季節がひとつ進もうとしている。未だ師匠の手がかりと言えるものは見つかっておらず、術法の訓練も含め、やらなければならないことだらけだ。時折休みをもらって六分街に戻り、ビデオの整理をしたり簡単に家の周りの掃除をしたりはするけれど、もうずいぶん長いことあの街の夜風に吹かれていない気がする。そう思うと、吹き抜ける風が一段と冷たいように感じた。
なかなか寝付けない夜に外に出て空を見るのは、今に始まったことではない。拠点を移す前からそういう日はあったし、風に吹かれる時間の心地良さを知ってからは夜に限らず昼間でも、仕事に行き詰まったり気分転換をしたりしたくなったらそうしていた。そうするとたまに、会えるからだ。
「さすがにここでは偶然ばったり
……
なんてことはないけれど」
もう久しく会えていない青年の姿を思い浮かべて、アキラはかすかに笑った。
連絡はこまめに取り合っているし、そもそも有名人たる彼らに大きな動きがあればインターノットが黙っていないから、衛非地区にいてもその名や噂は耳に入ってくる。相変わらず向こうは向こうで忙しくしていて、適度に仕事をサボるのに日夜頭を悩ませているらしい。気乗りしないながらも以前よりはきちんと通うようになった病院の定期受診の結果も相変わらずだそうで、知らせをもらうたびに達観した横顔が脳裡をちらついた。体調に関しては
……
ときおり、ぱったりと数日連絡のつかなくなることがあるので、そういうことなのだろう。
細い糸がぷつりと完全に切れてしまう気配は今のところない。いつその日が訪れたっておかしくはないのだけれど、そうならないように彼は頑張ってくれている。アキラもそうならないことを願って、前ほど自由には動き回れない状況でもなるべく手を伸ばし続けている。彼のことだから手を取ってくれるとは限らないけれど、いつでも差し伸べられている手があるという事実こそが彼にとっては大切なものとなり得るはずだからだ。
思い出すと、とたんに無性に会いたくなる。薄ら寒い夜を照らす神秘的な月の輝きに、彼の美しいひとみが重なる。
これからますます夜は長くなっていく。この月を見るたびにアキラを見つめる目の輝きを思い出してしまうというのなら、どうしようもなく胸が痛い。
たまらない気持ちになって、アキラはスマホを取り出し、ノックノックを開いた。さすがにこんな時間に通話はいけないと、薄皮一枚繋がっている理性でどうにか踏みとどまって、メッセージを打つ。
はたして彼はなんと返してくるだろうか。アキラのことを気障だと言って笑うのか、それとも案外何も気付かないでありふれた返答を送ってくるのか。
そもそも深夜なのだから眠っている可能性もあったが、送ったメッセージの隣にすぐ「既読」の二文字が浮かび上がる。
『そうだね。あんたと一緒に見たいなって思ってたところだよ』
なんてね、といつもなら付け加えられるだろう言葉は、送られてこない。代わりにぱっと画面が切り替わって着信を知らせる。
――
雲に乗って空を飛ぶ方法が本当にあったらよかったのにと、心の底から思わずにはいられなかった。
声なんて聞いたら、もっと会いたくなるに決まっている。
欲深さに磨きがかかるだけだとわかっている。
それでも、そうだとしても、応答しない理由はない。
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