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ortensia
2025-09-05 10:24:41
5725文字
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傭リ
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ホラゲ(ててじゃない)パロよーり。よへのきしねんりょがある。てんたくるを「肉」塊として扱っている。
ジャック、リッパー、それとナワーブ。
flesh, blood, & concreteと言うホラゲ。ロシアが舞台(制作がロシアかは分かんなかった)2020年リリース。
良い音楽…。
明るい昼間の雪。余計に眩しく感じて、目を刺すようだ。
そうだ、刺されたのかもしれない。それで、こんなにも釈然としない痛みを抱えているのかも。そのせいなのかもしれない。
幼い頃の記憶だ。なんとなく周りの同年代の子供達に馴染めなくて、それでも母に促されて外に出て、子供達の雪遊びに混ざってほしそうだった。実際雪原に出たところで、煙たがられるので無意味に当たりに足跡を付けるのだ。こんな季節のこんな地域では、死体が転がっていたってどうにかなるわけでもなく、アートのようにただそこにあるだけのものになる。白に染みた赤まで凍らせて。しかし烏達は違うようだ。白い雪に降り立つ黒い彼らが、肉塊に群がって覆い尽くして。
幼少期の記憶は曖昧だ。いや、昨日のことだって、そうと言えるかもしれない。それでも嫌な感じの釈然としないものは覚えているものだ。くそ。
雪の夜を迎える街を車で駆け抜ける。夜もこえられる気がしたが、それで朝を迎える気にはなれなかった。もっと何か、なんでもないどこでもないそこへ。思考は遠く歪んで行くが、寒さだけは鮮明だった。
気が付くとハンドルに額を預けて凍えていた。そうだ車は。窓の外から軽やかなノック音。はっとして音がした横を見ると、窓に積もった雪をよける滑らされた素手が動いた。その手がどくと、仮面が外から覗いていた。
直ぐに扉を開ける動きを見せる。最初に少しだけ開けて、相手が充分に扉に当たらない位置に着いたことを確認して、自分も外に出る。
給仕のような格好をした相手の男は、随分屈んだ姿勢で車内を覗き込んでいたようだ、だいぶ背が高い。
「ご機嫌よう。お車の排気口に雪が詰まっていなかったら、うちの壁に激突して危なかったですよ。」
「
……
そう、だったのか?」
コンクリートの壁を見ると、車同様致命傷は負っていなかったが、ボロボロと傷は付いてしまっていた。
走らせている排気口に雪が詰まることもあるか、これだけ辺りは雪まみれだ。幾らエンジンが暖かくても、溶解が間に合わないこともあるのだろう。しかし、エンジンを入れていても随分寒い車内だった。いや、いつから車を走らせて、それをいつまで続けていたのだったか。そもそも本当にエンジンを掛けたのだろうか。
「もし?大丈夫ですか?」
「あ
……
!ああ、すまない
……
。」
「危ないところでしたものね。お疲れでしょう。是非うちにいらしてください。」
「え?」
「体が冷えていることでしょうから、温めなければ。」
ね。と言うもてなしに促されて、されるがままに招かれる。
「あの
……
、本当に、車で壁を、本当に申し訳ない。」
「いえいえ、あなたがご無事で何よりです。」
「けど
……
家にまで入れてもらって
……
こんなこと。」
「ただあなたが心配なだけですよ。」
そのままずるずると案内されるがまま付いて言って、暖炉が温かく爆ぜる部屋へ連れて来られた。
はあっと息を吐くほど思わずほっとした。この部屋では、もう息が白くない。
もう夜分も良いところだからか、部屋の明かりは消えていた。それでも暖炉の火で薄暗さに留められていたので、夜の外から来たせいか、気にならなかった。寧ろ落ち着くくらいだった。昼間の雪原も、あんなに明るいことないじゃないか。
「さ、座って。ゆっくり。」
ソファに促されて、腰を掛ける。
ゆっくりと沈み込む心地に、眠気が擦り寄って来るのを感じる。
「あゝ。寝室のほうが、良かったですね。」
微笑むように落とされた声に、既に微睡始めていた体は、腕を引かれて立たされても覚束ない。肩を回された手が、しっとりと湿っていることに違和感を覚えながらも、目を開けることが出来なかった。
「おやすみ、お客さま。」
さらりとしたシーツの上に横たえられて、その夜は終えられた。
目が覚めた。
瞬時に昨夜の記憶を思い出す。
室内は流石に明るさが差し込んでいた。
起き上がって、彼を探そう。
そして身を起こして目にした部屋の壁は、何かが這っていた。ばかな。なんてことない、薄い色の壁紙が貼られているだけのはずだった。
時折脈打つようにあどけなく柔らかい震えを見せるのは、決して見間違いではないはずだ。それに、この湿り気のある感じ、何処かで見覚えが。
幼少期の記憶にある、雪原の死体だろうか。あの死体にも湿り気は感じられたが、雪に倒れた肉塊など、雪原に滲んだ血の一滴すら、動くはずもないのに。
兎に角急いで部屋を出る。
入った時は気づかなかったし気にならなかったが、建物の中も全体的になんとなく湿り気があるような気がした。そんな気がして来ただけかもしれないが。
一見普通の板張りの廊下に出る。そのすみで蠢く肉塊が見える。ようだ。いや分からない、見ないようにしたくてそうしているふしもあるため、よけいに分からない。
部屋を出て一番近い別の部屋を開ける。
その部屋も、壁を肉塊が這っていた。柔らかな鼓動を奏でるように。
その隣の部屋も見てみた。やはり肉塊が脈打っている。そして部屋のすみには、死体が。
見間違いじゃなかった。じゃあ夢なのか。
「お目覚めですか。」
はっとして振り返る。
仮面が見下ろしている。
「ほんとにお疲れの様子でしたね。直ぐ眠ってしまわれて。お部屋、分からなかったでしょう?昨日ご案内したのはこちらなんですよ。」
そう言って、また案内を買って出る。
そして初めて気付いた。どうして昨日気付かなかったのだろう。その左手が、湿った光沢を放って蠢いていることに。
暖炉がまた暖かい光を放っていた。けれどそれよりやはり、外からの日差しのほうが強くて、落ち着きが削がれていた。
「おれのことも殺して、肉塊にするつもりか。」
「
……
そんな。わたしはただ、あなたが夜の雪の中、ひとりぼっちで凍えているのが心配で。耐えられなかったから。」
仮面は小首を傾げて、その向こうから真摯にこちらを見下ろしているように思えた。
「わたしだって、ここでずっとお客さまをお待ちしていたんですよ。ひとりぼっちで。」
だから、と縋るような目で見詰めて来る子供のように感じた。責めるように言ってしまったことを悔いる程度には。
「
……
おれは。おれは、死にたい。もう死にたくて車を走らせたんだ。人の家を、人様を巻き込むつもりはなかったから、それは本当に悪かったと思っている。けど、車が壁にぶち当たったんなら、どうせならそれで死ねば良かったと思ってる。」
だから殺されるならそれでも良かった。それで良かった。
だけどそうは続けられなかった。
尽くしてくれる相手に、何か自分も正直な気持ちを伝えたかっただけだ。ただの独りよがり。
「そんな
……
そうなんですね、だけど、命は大事にしないと。大切にしてください、あなたの命。」
真摯だが、この身になんの響きもない声が届く。そんな、ありきたりな。それくらい、別に始めて聞く言葉じゃない。ワゴンセールに出されている本にだって載っている。
「先ずは温まって。朝も冷えますね。」
促されて、また暖炉の前のソファに腰掛ける。
温かかった。
「
……
もう、帰るよ。」
「え?」
「もう充分明るくなったし、壁に車を走らせたりしないよ。これ以上世話なるわけにも行かないし、本当、ありがとう。」
「そんなこと。まだ全然いてくれて良いんですよ?言ったでしょう、お客さまを待ってたって!」
「うん。でも、いつかは出るわけだから。」
仮面が寂しそうに引き止めるが、なんだかそれだけで充分な気持ちになった。もう、帰れる。帰ろう。
立ち上がって出て行く途中、死体のあった部屋の前を通り掛かった。扉は開けっぱなしで、中の肉塊と死体が見える。
しかし、死体は肉塊に侵食されており、境界が分からないくらい塊になっていた。
建物を出て、車に向かう。
「あっ
……
。
……
はは、ははは
……
。」
車は肉塊の侵食を受けていた。
それに、車との接触で剥がれたはずの壁は、元に戻っていた。と言うか、壁の内側から見える肉塊が、どんどん壁に覆われて行く様子が見えた。
外からよく見たら、建物の窓には、みちみちと肉塊が詰まっていて、脈打つそれに、完全に塞がれているようだった。
車の排気口に雪が詰まって止まったと話を聞いたが、本当は。いや、既に全てが肉塊となってしまった車では、今はどうでもいいことだ。
来た道を戻る。雪の中はやはり冷える。
建物の扉の前には、仮面の男が立っていた。
「あゝ!戻って来てくれたんですね!」
とても嬉しそうだ。
「なら、まだここにいてくれますよね。」
選択肢は、肯定しかない。
もう一度建物の中に招かれる。
肉塊の蠢きも、心做しか喜んでいるように見える。
「わたしは、何度も何度ももここから出ようとしても、一度も出られなかったんです。幾つも幾つも出る方法が分かっても、全部出して貰えない。」
温かい暖炉の部屋で、ソファに並んで座って、彼はそう言った。
「本当に待っていたんですよ。どうしてもっと早く来てくれなかったんです?」
彼はそう言った。
壁で蠢く肉塊も、それに賛同するように体を揺らしていた。
「そうだ。わたしの家族に是非会ってください!」
彼はそう提案して、立ち上がった。
案内に倣って立ち上がり、また付いて行く。
彼は一度外に出ると、今迄案内されていた建物とは、別の建物の、入り口の扉を開けた。
「さあ、どうぞ。」
その建物の中も、やはり肉塊だらけだった。
前の建物よりも、湿気を多く感じる。
そして、部屋の一つ一つが大きいようだ。より大きな肉塊がそこにあるから。
「あ。少し、寄り道しても良いですか?」
向かうさなか、彼はそう言って、こちらの手を取った。子供みたいにはしゃいでいる様子だ。自分の子供時代に自分はそんな経験ないのに、彼をそう評した。
連れて来られたのは、ことさら大きな空間で、一面タイル張りの、大きなプールがある部屋だった。プールに水は入っていないせいか、プールの部屋の割にはからっとした爽やかな乾いた空気が、そこにはあった。
「ここ、声が響くでしょう?だから、わたしひとりでお喋りしていても、誰かと一緒にいるような気持ちになれるんです。」
硝子天井から満遍なく降り注ぐ日差しの中、彼はそう言って仮面越しに笑うと、空のプールに降りて行った。
プールの底には、ピアノがあった。
しかし中に肉塊が詰まったそれが弾けるようには思えない。寧ろピアノと呼べるのかさえ。
「鍵盤を押しても沈まないんですけど、触れた鍵盤の音を鳴らしてくれるんです。」
そう言った彼は恥ずかしげに、プールの部屋に音楽を響かせた。
目を閉じて聴き入っていると、音を止ませて、彼が照れ臭そうに戻って来た。
「行きましょ。」
ピアノでもないのかもしれないが、彼の前ではそのように振る舞っていたそれが、勝手に音を鳴らすことはなかった。
彼に付いて建物内を進む。
だいぶ奥まで来た。
いっそう湿気が強い。
「これがわたしの家族です。」
そこには大きな穴があった。そして肉塊で埋め尽くされている。壁にも、床にも。色とりどりと言っても良いのではないかと思えた。穴には降りるための梯子が、穴の壁沿いに取り付けられていたが、肉塊は逆にそこから湧き出るように這っているかに思えた。湿気も穴からゆっくりと吹き出して来るように、肌に感じる。
「ねえ。ずっと一緒にいてくれませんか。家族になってください。」
彼はさも純真な声で、静かに言った。
「ここからは出られないんです。ここで一つにならないのなら、餓死して死ぬだけです。」
自身も何度も出ようとしたと言う、この場所のことを彼は話す。
「
……
でも、外の人達だってみんな肉の塊なのに、肌一枚隔てて、他の人を拒絶して、分かり合えない。そんなふうにして命同士を傷つけ合うより、みんな一つの命になりましょう?だってみんな等しく、大事な大切な命なんですから。」
熱心に話す彼の言葉を、よくよく考える。目を閉じて、想像してみる。
互いに拒絶しない命、共生する肉塊。子供同士で馴染めないなんてこともなく、はみ出し者はおらず、母からも優しく接される。雪原の死体も、それだって、自身と何も分け隔てのない存在だ。自分と変わらない肉塊だ。
目を開ける。
「いや、おれはここを出る。それでも出て行く。おれは、おれとして。おれのこと、おれが経験した全てのことを、覚えたままで。」
彼は途端に悲しげな、泣きそうな吐息をもらし、しかし同時にこの答えを分かっていたようだった。
なんとしてでも餓死する前に出ようと思って、彼に背を向ける。
しかし出口には穴から盛り上がって来た肉塊がどんどん埋めて行ってしまい、塞がれてしまう。
「くそ
……
!?」
みちみちと音を立ててこちらを出さないようにして来る肉塊を、必死でこじ開ける。だがどんなに力を込めても、後から後から穴から溢れ出て来る肉塊に、逆にこちらが絞られて引き千切られそうだ。
このままでは餓死する前に肉塊になってしまう。
我武者羅に抵抗していたが、その襲撃が、ふと弱まる。
見ると仮面の彼が自らの体を捩じ込ませ、肉塊を押しやり推し留め、道を作ってくれていた。
「しょせん塊の一つでしかないわたしでも、あなたを外に出せば、わたしも、わたしとしての何か別の存在に、なれますよね?」
肉塊を背に震える体から、仮面が落ちた。
「わたしのこと、忘れないで。」
たった一つの目が、肉塊に埋もれてこちらを見詰めていた。
飲み込まれる仮面を背に、肉と、血と、それとコンクリートから走り逃げる。
忘れない。忘れないから、全部。
自分でも気付かずに流していた涙を瞬きで落とした頃、見知った場所に立っていた。
凍て付くような寒さはだいぶ収まり、春風が雫をさらって行った。
それでも、あの暖炉の温かさは、肌から離れない。
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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。
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