Lupinus821
2025-09-07 21:45:47
1616文字
Public
 

エド→DD(エド斎原稿の一部)

DDを回想しながら斎王を想うエドの一場面です 時系列は4期終盤

DDは掴みどころの無い人だった。
……こう表現すると語弊があるかもしれない。浮世離れしている、というよりはむしろその逆で。
優しさの一方でちらつく激情は地を這うように生々しく、檻に閉じ込めたような苛立ちを纏っていた。
その落差の正体がわからないまま、幼いエドは養父である彼の言葉に翻弄され続けた。


「エド。大会優勝おめでとう」
「あ……ありがとうございます」
プロデビューして間もない頃、奇跡的にDDと休みが重なった。
淡く光るシャンデリア。席同士の離れたテーブル。ささやかな祝賀会とばかりに連れて来られた店がどれほどの格式のものか、当時のエドにはまだ理解できていなかった。
ミネラルウォーターの入ったグラスを口に運びながら養父の表情を窺う。眼鏡越しの瞳の形を捉える前に、
「お前の試合は迷いが無いな。一本の太い信念が通っているように見える」
DDがグラスを傾けながら言った。
「信念、ですか?」
「ああ。まだ荒削りだが、戦術の揺るぎなさには目を見張るものがある。お前の真っ直ぐな性格がそうさせるのかな」
プロデュエリストの頂点直々に賞賛を受けている。これ以上ない名誉のはずだが、エドの心は喉を潤す水ほどに澄み渡ってはくれなかった。
表情の読めないDDの声が、感嘆の台詞と裏腹に澱んでいるように聞こえたからだ。
……僕、僕は」
対岸のグラスの中は赤黒く濁っている。その味をエドはまだ知らない。
知らないなりに養父を元気づけたかった。褒め言葉に応えたかった。
「僕が揺るぎなくいられるのは──支えてくれる友人がいるからです。僕が迷っているとき、勇気をくれるのはいつもさ……友人で」
だからこう続けた。
昔の恩人の話題を出せば、養父の心も晴れるのではないか、と。
「想像したことがあるんです。DDと父さんも、そういう関係だったんじゃないかなって」

パキリ。

幼い、幼すぎたエドの善意は、グラスの砕ける音と共に阻まれた。
「DD!?」
ウェイターが駆けつける前にエドは咄嗟に立ち回る。指を血とワインに染めた張本人は、何が起こったかわからないとばかりに固まっていた。
ハンカチを片手にDDの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか!?」
ぴくり、とDDの肩が動く。
彼は怯えていた。
駆け寄るエドの仕草と言葉に、DDは明らかに恐れの色を浮かべていた。
……悪いな。少し疲れていて」
エドから目を逸らし、自らが砕いたグラスの破片をぼんやりと眺めるDD。
衝動と放心──流れる赤色の記憶は、片付いたテーブルで料理を口に運んでも決して脳から去らなかった。

『業の深い者が破滅の光あれに惑わされると言われたら一概に否定はできん』

コステロの言葉を受けて真っ先に思い出したのは、かつての養父であり憧れの存在だった。
DD。エドの父親を殺しておきながら、エドに優しい偽りの仮面を被り続けた男。生涯許せるはずのない男。
彼への情はとうに捨てた。あの日燃え盛る船と共に海の底へ沈めた。浮き上がることは二度とないだろう。破滅の光につけ込まれるに至ったDDの苦しみなど、父を失ったエドの預かり知るところではない。
だが──父はもしかすると、その苦しみに最期まで寄り添おうとしたのかもしれない。
エドに同じことができるだろうか。
もしも斎王が素面のままで、エドにとって許すことのできない罪を犯していたとしても。エドそのものに牙を向けることがあったとしても。
真相を知ってすぐさま養父への愛を切り捨てた自分が、斎王に対して同じことをせずにいられるだろうか?


エドは斎王を信じている。そして少し前までは、斎王を信じるようにDDのことだって信じていた。
二人の辿る道にどれほどの違いがあっただろう。片方が途切れた今となっては、もう比べようもないけれど。
もう片方を追うために必要な『正しさ』以外の何かを、エドは暗闇の中で未だに探し求めている。