心唯らむね
2025-09-05 22:44:20
3802文字
Public
 

それは彼女の本能たりえるか

⚠pkmnを利用した殺人描写あり⚠
チャンレティ闇堕ちIF小話
いじめっ子主犯(先輩ちゃん)視点の掌編
今日の通勤退勤時間だけで書き上げた突貫工事なので雑

 気付いた時には手遅れ、だなんて、私に限ってあり得ないと思っていた。
「待って、待って! いや、ごめんなさい、謝るから!」
「へーえ? 謝れば許されるって、本気で信じてたんだ」
 学園の一室。私たち専用の居場所と化した空き教室の中は、阿鼻叫喚のひと言に尽きた。
 私が無事ジムチャレンジャーになれたことを祝う、ちょっとしたパーティーの最中。突如として室内に現れた来客が、ひとりと五匹。
 鮮やかな緋色の髪をしたその少女は、かつて私が憎んだ相手。生意気で不愉快な目をした、一学年下の少女。
 スカーレット。私が下した相手。
 彼女は、困惑する私たちを尻目に、パーティーをめちゃくちゃにした。虚ろな瞳で、手持ちポケモンたちに指示を出し、次々と私の仲間を襲ってゆく。
 今も彼女のゲンガーが、不思議な力で私の仲間を拘束している。
 悲鳴をあげる仲間に向かって、彼女は心底小馬鹿にした風に冷笑を投げる。
「昔の人は上手いこと言うよね。『ごめんで済めば警察は要らない』って」
「いやああああ! お願いします、お願いお願いお——
 スカーレットがハンドサインを出せば、悲鳴を上げていた仲間は静かになった。がくりと崩れ落ちたその身体を、ゲンガーはゴミでも捨てるかのように放り出す。
 ゲンガーの手には、淡く発光する「何か」があった。ゲンガーはそれを嫌そうに見つめると、側にいたシャンデラの頭に放り込む。と、シャンデラの青い炎が増し、ガラスの割れ目からも炎のかたまりが噴出した。
 ゲンガーはそれを見て、満足そうにケタケタと笑っていた。
 そこで初めて私は、理解する。
 スカーレットの専門はゴースト、生死を司るタイプ。それゆえに、魂の扱いはお手の物だということを。

 肉体と魂を切り離し、死体を作るなど、造作もないということを。

 仲間のうち数人が、ドアの方へ向かう。
 頭目の私を置いていったことを、普段なら許しはしないだろう。もっとも今は、許す許さないどころの話ではないのだが。
「逃がすわけないじゃん。なんで逃げられると思ったの?」
 スカーレットの冷静な声が響く。
 彼女の言葉通り、逃げ出した彼らは、ドアの前で動けなくなっていた。その足元——影には、ジュナイパーの矢羽根が突き刺さっている。
 数秒と経たずに、彼らも動かなくなった。
「てめえ……くそっ、死ねや!」
「あんたがね」
 仲間内で一番の長身、わたしの恋人が殴りかかろうと、スカーレットは動じない。
 握り込まれた恋人の拳は、透明な壁に阻まれた。がつん、と鈍い音がする。
「“キングシールド”。おやつだよ、アジュガギルガルド
 どこからか現れたギルガルドに、スカーレットは声をかける。と、恋人はすぐに崩れ落ちた。ふわりと浮いた魂は、言葉通り、ギルガルドのおやつになった。
「さぁて、あらかた片付いたかな」
 部屋に死体の山ができた頃。スカーレットはにこりと笑って、へたり込む私を見下ろした。
「安心して。すぐに地獄へ送ったげるから」
 なぜ、彼女がここまでするのか、私には分からなかった。
 それでも、なんとかこの場を切り抜けなくてはならない。私はまだ、死にたくはないのだから。
……ね、ねえ、スカーレット。どうか落ち着いてちょうだい、ね、話せばわかるわ。取引しましょう?」
 努めて落ち着いた態度を作り、私はスカーレットの方を向く。虚ろなイエローグリーンの瞳と目が合った。
「これだけのことをしたあなたが、ただで済むはずないわ。ね、だから、お父様に頼んでもみ消してあげる。ねっ、そうじゃないと、あなた困るわよね?」
 死者のような雰囲気を纏う彼女に、怯まなかったと言えば嘘になる。だが、声の震えを飲み込んででも、私は舌を回した。
 彼女にとって都合の良い条件を並べ立てれば、幾分か、彼女の表情が和らいでゆくように見えた。最後の一押し、と私は言葉を紡ぐ。
「私が、無事に生きてないと、お父様は動いてくださらないわ。だから、私を助けてくれるわよね?」
 この私が彼女ごときに屈するなど、屈辱以外の何物でもない。だが、私は屈辱よりも死が怖かった。
「私を差し置いて勝ったことも、反抗したことも、今なら許してあげる。だから、ね?」
……素敵なアイデアだね」
 そう言って、彼女は微笑みを浮かべた。
 生気のない、微笑みを。

 彼女の返答に、私は心底安堵した。
 ああ、彼らのように惨めな死体とならずに済むのね、と。

 瞬間、胸元が熱を持った。

「でも死んでくれる?」
 彼女の言葉は、私自身の悲鳴にほとんどかき消された。
 胸元、右の胸の辺りが、熱いのだ。どうにもならないくらいに熱く、次第に悲鳴もあげられなくなる。
 熱に苦しみ、のたうつ私を、スカーレットは楽しそうに見下ろした。獲物を前にした、フォクスライのように。
「ジムチャレンジはね、あたしの全てなの」
 彼女は、淡々と述べる。
「片腕の自由を失ったあたしが、唯一誰かの上に立てる分野、それがポケモン勝負。あたしの人生そのもの。あたしは、生まれたころからトレーナーになるって、決まってた」
 熱さが痛みに変わる。痛みの震源地は、赤く染まっていた。
「あたしは主人公なの。あたしの人生における、唯一無二のヒロイン。だからあたしは、勝たなきゃいけないの。負けちゃいけないの。あんたなんかに屈するあたしは、あたしじゃない」
 虚ろな瞳。気味が悪いわ、と言ってやりたいのに、声が出ない。息が、吸えない。
「その夢を奪って壊したあんたに、あたしの世界で生きる価値はない」
 ごろごろと、嫌な音が喉奥でわだかまる。口の中が苦い血の味に染まったことで、喉に血が溜まっていることに気付いた。
「それに、あたしは『オリヴィエママの娘』」
 私がむせながら血を吐いても、彼女は言葉を止めなかった。どこか誇るように、母の名を名乗る。
 オリヴィエ、彼女の母親。元ジムリーダーで、チャンピオンカップ優勝経験もある、みずタイプの使い手。
「あんたが散々あげつらった、あたしのママ。あの人の娘である限り、あたしは完璧でなきゃいけない」
 彼女の背後には、彼女の母を象徴するポケモン・インテレオンが、顔を覗かせた。狙撃されたという事実に、私はようやく気付くことができた。
「あたしは、あんたなんかに屈しちゃいけない。あんたなんかに奪われちゃいけない。あんたなんかに屈し、奪われるような、完璧じゃないあたしは、いらない」
 息も吸えない。痛みで身体は動かない。胸の傷から血が流れ出るたびに、命が削ぎ落とされてゆく感覚を覚える。
「あんたが存在する限り、あたしは完璧にはなれない。ママの娘の相応しくないの。だから、死んでもらうね」

 なぜ、なぜ私がこんな目に遭わないといけないの?

 私は、私が受けるはずの栄光を、彼女から取り返しただけだ。多少手荒なこともしたが、学園から追い出したりはしなかった。そうすることもできたのに、しなかったのだ。
 私に楯突いた生意気な人間への処遇として、随分甘くしたと思う。仮にもジムリーダーの娘だというし、何かしら使える可能性もあったがゆえに。
 そう、私は感謝されるべきなのだ。末端の末端であっても、王侯貴族に連なる家系に生まれたのが、この私。そんな私が、増上慢に相応しい罰を与えてやった。彼女に奪われた、正当な権利を回復した。

 だというのに、なぜ、私は害されている?

「痛い? 苦しい? でも、あたしたちも痛くて苦しかったから、おあいこね」
 影ばかり落ちる瞳が、愉悦に歪む。
「高貴なお生まれのあんたが、まさか『自分だけ痛いのも苦しいのも嫌』なんて、みっともないこと、言わないよね?」
 そんな物言いに、不愉快だと感じている余裕もない。私は、痛みと恐怖に支配されていた。プライドも理性も、何もかもをなげうって、私は乞うほか無かった。
「ゆ……ゆるし……
「死んだら許してあげてもいいかな」
 熱の抜けてゆく身体で、なんとか乞うた許し。それを彼女は冷徹に切り捨てた。

 残虐非道、冷酷無情。
 今の彼女を表すのに、これ以上の言葉はない。
 平気で人の魂を抜き、死体を見ても平静を保っている。気味が悪いほどに冷静で、不気味で。それに応えるポケモンたちを含め、異常極まりない。

「ねえ、みんな。次は誰にする?」
 霞む意識の奥で、愉しげな彼女の声が響く。

 きっとそれは、彼女の本能だったのだ。
 躊躇いもなく人を傷付け、殺すことのできる気質。それを巧妙に隠して、普通の人間として過ごしていたのだろう。
 しかしそれは、何らかの理由によって、私たちの目の前で顕現することとなる。その結果が、これだ。

 なんという残酷。
 なんという理不尽。
 私が被害を被る理由など、どこにもないというのに。
 なぜ私が選ばれてしまったのか。
 そもそも、なぜ彼女の本能は目覚めたのか。

 冷たく沈んでゆく意識の中で、それだけがどうしても、最期まで分からなかった。

fin







本能かどうかと言われれば、それはNO
レティの本能は、純粋な好戦性と善性
「本能に目覚めた」ではなく「壊されて歪んだ」が正解
まあ、先輩ちゃんはそんなこと知らんけどね(笑)