悠環 彰
2025-09-04 20:16:52
2795文字
Public MCU:バキサム
 

Memories of

エレとサムと思い出の話。
こんな感じのやり取りをしてくれたら嬉しいなぁ、と思って。

※バキサム前提です

※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作

「ボブ! 早く走って!」
「む、無理だよエレーナ! もう足が」
「アンタ、トレーニングサボってたでしょ!」
 エレーナはボブの手を引っ張りながらバタバタと足音を立てて廃倉庫の中を全力で駆け抜ける。背後から追いかけてくる複数人の足音。恐らく三人。どこの誰だか知らないが、ボブ、もといセントリーを狙ってやってきたらしい。この倉庫に逃げ込む前にはもっとたくさんいたのだが、アレクセイたちチームのメンバーが足止めを引き受け、エレーナとボブを先に行かせてくれた。
「ここにいて」
 崩れた棚の影にぜぇはぁと息の上がったボブを押し込む。エレーナは追手を迎え撃つ為、走ってきた方を振り返り銃を抜いた。先頭の一人の足を撃ち、転げた男に狼狽え立ち止まったもう一人に飛びかかって床へと投げ倒す。そのまま流れるように背中のバトンを抜き、最後の一人を力いっぱい殴る。
「はい、休憩終わり。行くよ」
 にゅ、と物陰から顔を出してこちらを伺っていたボブを引っ張り立たせて、再び走る。アレクセイたちは無事だろうか。ジョンもエイヴァもバッキーもいるし、問題ないだろうけど。
「わっ」
 正面に見えてきた倉庫の裏口を蹴り破って外へと飛び出した。と、待ち構えていたように男たちがどっと襲いかかってきた。
「ボブ!」
 明るい場所に出て一瞬だけ気が緩み繋いでいた手が離れた、その一瞬を狙ったようにボブと引き離される。舌打ちと共に腕に装着したバングルからテイザー・ディスクを取り出し、もがき暴れるボブから離れたタイミングを狙って敵の腕へ投げた。ビリ、と放たれた電流が男の全身を走って気絶させる。
「っ、エレーナ!」
 放電の音に頭を抱えてしゃがみこんでいたボブが叫んだ。その視線を追って、ハッとエレーナは背後を振り返る。
(やば……っ)
 銃口をこちらへ向けた男の指が、引き金を引く。その様子がスローモーションみたいにゆっくり見えた。この距離、このタイミングでは避けきれるかどうか。一縷の望みに掛けてぐっと体に力を入れ、回避動作を取ろうとする。
「ガッ!」
 だが、突然男はうめき声を上げるとどさりと倒れ込んだ。そこには何かが浮かんでいて、エレーナはきょとんと目を丸めて目の前のソレを見る。
 赤い、小さな、ステルス機だか鳥みたいな形の。
「ドローン?」
 ふよふよと浮いているソレを見ながら首を傾げたが、すぐに背後からわあと悲鳴が複数聞こえて慌てて振り返る。
「ボブ……っ!」
 叫んだが、ボブは無事だった。やはりしゃがんで縮こまったまま、だが先程のエレーナと同じ様にぽかんと口を開けている。その周りには先程襲いかかってきていた男たちが全て倒れ伏していて、代わりに真ん中に一人の男が立っていた。
「立てるか」
 襲撃者を一掃してくれた男、キャプテンがそう言った。目の前に差し出された手のひらを見つめて何度か瞬きし、ボブがその手を取って立ち上がる。
「立てるよ、ありがとう。まぁその、アンタに助けられるのはちょっとなんか複雑な気持ちだけど」
「キャプテン、あー、えっと、ありがと?」
 彼がどうしてここにいるのかは分からないし、正直警戒をするべきなのか解くべきなのかも分からないが、とりあえず危ないところを助けてくれたのは確かだ。駆け寄りながらひとまずはと礼を言う。ボブを助けてくれたこと、それと、自分を助けてくれたこと。
「彼を助けた分の礼は受け取ろう」
 すると、キャプテンはゴーグルの奥でいたずらっぽく笑った。
「だけど、アンタを助けたのはコイツだからな。アンタの分は俺じゃなくてレッドウィングに礼を言ってくれ」
 そう言ってふよふよと隣に飛んできた赤と銀のカラーリングをしたドローンを親指で差した。なぁ、とまるでペットだかパートナーだかに言うみたいに親しげな声をかけている。どう見ても機械なのに、本当に鳥に見えてるみたい。
「いや……だって、操作してんのはアンタでしょ?」
 怪訝そうな表情を隠しもしないままそう反論すると、彼はエレーナの顔を見て突然にふっと目を丸めた。すぐに、くしゃっと目尻に皺を刻んで、くっくっと笑い出す。
……何?」
「いや……はは、笑って悪い。ただ、ちょっと」
 顔を見て突然笑いだされたら気分が悪い。肩をそびやかせ不服を全面に出す。キャプテンは、そんなエレーナに怯むどころかどこか懐かしげに微笑みながらこちらを見下ろした。
「昔、ナターシャにもおんなじような反応をされたなって思い出して」
「ぇ……?」
「懐かしくなっちまった。悪いな、笑ったりして」
 流石、似てるもんだな姉妹ってものは。しみじみと零す声が耳に入って、なんだか無性に照れくさくなる。
 姉が自分のことをどこまで、どんな風に彼に語ったかは分からない。それでも姉を知る人に、自分を見て姉を思い出すと、似ているのだと言われるのはなんだか凄く、嬉しいような、切ないような、複雑な気持ちだ。
「ホアキン、そっちはどうだ……全員無事。そうか、良かった」
 インカムで連絡を取り、ボブとエレーナに戻って合流しようと声をかけると踵を返す。その背中を、しばらく眺める。
「ヘイ、ねぇ、キャプテン」
 気づいたら声をかけていた。動かないエレーナを不安そうに見ていたボブと、先を行くキャプテンが振り返る。
「今度、あたしとデートしてよ」
 同時に、「はっ?!」と声が上がった。
「エレーナ?!」
「バッキーともデートしてるんでしょ」
「なっ……なんで知って、いや、待て待て」
「ならあたしとしてもいーでしょ」
「だから待ってくれ! どんな理屈だ、それにデートって」
「チームとして敵対しててもプライベートは別なら、あたしとデートしてくれたっていーじゃん?」
 だからってなんでデート。っていうかなんでバッキーとのこと知って。いやそうじゃなくて。想像してたキャプテン・アメリカとまるで違って混乱し慌てている様子の彼、サム・ウィルソンを見てるとなんだかとっても普通の人で思わず笑えてくる。
「姉さんの……ヒーローだったナターシャの話、聞きたい」
 近寄って、見上げるようにしてそう強請ると、ぴたりと動きが止まった。こちらを見る視線は、戸惑いと、悲しみと。
……俺目線の話で、いいのか?」
 姉を、過去を懐かしむ、愛おしげな瞳。
「いーよ。お酒、奢るし」
「それって」
 唇がそっと紡ぐ、その響きに笑みを深める。知ってるなら話は早い。
「勘弁してくれ。アンタの姉さんに吐くほど飲まされたんだぞ」
「懐かしいでしょ。思い出の再現したげる」
 ほら行くよ、と呆然と立ち尽くしていたボブの肩を小突く。
「吐くほど飲んでもいいと思う日が来たら、連絡してよ」
 待ってるから、とウィンクを飛ばすと、やれやれとサムは首を振りながらもどこか嬉しそうに笑った。