chuahaaan
2025-09-05 23:49:16
981文字
Public
 

KISSそしてKISS

待ち合わせ時間までの暇な時間は隣のカップルのいちゃつきで濃厚なものになっていった。

先にあとがき
最初のKISS姿勢はどうにかなったけど、そこから向きを変えてKISSってむずかしいね!

「ここで?や、見られる」
「大丈夫、だいじょーぶだって」
 駅前にある有名な犬の像の前で友人を待っていると隣から甘い拒絶の声が聞こえた。
 さっき合流したカップルか。「寒いのにごめんな、待たせた」とか言いながら合流してすぐにお相手さんを台座に押し付け、緑色のモッズコートの下に抱き込んでいちゃついている。ファーのついたフードで顔が隠れて見えないが、それなりに長身のようだ。
「やめ……セット乱れる」
「あとで整えてやっから、な?」
 絶え間ないキスの合間に低い声で愛をささやいていると、吐息がとろりと漏れてきた。二人は俺と手の中のスマホよりお熱いようだ。
 ソシャゲのスタミナを周回で使い果たした俺のスマホはお隣と違ってじきに冷めきるだろう。へたったバッテリーは半分近く無くなっている。
 メッセージアプリを起動して待ち合わせ場所を確認する。――ここでよし。
 まだ温もりが残ったバッテリーをジャケットのポケットに放り込み、高く澄んだ青空を見上げる。寒い。あと20分はある。
 斜め前のマックにでも入っていればよかったのに数百円をケチったばかりに立ちっぱなし。小腹も空いたし、観念してアップルパイでも買ってこようかな。
「んあっ♡」
 え?
 どう考えてもお隣さんは昼前からお天道様の下で盛りに盛っていらっしゃる。
 見てはいけないと分かっているのに、コートと台座の隙間から漏れた声に目が吸い寄せられる。一瞬だけ垣間見えたお相手さんは真っ赤な顔で悩まし気に目を伏せ、台座の冷たく白い石に潜ろうと逃げる。
 それを許さないコートの緑色の腕が体ごとすくい上げ、小さく縮こまった背中を辿ったその上、うなじのわずかな隙間にフードの頭を近寄せ――ヂュッっと力いっぱい吸った。
「ひうっ......」
 腕の中の人は小さく強い口調で何かを言いながら振り解こうと暴れ始めた。体格差のせいで抱きすくめられてどうにもなっていないが、こんなことさせられたら怒っても仕方ないだろう。
「んー?ああ、顔は見られてねえって」
……!」
 フードがこっちを向いた。日に焼けた気のいいアニキと目が合う。
「な?」
 いたずらっぽくにやりと笑うが、目は一切笑っていない。俺は何も気づいていないふりをして待ち合わせ場所を離れることにした。
 熱々のアップルパイを目指して走るしかなかった。