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縞柄
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利こま
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おさわり禁止!
すぐ触ってくる利吉さんに、小松田くんがおさわり禁止令を出します。
(息をするように恋仲にさせてます)
僕は怒っている。
何にって、お付き合いしている利吉さんのことだ。
利吉さんはお仕事の合間に学園に立ち寄ってくれるのだけど、いつだってやってくるなりお話もそこそこに口を吸ったり、物陰で体に触れてきたりして、まともに恋人同士の会話ができない。
抱きしめられて、突然どうしたのかと聞いたら「静かにして」と言われて、僕の髪や首元に鼻を寄せて呼吸する利吉さんをただじっとして待つしかない時もたびたびあるし、彼がお疲れのときは特にそんなことが多い。
恋人ならもっと、お話ししたりお出かけしてご飯を食べたり、いろんなことがしたいのに。
夜寝る時だって、お付き合いする前の方がよく喋っていた。僕のたわいもない話で利吉さんが笑い、彼が外で見聞きしたことを教えてくれる、そんな時間が大好きだった。
それが今じゃどうだろう。利吉さんの寝泊まりする部屋を訪ねるなり事が始まって、終われば僕は疲れ切って泥のように眠ってしまう。
僕らは、まるで、体だけでつながってるみたいだ。
だから今日、入門表にサインするとさっそく腰に腕を回してくる利吉さんに告げたのだ。
「触らないでください!」
え、と驚いた顔で手を引っ込める利吉さんを、僕はきっぱりとした態度で見据えた。
「利吉さん、僕のこと、結局体しか興味ないんですか」
「はぁ? 何言ってるの?」
「だって、会ったらすぐ触るじゃないですか」
「え
……
そう?」
利吉さんはあまり思い当たる節がないようだけれど、触ってる。毎回毎回、言葉をかわすよりも頻繁に。
そう伝えると、彼は珍しくうろたえたような顔つきになって、君も急に腕組んでくるじゃないかとか、気持ちがあるからこそ触れたくなるものだろうとか、いろいろ言っている。
でも、そういうことじゃないんだ。
「えっちなこととか、触ること以外で好きって示してほしいんです。それに、もっとちゃんとお話しがしたいです」
入門表を力いっぱい抱きしめて、できる限り厳しい顔ではっきり言った。
しばらく黙って僕の言い分を聞いていた利吉さんは、「
……
そう、わかった」と難しい顔で了承する。
そして、その顔のまま僕に背を向けて学園の中へ入っていった。
その日、利吉さんが暇をみて僕のところに来ることはなかった。
*
利吉さんの、いわば反撃が始まったのは次の朝からだった。
朝食の席でわざと対面に座ってきて、
「おはよう、今日はいい天気だね」
と普段ならありえないくらいに爽やかな挨拶をしてきた。
そもそも利吉さんは夜目が利く分朝は弱いし寝起きも悪い。一緒に寝ていても、朝は僕の方が先に目が覚めて、起きようとしたら後ろから抱きついた姿勢のまま「もうちょっと寝てたい」と甘えてくるのだ。
そういうのが嫌なわけじゃないけれど、昨日僕は自分の部屋で寝たからねぼすけな利吉さんとは会っていなくて、少しスッキリした朝を迎えていた。
おはようございますと挨拶をして食事を始めると、彼は僕のことをずっと見つめて話しかけてくる。まなざしは優しく、会話もスマートで普段の僕に対する扱いとは違っている。
いつもはもっとぶっきらぼうなのになと思いながらも、急に優しくされてこそばゆいけれどやっぱり嬉しい。
ただ、これは利吉さんの作戦なんだろうなという気もした。
でもどういうつもりで僕に営業スマイルみたいな微笑みを向けてくるのか、彼の考えがさっぱり読めない。
利吉さんは僕を丁寧に扱った。もちろん触れることは一切せずに。
二人きりのときに「かわいいね」とか「好きだよ」と言い、物を運ぶのを手伝ってくれたり、休憩時間にお茶を飲みながら一緒にお話ししてくれたりした。
もしかしたら、僕の理想の恋人を演じてくれているのかな。
そんなふうに思ったら、嬉しいんだけど嬉しくないような気分になってしまう。
「利吉さん、なんで急に優しくしてくれるんですか?」
廊下に腰かけて、お茶をすすりながら尋ねてみる。
「そうしたいから」
とだけ彼は答えて、また世間話をぽつぽつとし始めた。
僕の希望をかなえてくれようとしているんだろうけど、いつもの利吉さんではないとも感じてしまう。第一、好きだなんて簡単に言うような人じゃない。言ってほしいと思っていたのに、いざ与えられるとドキドキするのと同時に違和感があるように思えて。
「なんか、変な感じがします」
「なんだよ、それ」
こんな時、いつもの利吉さんなら僕の頭に触れるか軽く小突くかするんだけどな、と僕は拍子抜けの気分にさせられた。
利吉さんの態度はしばらく経っても変わらなかった。
忙しいからと門の前で会うだけの日もあったけれど、少しお話しして僕に手土産だけ渡して帰ろうとするので、とっさに彼の袖口をひっぱって
「他には、なにかないんですか」
とねだってしまった。
以前までなら、何も言わなくても利吉さんは勝手に僕を抱き寄せて、誰も見ていない門の外で口づけをしてくれたのに。
僕が言い始めたことだけど、あれ以来利吉さんは本当にその手のことをしなくなったのだ。夜もそれぞれの部屋で寝ている。
ちょっと寂しいなんて、欲張りかもしれない。
「他に、って?」
と利吉さんは聞き返す。
とぼけているのだろうか。
口吸いしたいと言ったら、笑われてしまうだろうか。
「いえ
……
なんでもないです」
結局意地を張ってしまう。今度町に一緒に出かけたいですと言うのが精一杯で、それには彼は微笑んで頷いた。
*
二人で町に行くのは久しぶりだった。
見世物を見物したり、流行の柄の布をたくさん見たり、何となく茶碗が並んでいるのを眺めたりしてから、お団子屋さんで足を休める。
利吉さんは少し前から僕に優しく話しかけ、意地悪を言わず、色々な話で僕を楽しませてくれるようになっていた。触らない約束を忠実に守るのも同時にしていて、もはや彼の中ではそうするのが一種のお遊びみたいになっているのだろう。
お話しすることが増えて嬉しい反面、僕は日に日に物足りなくなってしまっていた。
今だって、並んで腰かけている二人の間の手をそっと重ねたいなと思ったり、話す利吉さんを見ながら凛々しいお顔や唇にもうずっと触れていないなと気もそぞろになってしまう。
一緒にいるのになんだか寂しい気分になって、ぼーっとお団子を食べていたら
「小松田くん、口の横にあんこがついてる」
と指摘された。
利吉さんは自分自身の頬のあたりを指さして、位置を教えてくれている。
でも、あーあ、いつもなら言いながら彼が取ってくれるのに。
「取ってくださいよぉ」
と思わず口に出てしまう。
利吉さんは一瞬動きを止めて、それから
「自分で取りなさい」
と笑って言った。
やっぱり、わざとやってる。
彼はいつも僕のことをお見通しなんだ。
どうして触るのを駄目って言っちゃったんだろう。
「いじわる
……
」
言葉や態度は甘いのに、絶対に僕に触れてくれなくなった利吉さんがとてもとても残酷に思えた。
その晩、意を決して僕は利吉さんの泊まる部屋を訪れた。
久しぶりだし、それがすごく恥ずかしかった。
「どうしたの?」
もう絶対にわざと言っている利吉さんの声はどこまでも優しく、艶がのっている。
「もう意地悪しないでください」
「何のことかな」
しらばっくれる彼の前に正座して、寝巻きの袖を掴む。
「利吉さん、根に持ってるでしょ。僕が触らないでって言ったこと」
「君の頼みを聞いてあげただけだよ。で、私に何か言うことがあるんじゃないの?」
悔しいけど、降参するしかなかった。
「ごめんなさい
……
触って、ください」
すると、彼は僕の頭を撫でてからぎゅっと抱きしめた。
「君にしてはけっこう頑張ったね」
と言って僕の首筋に鼻を寄せる。
利吉さんだって相当我慢していたんじゃないかと思うけれど、そこはさすがプロの忍だなあと頭の片隅で考えた。
僕の首筋に何度も口づけをして、利吉さんはご機嫌だ。
いきなり元のとおりに戻って驚く僕に、「こんな据え膳、逃すわけないだろ」と囁いて彼は僕の寝巻きに手をかける。
利吉さんはやっぱりすけべで強引だ。
でも、このところの上辺だけ甘ったるかった彼よりずっといい。
僕はうっとりと、久しぶりの触れあいに酔いしれていった。
終
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