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幸希(ユキ)
2025-09-05 01:03:29
2494文字
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大事な言葉
9月3日と9月4日はむっちゃんの刀帳記念日。割りとしっかりむつさにしてると思う。
本当はありがとうだけにしようかとか考えてたけど、これ以外出なかったよ。イコールは切り離せなかった。
龍の刀に幸あらん事を。最大級の感謝と最上級の愛をあなたに。
月明かりに淡く灯る琥珀色。夜風に揺られる茶色い髪。装束から覗く日に焼けた肌は健康的ながらどこか色香を漂わせる。
(思考が随分色惚けだな)
そんな事を頭の隅で思う。出会ったばかりの頃は、容姿なんてほぼ気に止めず、内面もそこまで見ていなかったように感じる。それが堕ちてからはどうだ。すっかり骨抜きにされてしまっている。
(黙ってても絵になるとかもうずるくないか?一周回って腹立つわ)
理不尽な考えが頭によぎる。だってただの横顔だと言うのに、様になって仕方ない。腹が立つがそれ以上に目の前の存在の事が好きで好きでどうしようもない。どうしようもないほどに焦がれている。
「主、見すぎじゃ。」
「んえ」
むっちゃんに額を軽く小突かれる。
「そがに見られると穴が開いてしまうがよ。」
困ったように笑うその顔も好き。もう全部好き。なんなんだこいつ本当に。可愛いかっこいい。どうしてくれる。
「どういた?」
ん?とこてん、と首を傾げてこちらを見てくるむっちゃん。外を見ていた琥珀が私を見ている。重ねられた手の暖かさで、急に自分の気持ちが溢れて手に負えなくなった。
「主?」
言いたい事なんてたくさんある。でも、出てこない。
「
……
。」
心配そうに見てくるむっちゃんに何か言葉を返したいのに、何も出てこない。出るのは声にならない呼気だけ。
もどかしくて、焦りが出て、思わずむっちゃんの頬に手を伸ばせば、少しだけ頭を屈めて届く距離に寄ってくれる。あぁ、こういう優しいところも大好きだ。
好き。大好き。どうしようもないくらい本当に好き。心を占めるのはそれだけ。言葉にして伝えればいいのに、ただ息が零れるだけで声になってはくれない。言ってしまったら、この想いが軽くなってしまいそうで、正しく伝わらないような気がして。
(でも伝えたい)
欠片でも届け。感情と勢いそのままにキスをする。
「っ、」
僅かに肩をびくつかせるむっちゃん。でもそれも一瞬の事で、すぐに応えて返してくれる。触れるだけのキス。拙いやり方で、まるで子どもがしてるようなもの。けど、触れる熱も、感じる唇の厚さも、届く呼気も、全部のせいで酩酊してしまいそう。相変わらず頭の中はぐっちゃぐちゃ。あるのはただ「好き」の一言だけ。
「
……
。」
ちゅ、と軽いリップ音と共に溶けた熱が冷えていく。寂しくて、足りなくて、羞恥なんてどっかに置いてきたからと頭の隅で言い訳をしてもう一度をねだろうとする。でもやんわり離されて、代わりに抱き締められた。
「主
…
。」
色を帯びた声に背筋が粟立つ。抱き締めてくる腕の強さに胸が苦しくなった。
(好きだよ。大好きだよ)
心の中で繰り返す。言えたらいいのに。伝えられたらいいのに。肝心な時に音を紡げない自分が嫌になる。
「主、ありがとうにゃあ。」
「
……
え?」
顔を上げれば、嬉しくて仕方ないという顔をしたむっちゃん。
「なんで、むっちゃんがありがとう
…
?」
「おまさんに想われゆう事が嬉しゅうての。」
大きな手が頬に触れてくる。
「時が経つと、日々が当たり前になる。あるのが当然と思うてしまう。けんどそれは違う。物も、人も、想いも、不変のものなぞ無い。分かっちょるに、どうしても目の前のいろんなもんが不変やと思うてしまう。」
「うん。」
「共におれる事、隣でおまさんを見れる事、好きでおってもらえる事。それがかけがえのないもんやと、おまさんがいつもわしに教えてくれる。想い、想われ、互いに伝え合える。それがどれだけ幸せな事か。」
ゆるりと下がる目じり。目の前のむっちゃんがうっすら滲んだ。
「わしを選んで、想うてくれて、ほんまにありがとうにゃあ。
…
愛しちゅうよ、わしのおまさん。」
「そんなの、私のセリフなのに。」
溢れるように言葉が流れる。
「いっぱい本当は言いたいの。ありがとうも大好きも。今の私があるのはむっちゃんがいてくれたからだし、不甲斐ないとこや頼りないところいっぱい見せてるのにそれでも隣にいてくれるのが本当に嬉しいし、いっぱいあるんだよ。伝えたい事、言いたい事。」
「ほに。」
「でも、言えないの。ちゃんと伝えようって思うと、言った瞬間に気持ちが軽くなりそうで、そんな軽い気持ちじゃないから言いたくなくて、でも伝えたくて、矛盾してて、だから
……
、何か上手く言えない
……
。ごめんねちゃんとありがとうって思ってる。たくさんありがとうなの。大好きなの。でも
…
」
「無理に言わんでえい。言葉にならんらぁて、それくらいおまさんの気持ちが大きい証拠じゃろ?むしろそれだけ想われゆうなぞ冥利に尽きるにゃあ!」
あぁもう、バカ。そうやって君は私を甘やかす。許してしまう。
言いたい。伝えたい。言えない。もどかしい。煩わしい。
「
…
っ!」
躊躇いを振り払うつもりで口を開こうとしたけど、むっちゃんに塞がれた。
「無理に言わんでえい。そう言うたろう。」
「っ、なんで
…
」
「その言葉がおまさんにとって何よりも大事な言葉やき、余計に言えんがやろう?」
「そうだけど、でも本心なの!言いたくないとかじゃないの!」
「分かっちゅうよ。」
「なら
…
!」
「それを聞いたら、わしは多分今夜は離いてやれんようになる。」
抱え込む腕に力が込もってぎゅっと更に引き寄せられる。
「おいそれと言葉に出せんと言いゆうそれを聞いてしもうたら、愛しさでわしはどうにかなりそうじゃ。おまさんが涙を零いても、無理じゃと言うても、きっと気絶するまで離いちゃやれん。それでもえいが?」
「愛してるよ。」
あれだけ言えなかったそれがするりと零れ落ちた。むっちゃんの目が見開かれる。
「
…
ほんまにえいなが?」
「欲しがってよ。愛してるの。大好きだよむっちゃん。」
「
……
。」
飛んで火に入る夏の虫。逃げなかった私はきっと大バカ野郎なんだろうな。
苦しいくらいに強められた腕の中。あーあ、ばかだなぁと思いながら溺れるような熱に飛び込んでいった。
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