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幸希(ユキ)
2025-09-08 00:15:58
3185文字
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一緒に
いろいろ考えた末。まとまってないなぁ。
「むっちゃん。」
「ん?」
声をかければいつも通り顔をこちらに向けるむっちゃん。
「どういた?」
「
………
。」
「主?」
頭の中に流れる考えはまとまりきらない。でも、スルーしていても何も始まらない。変わらない。
「話したい事がある。」
──────────────
『2人で溺れるのを怖がってる』
図星だ、と思った。好きなのに、一緒にいたいのに、払拭しきれない怖さが踏み込むのも、踏み込まれる事も、どちらも良しと出来ない。
(私は臆病者だ。)
あれだけ想いを伝えられて、大事にされて、それなのにこの有り様。
(でも、どうしたらいいかも分からない。)
昔から人付き合いが苦手で、それのせいで随分苦しんだ。他者を信用するのが怖いし、いつか1人になった時の為に必要以上の関係を築こうとも思えない。本気で人を想っても、受け止めてはもらえないし返ってこない。これらが長く積み重なったせいで、むっちゃんの気持ちを知っていてなお線を引こうとする自分がいる。
(独りは、嫌だ。)
傍にいてほしい。離れないでほしい。
1人になるなら早く手離して。どうせいつか。
相反する気持ちが心の奥で喧嘩をする。
(分からない。分からないの。)
むっちゃんは悪くない。信じたいくせに信じきれなくて、不誠実だからそんな事思いたくないのに、我が身可愛さに予防線を張ろうとする。
目頭がぐっと重くなったかと思えば、瞬く間に熱くなって滴が落ちた。
「主!?」
慌てるむっちゃんの声が聞こえる。止めたくても、滴は止まってくれない。
「なんぞあったがか!?」
「むっちゃん
…
。」
ぎゅうっ、と手を握り、掠れた声で呼ぶと、優しく握り返してくれた。
「
………
。」
「
…
のぅ、おまさん。」
「?」
「思いがまとまっとらんがやったら、無理に話さんでもえいよ。」
「
………
違う。話したいの。」
「けんど
…
」
「これは気にしなくていい。
……
あのね、確かにまとまりきってはないよ。でも、私ね、自分がすっごい我が儘言ってるくせに、むっちゃんの言う事が信じきれてない言動してたのを見透かされて、今すごい腹立たしいし、情けないし、罪悪感でいっぱいなの。」
堰を切ったように思っている事を話し出す私をむっちゃんを静かに見つめてくる。
「想われて、大事にされて、なのにいつか1人になるんじゃないかって、前にむっちゃんが言ってくれてたのに、勝手に線引きして予防線張ろうとする自分がいるのに気付かされて、それが嫌で
…
。」
「ほにほに。」
「めいっぱいむっちゃんは私を尊重してくれてるのに。それなのに私は勝手に1人で立てなくなるのが怖いって怖がって。」
また目頭が熱くなって滴が伝っていく。
「いつまでも弱いままの、自分が、いや
……
。」
「
………
。」
そっと頭が撫でられた。
「主、前にした話、覚えちゅうかえ。おまさんへの想いは変わらんと。」
「覚えてる
…
。」
「正直な、分かっちょったよ。おまさんが本当にはわしの気持ちを信じちょらんのは。」
「っ、」
「あぁ、誤解しなや。責めゆう訳やないきに。それだけおまさんの傷が根深いっちゅう話じゃ。安心させられんわしも悪い。」
「!」
その言葉が引っ掛かる。
「違う。それは違うむっちゃん。」
「ん?」
「過去の事は確かに原因ではあるけど、それがむっちゃんが悪いって理由にはならないよ。」
「けんど現に払拭しきれちょらんき、おまさんは怖さを感じるがやろう?」
(いつもそうだ。)
むっちゃんは私を責めない。自分が悪いって言う。そうじゃない。そうじゃないんだよ。むっちゃんは悪くないの。
「違う!」
声が荒くなる。
「むっちゃんは悪くないの!私が勝手に予防線を張ってるだけ!約束だってしてくれてるむっちゃんを勝手に疑ってる!そうすることで安心しようとしてる!“あぁやっぱりか”って!“期待しなくて良かった”って!ものすごく失礼な事してる私が悪いの!」
「
……
。」
「むっちゃんは、いつも自分が悪いって言うけど、何にも悪くないの
…
。大好きなのに、傍にずっといてほしいのに
…
。」
ああもう、本当に私は何が言いたいんだろう。
「なぁ、やめんかえ。」
「え
…
?」
「この話、やめんかえ。」
冷たい声にヒュ、と息がしにくくなる。視界がぐわんと揺れた。
「どっちが悪いらぁて、そがな事言い続けても不毛じゃ。」
「むっちゃん
…
。」
自嘲気味にむっちゃんが笑う。
「のう主。おまさんはきっとこれからもその考えは持ち続ける。払拭するにゃあ時間がかかるじゃろう。すぐに信じさせてやれんがはわしの力不足じゃ。」
「だから──!」
「最後まで聞いとうせ。
…
自責しゆう方が気は楽じゃ。やり方はどうとでもなるきに。けんど、それやとおまさんは納得出来ん。おまさんもおまさんで自分が悪いと思いゆう。」
琥珀が真っ直ぐ私を映す。
「なら、どうする?おまさんはどうしたい。」
「どう
…
。」
「わしは、おまさんが苦しまんがやったらそれでえい。愛しいもんが辛い思いをするがはもう耐えられんき。」
「それは私だって同じだよ。」
「あの時も言うたが、わしはおまさんの傍におる。離いちゃやらん。それは絶対的に変わらん。」
「
……
。」
あの日と変わらない熱が心を焼いてくる。本気の目。
「おまさんを、心から愛しちゅう。いつかおまさんのその心の憂いを、必ず晴らしちゃる。」
「
…
私も、大好きなの。一緒にいてくれなきゃ嫌だ。本当はただ一緒にいられたら、それでいいの。でも、どんどん欲しくなるばっかりで、その気持ちが大きくなるほどもしもが起きた時が怖くなって、一歩線を引いちゃう。身体で繋ぎ止める勇気もなくて、一緒に溺れる事も出来ない
…
。でも、それでも、私はむっちゃんと一緒にいたい
…
。」
本音を言えた気がした。結局のところ、行き着くのはそこしかない。どれだけ怖くても、溺れるだけの勇気がなくても、欲深い私はむっちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なんだ。
「2人で、一緒に生きていたい。」
「
…
ほいたら、そうしようか。」
指の先で涙が払われる。頬に当てられた手に自分の手を添えた。
「
…
むっちゃん。」
「ん?」
「私、多分これから何回もこういう事言うし、その度にきっとむっちゃんを困らせる。けど、むっちゃんが私を1人にしないって思ってるのと同じように、私もむっちゃんを独りにさせたくない。一緒にいたいし、一緒に歩いて生きていたい。」
「ほに。」
「傷とはもっと向き合う。時間かかるけど、乗り越えるから。だから、もうちょっとだけ待ってて。」
弱い私でごめん。そう言えば、むっちゃんは「そのままのおまさんが大好きじゃ」と目を細めてくれた。
────────────────
「よかった、話せて。」
「んー?」
「不安過ぎてもっとめちゃくちゃになると思ったし、むっちゃんに真意が伝わるか分かんなくて。」
「わしもおまさんも、相手の事思いすぎて身動き勝手に取れんようになっちゅうの。」
「欲しいくせに欲しがれないしね。」
自虐的に言えば「ほにほに」と相槌。この「ほにほに」好きだわ。
「ねぇ。」
「どういた?」
「慣れないうちは多分騒ぐし逃げる事もあると思うけど
……
」
「?」
「もうちょっと、踏み込んで来てくれる?」
荒療治にはなるだろうけど、きっとこの方がいい。
「
…
おまさん分かって言いゆうかえ。」
「うん。」
「手加減出来るかも分からんぜよ。」
「本当に無理なら言うから。」
「
……
ええんじゃな。」
「うん。」
ぎゅうぎゅう抱きすくめられる。そっと背中に手を回したら、呆れたような、観念したような吐息がそっと耳に届いた。
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