針本
2025-09-07 20:56:12
2493文字
Public 短編
 

A playful land for two

プレフルから帰ってきた後に恋を自覚しはじめるレオトレ(未満)です

人形にされかけて、売り飛ばされそうになった悪夢の遊園地から帰ってきてひと月後。
授業の休憩時間の廊下で、めずらしくトレイに声をかけられた。

「レオナ、今日の放課後、南校舎4階の化学準備室に来てくれないか?」
「あ?埃をかぶった校舎の端に突然呼び出しとは、一体なんの要件だ?」

質問に質問で返すと、にこやかな笑顔で返される。
「そんなに構えないでくれ、レオナにとってもわるいことじゃないよ」
勿体ぶるなと言っても、来てからのお楽しみだと返され、貴重な放課後にわざわざそんなところまで行くほどヒマじゃないと断り背を向ける。

「気が向いたら来てくれ、待ってるから!」
背中にかかるトレイの言葉を尻尾で振り払った。


***


さて放課後になったところで、実際今日はとてもヒマだし、午後の授業をサボって爆睡していたので眠くもないし。なによりトレイが、自分にあんなに食いさがって誘うなんて初めてのことだったので、さすがに気になった。

もはやこのまま気に留めながら無視する方が面倒だと気だるげに南校舎に足を向けるレオナ。

人の気配のする化学準備室のドアを開ける。

「おっ!レオナ来てくれたか!よかった!」
笑顔で迎えたトレイの後ろには古びたビリヤード台。そして
「ちょっと、遅いわよレオナ。アタシを待たせるなんて良い度胸ね」
「まぁそう怒るでないヴィル。眉間に皺が寄っておるぞ」
ヴィルとリリアが居た。
反射的にドアを閉めようとしたが一瞬で後ろに現れたリリアに背中を押され、部屋の中に入れられてしまった。

トレイが年季の入ったキューを渡してくる。
「ほら、例の遊園地でビリヤードを二人でやったときに、次は3年で集まってやろうって話しただろ?先週偶然倉庫でこれを見つけたんだ。」
「あんたたちそんなことしてたのね。アタシもオルトたちとビリヤード場で勝負したけど」
「なんじゃ!今どきの若者にも人気なんじゃな!わしもすこーし前にハマってた時期があるぞ!」
「レオナがすごく上手くて俺じゃ歯が立たなかったから、ヴィルとリリアなら良い勝負なんじゃないかと思ってさ」
「あら、じゃあ期待に応えないとね。レオナの悔しがる顔見せてあげるわ」
「わしも茨の谷の天才ハスラーと呼ばれた腕を見せてやろうぞ」

「おいトレイ」
睨みつけてもどこ吹く風という笑顔で返される
「まぁまぁ、せっかく来たんだから1ゲームくらい良いだろ?」

カンッと重みのある球を打つ音と談笑の声
確かに、リリアもヴィルも、トレイより上手い。
だが、そんなことどうでも良いくらいこいつらは喧しい。

誘った本人のトレイは賑やかな二人を楽しそうに眺めながら、時々俺の様子を伺う。
楽しめてるかと目で尋ねてくる。
自身は中心に立たず、一歩離れたところから輪の形を維持する役割を続ける。

俺は正直に(楽しめてないウルセェ)という恨みを込めて見返してやる。
正しく受け取ったらしいトレイは、困った笑顔で応えると、会話に夢中のリリアとヴィルに、さぁ次は誰だ?とゲームの続きを勧めた。

勝負はなかなかの接戦の末、俺の勝ちで幕を閉じた。
悔しがる奴らをみて多少は溜飲も下がった。
もう1ゲーム続きそうな空気の中、ヴィルとリリアのスマホにそれぞれ寮生から呼び出しがかかる。

「次は勝つわよ。今度はオルトたちも呼ぼうかしら。」
「そうじゃな、ケイトやカリムも誘ってやろう。遊園地メンバー勢揃いじゃ!」
「俺は絶対に参加しねぇ」

ヴィルとリリアが扉から出ていくと、部屋は一瞬で静けさに包まれる。

「おいトレイ、よくも嵌めやがったな」
「だって先に教えたらレオナは来ないだろ」
「よぉくおわかりで。なら嫌がらせか?」
「レオナも次を期待して待つって言ってたじゃないか」

ビリヤード台に散らばったボールを集め、ケースに戻しながらトレイは続ける
「遊園地の時はフェローの魔法が効いていたのかもしれないけど、レオナもビリヤード結構楽しそうだったから。
また一緒にやれたら良いなと思っただけだよ」

ああそうだ。確かに、あの日は楽しかった。あれはキツネ野郎の魔法のせいか?
いや、あの時は俺が自ら考え選んで、トレイに声をかけた。
こいつなら五月蝿くないし、面倒なことに踏み入ってこない。
かと言って無口な訳でもなく、会話はできる。
時間潰しに適切な相手だと判断した俺の感覚は正解だった。
思った以上に、一緒にいる時間が心地よかった。

「喧しいのはもううんざりだ。」
「悪かったよ」
「テメェと二人ならヒマな時また遊んでやっても良い」
「えっ」
「なんだ?俺だけじゃ不満か?」
「いや……
「何だそのマヌケ面は」
他の人はダメなのに、俺は良いのか、と思って。ふふ、そう思われるのは、なんだか嬉しいな」
……おまえは五月蝿くないからな」
「そっか、じゃあまた練習しておくな」
「はっ今日だって最下位だろ」
「うっ、みんな上手すぎだよな。そうだ、ヴィルかリリアに教わろうかな、そうすれば
「なら俺に聞けば良いだろうが」
「えっレオナが教えてくれるのか?」
「文句あるのか?」
「ないよ、レオナがいいならぜひ」

そう言って、嬉しい気持ちがそのまま顔に出たような表情をするから、こいつは厄介だ。
こんな捻くれ者で、嫌味ばかりの人間と居ることのどこが楽しいのだろうか。

こいつが誰にでも笑顔を向ける奴なのは知ってる。でも、嫌いな奴とわざわざ二人で会うことを了承するような奴でもない。
受け難いことは笑顔で濁してかわす男だ。
それをしないのは俺に心を預けている証拠でもある。

鏡舎まで雑談をしながら歩く時間は穏やかだ。
「じゃあレオナ、来てくれてありがとな」
「ああ」
「また声をかけるよ」
「ああ、じゃあな」

人に嫌われることには慣れてる。
だから嫌われても何とも思わない。
だがトレイに嫌われていないという事実は、俺の中の何かが軽くなる。

それが何なのか見定めるために、まずはアイツにビリヤードを教えてやることにする。