こゆ
2025-09-05 20:53:08
1242文字
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アガペー

ローさんとペンギンとシャチのゾウ→ワの国あたりの話。
熱出しちゃったペンギンとクルー達が大切過ぎるキャプテンと、まったくもーって思ってるシャチの話。湿っぽい。

アガペー



大きな欠伸をひとつして、シャチはペンギンのベッドを覗き込んだ。シャチが起きたというのに、いつまで経っても視線すら寄越さないペンギンの額に手を当てた。
「あちーね、」
んん、っと眉間に皺を寄せたペンギンは酷く熱い息を吐いた。
「んー、ちょっと待っててな」
シャチはそう言い残し、部屋を出ていった。

ペンギンとシャチの部屋は立ち入り禁止となり、
数分も経たずに「ただの風邪だろう」とのありがたい診断までがついた。
安静と自室での隔離。
……流石のお前も病には勝てないか」
枕元でローがぽつりと零した一言を、ペンギンは熱と微睡みの只中で聞いた。
ふざけてる。
そのローの言葉の並びとは裏腹に、絞り出した声はあまりにも力無くて。
重たい瞼を無理に開くと、自分の顔を覗き込んでいるローの姿が目に入る。
「どういう意味ですか、」
答えなど聞かずとも知れていた。
自分の手が届く限り守りたいのだ、この人は。失うことを何より恐れている。毎日斬った沈めたを繰り返し、死が隣り合わせの日常を過ごしているにも関わらず、些細な風邪で寝込むペンギンの姿を見て、ローは恐怖に耐えかねている。
『酷えツラですよ。アンタの方が病気みてェ』
そう軽口を叩いてやろうとした時だった。
「キャプテン、ペンギンより病人みたいな顔しないでくださいよ。辛気臭いんで」
水差しを持ってきたシャチが、「まったくもー」とほおを膨らませた。
シャチの名前を呼ぼうとしてペンギンは思い切りむせ返ったのだ。激しく咳き込んだが為に血圧が上がったのか、景色は白み鼻血まで垂れる始末。思わず口を抑えた掌が、垂れた血でぬるりとすべった。
「おい!大丈夫か!」
身体を跳ねる様にしてむせ返るペンギンの身体を支えながら、血を見たローは焦った様に「おい!」と呼びかけた。
鼻血で死んだ人間はいないですよ、ペンギンはそう言いたかった。しかし、咽せたはずみで思いっきり息を吸い込んで鼻血だか鼻水だかわからないものが気管に入り込みまた咽せた。
ゲホ、ゴホっ、としているペンギンの代わりにシャチが口を開く。
「鼻血くらいじゃ死なないですよ。ローさん、ね? ペンギンは死なないでしょ?」
……死ぬわけねぇだろ」
ペンギンが風邪なんかで死にはしないって事くらい、ローにだってわかってるはずなのに。
シャチはその回答を、うんうんと聞いた。ローのことを咎めるでもなく、淡々と水差しを置いて、血を拭き取るためのガーゼを差し出した。
もう少し放っておこうとシャチは思った。ローは、もっと恐れるべきなのだ。おれたちが居ない世界の事を想像して、もっと孤独を知るべきなのだ。
もう少し放っておこうとペンギンも思った。過剰な心配に腹も立ったが、少しは思い知ればいいのにと思った。おれたちはそんなにヤワではない。
しかし、タフでもない。
そして、ローもまた。

おれたちの居ない世界なんて、そんなの寂しいんだって、こういうところできづくべきなんだと。