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柩木
2025-09-04 00:07:44
2499文字
Public
崩壊:スターレイル
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丹穹|海と星
丹穹webオンリードロライより。海と瞳を使用しました。
「なんか海行きたいな。どう?」
決定権をこちらに与えているようで有無を言わさず海に行く流れだな。
そう思った丹恒の直感は当たり、言葉による説得と駄々こねで資料室もとい列車から連れ出された丹恒は、穹と共に鱗淵境へとやって来た。風が運んてくる潮の匂いと、砂浜を踏みしめた時の感覚にどこか郷愁のようなものを覚えるが、単純な懐かしさとはまた違う。持明族としての懐かしさを感じる中に、個人的な経験から忌避してしまいたくなる、複雑な感覚。
この場所での思い出と言うと、あまり良いものではないから。
「この辺でいっか。ご飯食べよ」
「
……
ピクニック感覚で来る場所じゃないんだが」
「ポイ捨てとかして荒らさなきゃ何も言われないぞ」
その自由奔放さで色んな場所に赴くのが穹の常だと理解している。だが、それが鱗淵境にまで及んでいることへの奇妙さを覚えつつ、どこか納得感もあった。持明族の者に何か咎められたとしても、いつの間にか懐柔してしまうのだろう。駄々をこねられた自分のように最後には許してしまうのだ。
そうこうしているうちに上の広場に続く階段の、一番下の段に腰掛けた穹は自身の隣の石畳を叩く。観念して指示されるがまま隣に腰掛け、海を眺めるように二人は並んだ。
穹は片手に抱えていた紙袋をガサゴソと漁る。鱗淵境に来る前、金人港に立ち寄った時に購入した食べ物だ。ちなみに丹恒は飲み物を入れたビニール袋を持っている。
丹恒も穹にならって飲み物を袋から出すが、一瞬で終わってしまうような作業だ。対する穹は紙袋に手を入れて食べ物を出す
――
が、次から次へと色んな種類の品が出てくる。
二人の間に人ひとり座れるスペースを埋めていく品数に、丹恒は若干表情を引きつらせた。
「多くないか?」
「全部半分こするからイケるって」
二人で一品を半分にすれば普段より色々な種類が食べられると思ったらしい。とは言え、既に食べ切れるか心配になる量だ。まぁ、全て食べ尽くさなくても、残ったら時間をずらして食べればいいだけのことではある。
「今やってるゲームのイベントでさー。こうやって海辺でご飯にするってストーリーがあって、丹恒とやってみたいって思ったんだ」
そう言って包みの一つを手に取った穹は、中の包子を半分に割ってかぶりついた。途端瞳を輝かせて興奮気味に残りの半分を丹恒に向かって差し出す。
「ほら、丹恒も!」
紙に包まれた二分の一の包子。穹が半分に割った事で、既に餡が顔を覗かせている。湯気と共に立ち上る肉の香りは食欲をそそった。我慢する理由もないので、受け取ってからまずは一口。途端に口の中へじゅわっと広がる肉汁と旨味。肉本来の味を引き立てるよう混ぜ込まれた数種類の野菜のほのかな甘み。鼻に抜ける香りもまた美味しさを引き立てている。ほんのり甘い包子の生地も、肉の餡との相性が抜群に良い。
成る程。穹が目を輝かせた理由が分かった。これは確かに美味しい包子だ。
「美味しいよな」
「ああ」
一度かぶりついてしまえば、咀嚼はもう止まらない。勢いのまま食べ進め、三口程で食べきってしまった。これを呼び水に食欲が出てきたような気がする。
丹恒が最後まで食べきるタイミングで、また同じように穹が半分に割った品を差し出してきた。それを受け取って感想を言いながら二人で食べる。
そんな事を繰り返して胃袋の許容量が限界になってきた頃。幸運にも購入した全ての品を食べ尽くすことに成功した丹恒と穹は、満腹感により項垂れていた。食べ過ぎが原因なのは明白である。
「さすがに買いすぎだ
……
」
「うっぷ
……
。ごめん。次は気を付ける」
さすがにすぐには動けない。必然的に海を眺めながら食休みの時間となった。風と波が寄せては返す音に耳を傾けていると、穹が、おもむろに口を開いた。
「初めて見る
……
って訳じゃないかもだけど、海って言うと真っ先に思い浮かぶのってここなんだ。今の俺にとっての海」
「
……
そうか」
今の穹とって、と言うのはつまり、記憶を失ってからのいう意味なのだろう。過去に見た海を思い出せないから、直近で見た鱗淵境が彼にとっての海となった。
そう言われて丹恒も海を見る。思い返したい記憶もないが、穏やかな海の景色は嫌ではない。それが今の感想だ。
――
なら、昔はどうだっただろう。生まれた時や、追放された時に見た海は、俺の目にどう見えていた?
「こうしてみると丹恒の瞳って海の色に似てるかも」
鱗淵境は良くも悪くも郷愁に囚われそうになる。今も思考に絡め取られそうになった丹恒の意識を今に引き戻したのは、そんな穹の言葉だった。
「なんだ急に」
「見てたらなんとなくそう思った」
それまで海を見ていた穹が、丹恒へと視線を移した。星のように爛々と輝く穹の瞳が真っ直ぐに見つめてくるのは、改めて瞳の色を見たいからだろう。
話の流れからそうだと分かるのに、じっと真剣な眼差しで見られるとたじろいでしまう。
「綺麗だ」
それまでの真剣な表情から眼差しが崩れて、ふにゃりと微笑んだ瞬間に少しだけ細くなる。
お礼? 謙遜? はたまた何を言い出すんだと疑問を口にすべきか。なんと返せばいいか分からなくて、二人の間に沈黙が流れる。
たっぷり数秒見つめ合って、何の前触れもなく穹は立ち上がった。そして石畳のある場所から一歩踏み出す。
「んー! 食べすぎた!」
「どこに行くんだ?」
「波打ち際。ちょっと歩きたい」
ぐっと背伸びをし、振り返ることなく丹恒の質問に答えた穹はすたすたと砂浜に足跡をつけて波打ち際まで歩いていく。潮風により乱れた髪の隙間から覗くその耳は赤い。
あれは言うだけ言って恥ずかしくなったな。そして逃げた。
――
恥ずかしがるくらいなら言わなければいいのに。
急上昇する顔の温度を確かに感じ取りながら、丹恒は両手で自分の頬を包み込みながら大きく項垂れた。そして考える。
今し方穹が言い逃げたように、自分も同じ事をしたらどんな顔をするのだろう。
――
俺が海なら、お前は星だ。
顔の熱が引いたら伝えてみようか。
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