ぽふむん
2025-09-06 22:43:20
2204文字
Public ワンドロ
 

雲隠れの月

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負

「寺院」「香水」
氷柱if

鬼殺隊も鬼の存在も知らないけれど、幼かった頃と変わらず親交を続けてくれたモブ友人がいます。

モブ友人の旦那さんの死因はストレスからの脳溢血のつもりで書いています。


童磨くんに感情らしきものがあることを示唆してますので注意です。
微エロです

お願い、しのぶ。来てちょうだい。
寂しいの
不安で心が押しつぶされそうなの

そんな懇願に折れ、しのぶは幼なじみの夫であった男の一周忌に参列した。
葬儀の時は友引の日を避けた為、どうしても遺体の腐敗臭がすごかった。
臭い消しの為の香木だけでは足りず、キツく香水も撒かれていた。

今日はほのかな線香の香りが漂うのみ。

幼なじみは一年前の姿が嘘のようにやつれ果て、憔悴して見えた。
夫の死後、雑務に追われていただけではない。
夫側の親族から心無い言葉を次々吐かれたそうだ。
針のむしろ状態で、この一年を夫の供養のために費やしたそうだ。

その原因は、彼女の夫の突然死だけでは無い。
幼なじみが昔と変わらず、しのぶと交流を続けた事に遠因がある。

この家は鬼の存在を誰も知らない。
夫の死因も鬼のせいではない。

つまり、しのぶは親を失い、親族に預けられたというのにその手から出奔した家出娘姉妹の片割れ。
得体の知れ無い団体に身を寄せた不良娘としかみなされない。
実際、口にこそ出さないが嫌な視線をチクチクと感じる。

生前の幼なじみの夫は、でっぷりと肥えたおおらかな男だった。
妻の交友に細かな口出しはしないどころか、庇ってくれていたそうだ。
そんな夫と言う後ろ盾を失い、今まで直接来ることの無かった言葉の刃に友人はすっかり参ってしまっていた。

卑怯な
何か文句があるなら、何故直接言わない。
今までずっと親しくしてくれていた心優しい友人が、何故こんな目に遭わなくてはならない。

しのぶは小さく舌打ちした
「〇〇ちゃん。今まで仲良くしてくれてありがとう。私がいるからあなたはこんな目に遭うのよ。もう……来ないから……安心なさい……さようなら。どうか……元気で」

わざと、親族全員に聞こえるように大声で言うと、会食は辞退し友人の婚家を後にした。

お昼は法事で出されるわりご弁当でもいただくつもりだったのに。

仕方ない。

ここから極楽教寺院が近い。
軽食でもいただきに押しかけよう。
そして少し愚痴でも聞いてもらうとしよう。

🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷


「あー、お腹すいたぁ」
しのぶは喪服を脱ぐと、襦袢だけの姿でゴロンと横になった。
非常に行儀悪いことは百も承知。
でも、そこにいる男はそんな事を気にする男では無い。
書簡に目を通しながら
ふふっ
少し笑った。


「面白い書簡があったから、少しずつ読まさせていただいていただけなんです。
さすが脳外科医です。
この国では手に入りにくい専門書がたくさんあったんです。ただそれだけだったのに」

きぃいい

しのぶはバタバタと駄々っ子のように暴れた。

「こらこら、そんなに暴れたらおそそが見える」
ちらりとこちらを見て、にやっと笑う男にしのぶは口を尖らせた。

どうせ見えていないくせに。

今かけている眼鏡は手元を見るためのもの。
遠くにを見るにはまた別の眼鏡がいる事を知っている。

わざと襦袢の裾をさらにめくって見たが無反応。
案の定手元しか見えていないのだろう。

「後でいいかい❓せっかくのお誘いなのによく見えない」

ああ、やっぱり

しのぶは苦笑しながら、チラチラと襦袢の裾をひらひらさせた。
「面白かったんですよ。脳の解剖図。まだ扁桃体と海馬の関係のとこまでしか読めてはいなかったんですが」
そんな誘惑に乗るものかというように、童磨は再び書簡に目を落とす。
が、時折視線をこちらにやってはガッカリしたようにため息をつく。

「取り寄せてあげるよ」
「高いですよ?」
「なぁに。産屋敷殿につけておけば良い。必要経費だろ」

「悪党」
二人は声をあげて笑った。

しのぶは一周忌の際の友人の言葉を思い出す。
最初は頭痛を少し訴えるだけで今まで通りだった夫が、激しい頭痛に倒れ込み、ほぼ即死状態で死んだ。
驚いただけではなく、怖くて 、不安でどうしたらいいか分からず

その後も雑務でてんやわんや。
やっ落ち着いて
そしたらやっと、一人になると涙がこぼれたという。
今まで隣に居たはずの人がいない寂しさに明け暮れたと言う。

そんな友人に心無い言葉をかけた親族とやらは、鬼より鬼畜だと思う。

でも これも世の常なんだろう

怪しげな友人なんかと変わらずに仲良くしてくれたものだから。

そして、借りていた本の内容を思い出す。

「童磨……あなた、ご両親の例の事件のとき」
「前に言わなかった?寂しくも、悲しくも無かった」

珍しい。
最後まで聞かずに被せてきた。
口調は相変わらず穏やかだが、聞かれたくないのだろうか。

でも……変だ。
自分も両親が鬼に殺された時はそうだった。
友人も、病死とはいえほぼ突然死だ。

こういう時、寂しい悲しいは落ち着いたから浮かんでくる感情だ。
あの時童磨は5歳だったと聞く。

普通は

さては……

しのぶはニチャァと笑うと
「怖かった?」

童磨の動きが少し止まった。
空気が変わる。
童磨は眼鏡を外すとしのぶに覆いかぶさった。

虹の瞳が妖しく弧を描いて光る

「うるさい口は塞ごうか」
次の瞬間本当に唇が塞がれていた。

思考が霞む。
(図星でしたか?)

背中が広すぎるんだよ……と心の中で悪態をつきながらしのぶは童磨の背に腕を回した。

襖が開けられた気がしたが直ぐに閉まった。