三毛田
2025-09-08 22:11:12
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9 009. 上を向いて泣こう

9日目
忘れてしまったことを

「っ、はぁ……
 次から次へと溢れてくる涙をごまかすように、上を向く。
 なんでこんなに悲しいのか。涙が止まってくれないのか。わからない。
 でも、一つだけ確かに分かることがある。
 大切なものを失った喪失感。だけど、それが何なのかわからない、虚しさ。
 二つが混ざり合い、俺を責めて。
 そして同時に、思い出せと訴えかけてくる。それは、痛みをもたらす。そこから来る涙でもあり。
 せっかく上を向いたのに、全然止まらないものだから。頬を伝って、首筋までも濡らす。
「穹先生!」
「彦卿……
「遅いから迎えに来たよ。あれ? 丹恒先生は?」
 一緒じゃないの?
 その言葉に、乱暴に拭っていた手が止まる。
 丹恒って誰だ?
「え? ぼ、僕将軍のところに行ってくる! 穹先生、そこから動かないで!」
 俺の様子がおかしいと気付いたようで、彦卿は慌てて走っていく。
 そもそもここはどこだ?
「わからない。わからない……助けて」
 俺の口から出たのは、知らない名前。
「え」
 その名前を口にしたら、また涙が。
「お前は、誰だ?」
「穹!」
「うわっ」
 ドンっと勢いよく誰かが俺に飛びついてきて。二人でそのまま後ろに倒れる。
 ぽたぽたと水が俺に落ちてきて。一滴口の中に落ちてきた。
「しょっぱい? いや、これは……
「はあ……っく……うう……
「大丈夫か?」
 苦しそうな呼吸を繰り返す彼のむき出しの肩に、そっと触れる。
 全身濡れていて、寒そうだ。
 起き上がり、上着を脱いで彼にかけ。
「何で裸なんだ? それに、ずぶ濡れで」
「行くな」
「え」
「俺を置いていくな。お前は俺の一部だ。離れることは許さない」
「わぁ」
 熱烈な言葉に、じわじわと顔が赤くなっていく。
 彼の言葉が嬉しいと思うと同時に、その言葉に聞き覚えがってふと暑くなった頬へ伸ばそうとした手が止まる。
「お前は、俺を知ってるのか?」
「っ」
 灰緑の瞳に、怒りが宿る。それを落ち着けるかのように、彼は深呼吸して。
「ど、どうしたんだ?」
「俺だけじゃ飽き足らず、お前にまで……
 ふわりと長い黒髪が、宙に広がっていく。
「待っていろ、穹。今すぐ龍師を仕留めてくる」
「う、うん」
 きっと頷いちゃいけなかったんだろう。でも、俺は頷くことしか出来なくて。
 俺に上着を戻し、彼は地面を蹴ってどこかへ向かう。
「穹、待たせた。いい子で待っていたか?」
「は、はい」
 笑顔の丹恒が、怖い。
 あれ? なんで俺は鱗淵境に?
「俺、お前のこと忘れて」
「大元から潰したから安心しろ」
「う、うん。わかった」