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望月 鏡翠
2025-09-08 01:42:55
1030文字
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日課
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#1834 「暴風」「鐘」「しるし」
#毎日最低800文字のSSを書く
鐘打ちの少年は嵐の向こうから聞こえてくる不穏な音色に怯えていた。
嵐の向こうからガランガランと揺さぶられた鐘の音が聞こえてくる。今にも、怒りに満ちた拳が扉を叩く音が加わってもおかしくなかった。
そうなっていないのは、今が出かけるのも躊躇われるほどの暴風吹き荒ぶ夜であるからに他ならない。
世が明けたら酷く叱られることだろう。
少年は大きな間違いを犯した。嵐が来るのに鐘を降ろすのを忘れたのだ。鐘楼の鐘は大きく立派で、街の財産である。それが暴風に吹き曝しになり、激しく揺れている。
今に支えのロープが切れて落ちてしまうかもしれない。
下敷きになった家の者はひとたまりもないだろう。その不幸が降り注ぐのは、鐘楼の傍近くに住んでいる少年の家であるかもしれなかった。
何も怠惰だったわけではない。
嵐の前にやるべきことはいくらでもある。それらの手伝いに呼ばれ、また声をかけられ、そうしているうちに一番大切な己の役目をすっかりと忘れてしまっていた。
そうして気がつけば、濡れた石と吹き荒ぶ風はもう鐘楼に登ることができないくらいになっていた。
朝まで持ち堪えてくれと願うことしか、できなかった。
揺れる鐘の音は不吉だが、まだそれがそこにぶら下がっているしるしでもあった。
嵐はどんどんと強くなる。次第に地響きに似た雷の音が鳴るようにすらなってきた。金の音と混ざりあう。
ついに一際大きな音を立てて鳴ったあと、音は移動した。
ああ、ついにその時が来てしまったのだと少年は思った。
鐘が落ちた。
きっと今に雷が落ちたような音が鳴る。
しかし、落下の音がいつまで経ってもしない。
少し離れたところで、音がした。
ガラン。
遠ざかったところでまた鳴った。
移動していく。
転がっていくという風ではない。だって音は上から聞こえてくる。
ガランガランと鐘楼から離れていく。
そして聞こえなくなった。
翌朝、嵐が去って晴れた朝、鐘は消えていた。どこにも落ちていなかった。もちろん少年は怒られた。しかし鐘が消えた理由が、少年が鐘を下さなかったせいとは思えなかった。
街の人総出で鐘の行方を探した。
結局どこにも見つからず、混乱に乗じて盗まれたのだろうということになった。
しかし、その後不思議なことが起こった。
よく晴れて風のない日、山の向こうから鐘の音が聞こえるのである。
どこからかガランガランと聞こえてくるのだ。
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