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望月 鏡翠
2025-09-04 18:32:59
846文字
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日課
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#1832 1831の続き
#毎日最低800文字のSSを書く
我が物顔で体に這い上ってきた龍を見る。男の故郷ではそれは伝説の生き物で、絵の中に見ることはあっても、本物は一度も見たことはなかった。それが実在して生きている。ここは、そういう場所なのだろう。
ここがそういう土地であるのは、そういうものとして受け入れているが、この先連れて歩くというのは、難しかった。
まだ幼い雛である。その体には矢傷があった。偶然狩の獲物と間違われたと考えることもできるのだろうが、それ以外でも、この国はずっとどこかで戦の気配があり、血の臭いがしている。
この山は豊かだが、決して平穏ではないのだ。
男の姿を見た雛が警戒したのも、人が敵だとはっきりと認識しているのだろう。捨て置くこともできたのだが、目の前の命につい手を掛けてしまった。手当をされたことを理解して、味方と認識して甘えてきたのだから、ただの獣と言い捨てるにも知能が高すぎる。
一度手を出したのなら、責任をとった方がいいのだろう。だが、飼うとしても男の懸念は別のところにあった。
ずっとこの国を彷徨っているわけではない。男は旅人である。不意に世界の中に彷徨いでて、またどこかに消えていく儚い存在だ。
その時期を予期することも自分で決めることもできない。今かもしれないし、一月先かも知れない。だからいつかはわからないが、いずれどこかに消える。この子龍はまた一匹でどこかに投げ出されることになる。
「いずれ、一人で生きていくんだぞ」
言葉を理解しているのかいないのか、雛は肩から頭頂部に這い上り、角の間に体を落ち着けた。顔を上げて角に芽吹いた花のにおいを嗅いでいる。花をちぎったりはしないようなのでそのままにしておいた。
男は更に山奥に向かうつもりだった。
そも社交的な性質ではない男は、旅の道具が必要でなければ、望んで人と交わったりはしなかった。戦場で気が立っている人間であれば尚のこと。それは手負い獣よりも厄介な存在だ。
苔を踏み分けて奥へ奥へと進む。この国が、広い場所でよかった。
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