らぎ
2025-09-06 23:05:21
835文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ二期 番外編「裁縫」「黒」「写真」

現世服回とちょっと被ったな?

「離の方……おや、仕事中でしたか」
「いえ、構わずに」
開けた障子をするすると閉めようとする坤の薬売りを引き留める離の薬売り。二人の攻防はそう長くは続かず、折れた坤の薬売りが部屋に招き入れられる事で決着した。
「それで……何用ですか、坤。」
離の薬売りは右手に構えた針を針山に戻すと、鷹揚に首を傾けた。これは言うまで逃してもらえそうにないぞ、と坤の薬売りは思ったが、どのみち彼が離の薬売りのもとから逃げることなど無いのだった。言葉の綾と言うやつである。
「いえね、震の方々が今日こそ十翼の写真を撮るとか仰せでしたので……しかし、そちらの針仕事を見ている方が楽しそうだ。」
比較的新しい時代に渡来したカメラなる機械は、レンズに映した景色をそのまま現像できると言う浮世絵師も真っ青のシロモノであったが、どうしてか十翼に持ち込んでも薬売り達しか写らぬので震の一門が躍起になって改造を加えていた。まあ写ったら写ったで厄介のタネが増えるか上位の方々からお叱りを受けそうではあるが、そこは言わぬが花と言うやつであろう。何よりそんな事でめげる同輩ではないのだから。
「フ、丁度良い。坤、着物を脱いで、背をこちらに……ああ、襦袢はそのままで。」
「襦袢、ですか」
何やら機嫌を良くしたらしい離の薬売りが再び針を手に取りちょいちょいと手招くのに、今度は坤の薬売りが首を傾げた。脱がせようと言うには妙な言い回しは、今のところ特に言を継ぐ気はないらしい。彼が黒い絹糸を針に通すのを横目で見遣りつつ、坤の薬売りは言われた通りに朱い襦袢の背を向けた。
すいすいと背中の布に針が通っていく気配を追うと、背の中心、襟元に近いところになにやら円を描いているらしい。円を縫い終わるとその外、上下に瞼のように───。
そこまで辿ったところで坤の薬売りは真っ赤になって俯いたが、離の薬売りは上機嫌に糸を切り終える。朱に映える黒糸で縫い取られた目の紋は、離の薬売りの着物に縫われたそれと同じ形をしていた。