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まきわ
2025-09-04 21:12:53
4776文字
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クロリン
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遠くて近い蒼
先輩のRebirthDay記念話です
大団円直後の話ですが、カレイジャス内にやや捏造あり、そして先輩の内面描写に夢を見すぎている(?
日も当たらない建物と建物の隙間に入り込んで、空腹をこらえるように膝を抱えて座る。
そうして重たい頭をのろのろと上げると、屋根と屋根の間に長方形に切り取られた空が見えた。
蒼くて清々しい色をしているけれど、狭くて遠い。
(オレ
…
このまま死ぬのかな)
ぼんやりとした頭でクロウはそう思った。
生きている事に執着はなかったし、未練を持つようなものはこの世界にはもう無い気がした。
『あの男』をそこまで憎んでいるかというとそれとは違う気がしたし、未来への希望なんてものはひとかけらも心の中に見出せない。
けれどそうやってまだ13年ちょっとの人生を振り返ってみると焼けるような怒りが胸を震わせた。
喚きだしたくなるような怒りに息を荒くして、クロウはぎゅっと膝を抱えてそれを堪えた。
今の自分をこの世に繋ぎ止めているのはただこの怒りだけだ。
あの男へのというよりも、祖父を、そして自分を押し流した大きな運命という力への怒り。
ただ負けてやるものか、一矢報いてやり返すまでは絶対に死ねない。
(死なない
…
オレは、負けない。じいちゃんの人生が何の意味も無いものだったなんて、ただ大きなものに振り回されて終わったなんて誰にも言わせねぇ)
煮えたぎるような怒りが空腹からの脱力を超えて、クロウはゆっくり壁を支えにして立ち上がった。
まずはなんでもいいから、ゴミでもいいから食べられるものを探さなければ。
クロウは遠くて狭い空を睨みつけて、素知らぬ顔で笑っているような青空を銃の形にした左手で撃ち抜いた。
「
……
っ」
目が覚めると視線の先にあるのは青空ではなく無機質な天井だった。
一瞬自分がどこにいるか計りかねて呆然と天井を見つめる。
(そうか、カレイジャスの)
納得して息をついて寝返りをうとうとした。
その瞬間真横に顔があって思わず声をあげそうになった。
「ん゛っっ
……
!」
ぎりぎりのところで声を堪えて、間近で寝息をたてているリィンの顔をばくばく言っている心臓を鎮めながら見た。
一瞬の内に頭が目まぐるしく回転して寝る前に起こっていたことを思い出そうとする。
(そうだ
…
全部、終わって
…
)
Ⅶ組は一番の強敵をなんとか下し、そしてたくさんの人達の協力を得て本当の意味で黄昏を終わらせた。
そしてそれと同時に、クロウの第二の人生が始まったのだ。
(実感、湧かねぇ
…
)
クロウは体を横に向けて肘を立てた腕に頭を乗せてリィンの寝顔を見つめた。
湧かないなりに昨日はだいぶ浮かれていた気もする。
黄昏は終わらせたが、ヨルムンガンド戦役自体は戦闘を完全に終わらせるのに時間がかかる。
両軍が状況を把握してある程度撤退し、そこから停戦交渉が始まるのだろうから。
なのでカレイジャスもすぐに帝都に凱旋というわけにもいかず、一旦今となっては一番目立たず安全に過ごせる場所となったオスギリアス盆地に停泊し、昨夜は皆で一旦の打ち上げを行った。
全員無事に戻れた開放感からか昨夜は船内の全員がとんでもないはしゃぎようで、クロウ自身も生者として飲み食いできる喜びからだいぶ飲んだ記憶がある。
そんな中、リィンは何故かべったりとクロウの傍を離れたがらなかった。
離れたら魔法が解けるとでもいうようにしっかりと横に張り付いて離れない。
もう寝るぞという段になっても1リジュたりとも離れる気配を見せなかったので、仕方なく一緒にベッドに入ったのだ。
幸い旧Ⅶ組メンバーは賓客用の船室を与えられている。
ベッドも船員用船室のものより広めなのでなんとかぎゅうぎゅうになれば寝ることができた。
(この狭さであんな夢見たのか?それとも
…
全部終わったからこそ初心に帰れとか?)
夢の中の自分を思い出して、胸の辺りが重たくなったのをため息をついて吐き出す。
(まだ早朝の気配
…
さすがに誰も起きてなさそうだな)
感覚を広げて気配を探るも辺りは静まり返っている。
まぁあれだけ盛り上がれば当然だろう。
クロウは風に当たりたくなったので起き上がることに決めた。
リィンを起こさないよう、体を動かさないまま必要な部分に力を込め、ベッドに手をついて一気にリィンを飛び越えて床に降り立つ。
猫のようにわずかの音もたてずに立ち上がった後、念のためリィンを見下ろしたが変わらず穏やかな寝息をたてている。
(ここしばらく心安らかに眠るってわけにいかなかったろうしな。ゆっくり寝てろよ)
どうせまた考えなければならないことは山ほど出てくるのだ。
今日くらいは好きなだけ惰眠を貪ってほしかった。
クロウは小さく微笑むとそのまま船室を出た。
甲板に出ると気持ちのいい風が吹いていた。
昨日までは気味の悪い気配と穢れた空気に満ちていたはずの盆地には。今は荒涼とした寂しさだけがある。
その内きっと花も咲いて、綺麗な場所になっていくのだろう。
クロウは柵の傍までいくと腕を上げて体を伸ばした。
「~~~っ、はぁーっ」
大きく息を吐くと、体を屈めて策に腕を乗せた。
ぼんやりと盆地を囲む小高い丘を見つめていると夢の中の孤独な少年が頭に浮かんだ。
(
…
オレはマジで、馬鹿だったな)
復讐を志したこと、運命にやり返そうとしたこと自体は正しかったとは口が裂けても言わないが後悔はしていない。
けれど
…
。
(独りで全部抱え込んでばかでかいクソ運命に対して何かやり切れると思ってたのは、マジで馬鹿だった)
今の自分を見ればそれがよくわかる。
クロウは柵に腕を乗せたまま自分の手を見下ろした。
不死者の頃より赤みが差して、健康的な色をしている。
「
…
ほんと
…
馬鹿だよな」
「クロウ
…
?」
自分の呟きに重ねるように聞こえた声にクロウが振り返ると、船内への扉の前にリィンが立っていた。
迷子の子供のような顔をして、近付くのを躊躇うようにこちらを見ている。
「なんだ、起きちまったのか。もうちょい寝てりゃよかったのに」
おどけて言うとリィンは曖昧に頷いた。
「その
…
目が覚めて
…
クロウがいなくて。その、靴も残ってたから
…
消えて
…
しまったんじゃないかって心配になって」
「え」
慌てて見下ろすと確かに裸足だった。
どうりで足が冷たく感じるはずだ。
「あー
…
半分寝ぼけてたからな。ぼけっとしてて履き忘れたみてーだわ。心配しねーでもちゃんとここにいるぜ」
おどけ半分で両腕を広げてみせると、それに招かれたようにリィンはふらふらした足取りでクロウの傍まで来た。
確かめるように胸元に手のひらで触れて、そして温もりを確かめると瞳を潤ませてから思い切りクロウに抱きついた。
「お、おい」
締め付けるように背中と首に腕を巻き付けてしがみつくリィンを抱き返したものか迷っていると胸元から嗚咽が聞こえた。
「よか、よかった、俺、全部ゆ、夢だったんじゃないかって。都合のいい夢を見て、それでっ
…
」
必死に縋りついてくるリィンを反射のように抱き止めながらクロウは正直驚いていた。
陽霊窟で自分を繋ぎ止めた時、確かにリィンは自分を必要だと言ってくれた。
だからこそ彼の為に残りの命を使おうと決めたのだが、それでもなんとなく「仲間が欠ける事を惜しんだ」くらいで受け止めていたのだ。
けれど今必死に自分にしがみつくリィンを見ていると、あの時の言葉は決して過剰ではなく、それどころかものすごく遠慮した表現ですらあるのではないかと、そんな気がした。
同時にどうして昨夜ずっとリィンが傍を離れなかったのかもようやく理解した。
そうしたら、クロウはなんだかたまらない気持ちになった。
やんわりとリィンの体を支えていた腕の片方を腰に回し、もう片方でリィンの頬に触れた。
するとリィンは涙に濡れた瞳で不思議そうにクロウを見た。
そのどこかあどけない瞳が更に胸を締め付けて、クロウは衝動のままに深く唇を重ねた。
「んぅっ!?」
声と共にリィンは驚きに目を瞠った。
ふる、と体を小さく震わせたのが愛おしくて腰を抱く腕に力を込めて更に抱き寄せた。
次の瞬間。
思い切り腕をつねられた。
「いでぇー!なんで?!」
「な、な、な、なんで!?い、いきなりこ、こんなことするから
…
!クロウの遊び人!」
「遊び人て」
「こ、心の準備もできてないのに
…
!」
リィンは真っ赤になって軽く口元を押さえている。
なんだかその仕草もいじましい。
「心の準備できたらいいのかよ」
「そ、それは、まぁ」
いいのか
…
と思いつつ、今更ながらにリィンにとって自分はなんなのかを考えてしまう。
必要だ、と言われたけれどそれを深く考えた事はそういえばなかった気がする。
(あぁ、でもあの時から
…
)
陽霊窟での出来事を思い出す。
まだほんの、一週間ちょっと前のことでしかないのに、10年前のことを思い出すような気がする。
けれどあの時、ただ命を引き延ばされただけだった自分の存在に明確な意味を見出した気がする。
この世に繋ぎ止められたのだ、あの夢の頃の怒りと同じように。
そして彼と、その周囲で育まれた絆の力が死からの蘇生という最強の一撃でもって運命への反攻を成し遂げた。
自分が考えていたよりも、ずっとずっと大きくて最高の形で、独りでは決してできなかったことを。
だからこそただの独りで何もかもやろうとした自分を馬鹿だったと思うのだ。
「
…
ありがとな」
「え?」
そんな事を考えていたら自然と礼の言葉が口をついて出た。
リィンはきょとんと首を傾げている。
「あの時、お前が陽霊窟でオレを繋ぎ止めてくれたから今のオレがある。オレの二度目の命はお前のモノみてーなもんだ」
説明するとリィンは首を傾げたまま何か考え込んでから小さく苦笑した。
「それは俺だけの力じゃないよ。そもそもジョルジュ先輩が不死者としてクロウを残してくれなかったらあの時自体がないわけだし
…
何より」
リィンはキスで離れた距離をもう一度縮めてクロウの手をそっと取った。
「クロウの命はクロウのものだ。今度こそ、自分の未来の為に使ってほしい。その上で俺に預けてくれるならそれは嬉しいけど」
「リィン
…
」
目を瞠って、クロウはふ、と笑ってリィンの手を握り返した。
「そうだな。これからどうするかちゃんと考えねぇとな」
「うん。
…
まぁ俺も今後どうするかは考えないといけないだろうけど」
帝国の今後の立場を考えても、その英雄と言われたリィンの立ち位置は難しいもので有り続けるだろう。
それぞれ軽いとはいえない立場にいる仲間達も。
重たいものを振り払うようにクロウは空を見上げた。
あの日と似た色をしていたけれど遮るものがなく広い空はあの日ほど遠く感じなかった。
なんとかなるだろう、自分も、仲間達も。
けれどその為には。
クロウは握ったままの手を引いてリィンをもう一度抱き締めた。
「あっ
…
」
声をあげたのには構わず、リィンの耳元に口をよせた。
「なぁ、オレにもお前が必要なんだ。だから
…
これからも相棒でいさせてくれ。な?」
リィンはくすぐったそうに首をすくめて、それから微笑んだ。
「
…
うん、もちろん。俺からもよろしく頼む」
今はそれでいい。
たとえどんな関係に変わったとしても、相棒であることも変えるつもりもないのだし。
クロウは礼を伝える代わりに、ただ強く抱き締めた。
「
…
その、状況はともかく。なんでお二人とも裸足なんだろう」
心底不思議そうにクルトが呟く。
「知るかよ。あーくそやっぱ二度寝すっかな」
気怠そうにアッシュがぼやいた。
「うーむ。せっかくだから青空の下で朝稽古をしようと思ったが今出ていくのは『あうと』だろうか」
「だめだよラウラ。馬に蹴られるヤツ」
ラウラとフィーがどこか呑気に言い合う。
朝稽古組に見られていることに二人が気付くまで、あと数秒。
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