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山本
2025-09-03 19:25:34
6480文字
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神よりもなお
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神よりもなお【2】
神父で悪魔の🐯×デザイナーズベビーでカントボーイの🕒続き。
淫紋と悪魔にとってのカントボーイの美について。
【2】
「気を楽にしていろ、作業自体はすぐ終わる」
サンジの町を出てしばらく歩き夕方に着いた次の町。そこで町外れの宿にとった部屋でローがサンジを寝台に横たわらせ告げた。
サンジは宿屋の硬い寝台に仰向けになり下腹を晒した状態だ。それ以外は服を身にまとったまま。シャツすら脱いでいない、捲くっただけの格好である。
ローの右手がサンジの晒した下腹に触れひたりと置かれる。手のひらを置いたままローが細く深呼吸をして置かれた手のひらに力がこもる。その手のひらが置かれた下腹がじんわり温かくなっていく。
手のひらが押し当てられた下腹の温度がじわじわと熱を増していく感覚を覚え熱くなる。最初は人肌より温かい程度だったものが段々熱湯か熱したフライパンに触れたような熱さになっていき声も出せずただ唇を震わす。
焼けるような熱さにしばらく耐えるよりなくいると、不意に下腹に置かれていた手が離れて軽くなった。
熱が徐々に引いていきほのかな温かさを帯びた程度に治まっていく。
「これでお前の胎は機能する。ただし、人間の子は孕めない。未成熟だった胎内はおれの刻んだ刻印によって“おれの”精液とエネルギーのみ受け止める。セックスだけなら人間の男ともできるが、生憎おれは独占欲が強いんでな。それはさせねェ。お前はもうおれの眷属だ。眷属となったからには人間、悪魔、あらゆる生物、存在へ余所見することは許可しない。おれだけに心を向けろ。いいな、わかったか」
よく理解しきれない台詞を告げるローに何のことかとヨロヨロ体を起こして下腹を見る。そこにはハートを模したようなデザインのマークがついていた。まるで水浴び時に見たローの胸にある刺青のようだ。それの真ん中の顔のマークがないバージョンのようなマーク。それに首を傾げていると、ローの話す声が向けられる。
「それがおれが眷属の中でも特別な相手へ刻む刻印だ。今は表面の刻印も浮かんでるが普段は見えない状態になる。普段は胎内に刻んだ刻印のみが常時浮き上がり、皮膚の方の刻印はおれが意図して触れた時のみ浮き上がる。要するにおれ次第で発情する体になったってわけだ。まァ、嫌ならその発情に逆らいきったら良いだけだ。そこは好きにしろ」
話す間にゆっくり薄くなっていくマークにサンジがローの台詞の意味を整理し、要するにロー次第でいつでもどこでも欲求不満のようにさせられるのかと理解した。ものすごく嫌だと心の中で愚痴る。敢えて言葉にしなかった感想だが表情に出ているので丸わかりだが。
「ほう、そんな顔をするほど嬉しいか?」
「テメー嫌味か!嫌がってて言わなかっただけだろうが!!」
「知ってる、てめェは感情を顔に出し過ぎだ。嫌味を言われたくなきゃすぐ感情的になるのを改めるんだな」
嫌味で煽って更にサンジの直情的な面を指摘して言い放ったローが寝台横の椅子から立ち上がる。そして薄っぺらい気持ちばかりの存在感の毛布を掴みサンジに向け投げるようにかけると、唇の端を吊り上げるように笑いかけた。
「何にせよお前はもうおれのものだ。恨むならてめェをその美しさに生み出した親を恨め」
「おい。その綺麗だの美しいだのってのは何なんだ。この不自然でチグハグな体のどこが綺麗だってんだ。おれにもわかるように教えやがれ」
バサリと投げかけられた毛布を引っ掴んで体を起こしたサンジが自身を見下ろす灰色の瞳を見上げる。睨むように見上げる青い瞳にローは一見すると不機嫌そうな顔をして背を向けた。次いで左手を軽く上げクイッと人差し指を曲げて招く。
「来い。メシ屋で食いながら教えてやる」
スタスタと歩いてローブを引ったくりサンジを待つ様子もなく部屋を出ていくロー。サンジは寝台の上から慌てて降りると服を整え、バタバタとローを追って部屋を出た。
小さな宿屋を出てローブを纏いいつの間にか手袋までした神父姿のローと近くの酒場兼メシ屋へ。中に入るとローは蒸留酒と焼き魚におにぎりを注文し、サンジはチキンステーキと安価な黒パンとワインを。頼んだ酒と料理が出てくると食事をしながら会話を始めた。
ローの胸には銀の十字架。いつの間に持っていたのか、汚れも傷もなくローブの上に輝いている。
手袋の下の指にあった刺青は消えていた。
「で、お前の肉体の美しさについてか」
「野郎に言われるとどうにもサムいな」
「そんな機微知るか。人間にどこまで理解できるかわからねェが
……
最大限理解する努力をしろ。おれもお前が理解できるように説明する努力はする」
頬袋をパンパンにしておにぎりを頬張り言ったローが咀嚼したおにぎりを飲み込む。サンジはフォークとナイフを上品な仕草で扱いチキンステーキを一口食べると、手のカトラリーを置きワインを飲みローの言葉を待った。
「お前は神話を聞いたことはあるか?」
「神話?神話ってアレか。神様の一族がどうのとか人間の世界だ神と人間の争いだとかのアレか?」
「そうだ。神話の世界にはしばしば両性具有の存在が登場する。それは性の二元性という概念を超越した存在だ。言わば男か女かって縛りに囚われない者だ。おれたち肉体に囚われずに生きられる存在でもそれはまずいねェ。あらゆる生命は種として雌雄同体のものを除けば必ず男か女かに分かれることになっている。それはこの世界に存在する以上誰も逃れることはできないルールだ。誰もが絶対に男か女、どちらかに当てはまることになる」
ローの話にサンジがひとつ頷きそこまで理解できることを示す。ローはその反応に頷いて話を続けた。
「この世界に存在する限り、絶対に抗えないルールである性の二元性。雌雄同体の奴らは一見そのルールから逸脱しているようでそうじゃない。元よりそうある種は“種としてそうある”だけだ。両性具有ってのは種としては男女があるはずなのに超越した存在。つまり“種のルールにも世界のルールにも縛られない存在”ってことだ」
「縛られない、存在
……
?」
「そうだ。世界のルールからも種のルールからも逸脱した、何にも縛られない超越した存在。それが神話に描かれる両性具有としての存在だ」
ローの話にサンジが僅かに目を見張り動きを止めて聞く。驚きと戸惑いだ。
ローがおにぎりをひとつ食べ終え蒸留酒の瓶を手にして直接口をつけて飲む。ワインにグラスをつけてもらったサンジに対し随分荒っぽく見える飲み方である。おにぎりも焼き魚も綺麗に食べるのに見え方を気にせず自由に食事をする姿が不思議に見えもする食べ方だ。
箸を手に焼き魚を解してつまみ口に運ぶ。そして咀嚼して飲み込むと視線をサンジに戻した。
「おれたちにとって性の二元性の超越というのは死からの再生と同じくらい世界の理を超えた存在だ。肉体を持たないおれたち悪魔でもそれらは超えられねェ。それを超越した存在だからそこ美しいと言うし欲する。サンジ、お前の肉体は男女両方の特徴を備えた完璧なものだ。ただ胎が未成熟だっただけだ。だからおれは刻印を与えることでおれのみを受け入れ機能するよう弄った。ただ成熟させただけじゃ他の奴らに盗られかねないからな。特別な刻印を刻んだのは保険だ。その刻印は一度刻めば消せねェし上書きしようとなかったことにはできねェ。それだけ特別なものを刻んだ。お前にはそれだけの価値がある」
まっすぐ告げられサンジの瞳が僅かに泳ぐ。
サンジ自身に価値があるだなんて生まれてこの方言われた記憶がない。母と姉はサンジがこの体でも愛してくれた。だが、母は亡くなったし姉はサンジが逃げるのを手助けしてくれたのが精一杯。結局、サンジは捨てられるに至ってしまったが。
サンジのこの体に価値があると直接言葉にされたのは初めてで戸惑った。どんな反応をすればいいのかわからない。受け止め方が、正解がわからない。
「サンジ、お前は父親にそう造られたと言ったな」
「あ、ああ。そうだが
……
」
「父親はお前を捨てたと言ったが、何故だ」
「
……
出来損ないだそうだ。予定じゃおれは男として造ったはずだったらしい。けど
……
」
「そうか」
ローが溜息のように息を吐き出し二つ目のおにぎりを手にする。一口齧り、中身の梅干しを見て顔を険しく顰めギロリとカウンターの奥を睨む。
「ロー?」
「
……
先に話を済ませよう。まず、おれから言わせりゃせっかく生まれた特別な者を出来損ないと言うなどバカそのものだ。頭の足りねェ人間風情の限界と言ってもいいし、人間の常識の範疇から抜け出せねェ浅慮の塊と言ってもいい。要するに固定概念を壊せもしねェ浅く薄っぺらいバカだ」
「えっ」
「何故わざわざ世界のルールすら捻じ曲げ生まれた存在をわざわざ既存の概念に押し留めようとする。バカでしかねェだろう。この理を超えた存在の美をわからねェバカにはもったいねェほどだ」
サンジにとって父親とも呼びたくない父親をこき下ろされポカンとしてしまう。そんなこと気にも止めずローは話し続ける。
「そもそもだが、せっかく掘り当てた質の高いダイヤモンドをただの石炭のように燃やすバカは存在するか?人間の社会じゃ宝石は飾りとして高い価値を持ってるが、ダイヤモンドの価値はその硬さだ。利用するならその硬さを活かせる用途を考えるべきだ。それを燃やして石炭のように暖炉にくべてみろ。そいつは万人にバカだと嗤われるだろう。それくらい愚かでバカ極まりない行為だ。何故この美しさがわからねェ。まったく、人間てのは理解に苦しむな」
梅干しは入れるなと言ったのに入っていたおにぎりを忌々しそうに睨んで皿の隅に押し退けた。そして再びカウンターの奥を睨むと、文句を言わなきゃ気が済まないのか席を立とうとした。
「ロー、そのおにぎり梅干しか?」
「あ?見りゃわかるだろうが!アイツおれが梅干しは入れるなと言ったのに入れやがった!!一度客の注文を聞き逃すことのリスクを教えてやる!」
「ならそいつはおれが食うから寄越せ。代わりにチキンステーキの残りをやる。それでどうだ?」
「え?」
「変に目立つよりそっちの方がお前としても都合がいいんじゃねェか?」
ついっとチキンステーキが半分以上残った皿を少し滑らせたサンジにローが怪訝そうな顔をする。が、梅干しが大嫌いで何があっても食べたくないローはサンジの目の前へ梅干しのおにぎりと手付かずのおにぎりが乗った皿を滑らせた。手付かずのおにぎりは手に取りチキンステーキの皿を引き寄せる。
「交換はおれとしちゃ願ったり叶ったりだがてめェのパンはどうする?バターもねェ、ジャムもねェ。そのままで食うにしても美味いとは思えねェが」
「なァに、そのままでも食えるだけありがたいだろ。おれはパンが嫌いってこともねェしな」
カラッとした笑みを浮かべ食べかけのおにぎりを手に取り齧り付くサンジ。ローにはその態度の理由がわからず、訝しんで首を傾げつつも箸でチキンステーキを摘んだ。
「ったく、そもそも神父の格好しててたかが梅干しひとつでメシ屋の人間を脅そうとかよくできるな。それこそ考えが浅いんじゃねェのか?」
「何?てめェ、自分が綺麗だからと調子に乗ってんのか。そりゃあてめェらみてェな人間にはそんな寒気のするモンも食えるだろうが、おれは味や食感にこだわるんだ。どれだけ美しい形をしてようとおれのこだわりに文句を言うことは許さねェ!」
「バーカ。おれは生まれてこの方自分を綺麗とも美しいとも思ったことはねェよ。てめェのそりゃあただの偏食だろうが。こだわりなんて言い方で正当化しようとするなよ」
「何!?てめェその姿で美しくねェと言う気か!?チッ!被虐待経験による自己否定スキーマあるいは複雑性PTSDによる自己無価値感か。厄介なトラウマ与えてくれやがって!!」
「何だそりゃ?いいからさっさと食えよ。地味に目立ってるぞ、おれら」
「知るか!何故おれが人間なんかに気を遣わなきゃならねェ!!てめェおれが自己肯定感を育ててやるからそのつもりで腹を括っておけ!これだから人間は面倒で嫌いだ!てめェが生み出した別個体のガキを別個体とも認識せず所有物みてェに扱って歪ませやがって。そういう後先考えねェバカばっかりだ!!肉体の物理的外傷はいくらでも簡単に治せるが精神は干渉が繊細な治療も難しい代物なんだぞ!考えの足りねェバカ共め!!」
「
……
何かローってたまに言い方が医者っぽいな」
「おれの能力は医術由来のものだ。当然だろう」
「悪魔が神父で医術持ちってどうなの?」
「知るか。てめェら人間が作った区分けをおれに当てはめて押し付けるな」
「何だと!?医学ってのはそもそも人間の知識だろう!それを使っておいて偉そうなツラしてんなよ!?」
「バカ。そうじゃねェ。医学はこの世界に元々ある法則に則った知識だ。医術はそれを利用した技術。元からあるこの世界の法則とその利用法をあたかもてめェらの大発見のように扱ってるのが人間ってだけだ。てめェらの作り出した概念じゃねェ」
「えっ、そうなのか?」
「当たり前だろう。てめェらが新しく法則から生み出したわけでもあるまいし。何でも自分たち人間って種族が世界のてっぺんだと思うなよ」
「や、おれ自身は何もしてねェし知識も力もねェけどよ。へー、世界の法則なのかァ」
「ッてめェ!だから一々自分の価値を低く見積もるなっつってんだろうが!!第一、人間の中でてめェほど察しも良くておれの話もすんなり飲み込める奴が知識に欠けてるわけねェだろ!もう少してめェを客観視しやがれ!どれだけてめェでてめェを否定すりゃ気が済む。てめェはドMか。そんなに虐められてェならおれがたっぷり虐めてやる」
「何のことだよ!?っつーか虐めてくれなんて言ってねェよ!!この野郎、躾直してやるから覚悟しとけよ!?」
「誰にものを言ってる。それならてめェのことはおれが調教してやろうか?まずてめェの美しさと価値を認められるところから調教してやる。てめェが誰の眷属になったか思い出させてやろうか」
「ぐっ!?」
「てめェはもうおれのものだ。この場で胎を疼かせてやってもいいんだぞ」
「
……
わ、悪かった。わかったから勘弁してください」
「フン。わかればいい、さっさと食え。てめェがおれの眷属として安定するまで王都まで徒歩で移動だからな」
「だから王都までって一週間以上かかるんだぞ!?十日近くかかるってのに本当に行くのか!?大体悪魔なら一瞬で移動できねェのかよ」
「できる」
「できんならやれよ!!どんだけ歩かせるつもりだ!嫌がらせかテメー!!」
「うるせェ。王都に着く頃にてめェの体がおれの体液に馴染んでた方が都合がいいんだよ。その辺の教会の面倒なシステムを知らねェだろう」
「そういう事情は先に説明しろって言ってんだよ最初から!おれは!!」
「チッ。やはり黙らせるか」
「えっ?」
「逆らう気も起きねェようにするのとこの町の人間を消すのとどっちがいい。消していいならこの町に留まって頃合いを見て王都の手前まで移動する。好きに選べ」
「歩くからそれやめろ!!テメーまたアレやる気だろ!?気分良くねェんだよ!」
「甘い奴だな。王都にはてめェの利益のためには知り合いだろうが陥れるクソ野郎は死ぬほどいるぞ。だが
……
まァ、おれとしては欲の皮の突っ張ったクズよりお前の考え方の方が好きだ」
「うるせェ!テメーに好かれたくて言ってんじゃねェ!!」
「
……
酔っ払ったのか?顔が赤いぞ」
「うるっせーよ!!テメーのそれは素か!?わざとか!?」
「やはり酔ったか。驚くほど酒に弱ェな。アルコール耐性の低さか?肝臓を強化するか?」
「いらねーよ!!もう黙ってろテメー!いつか蹴り飛ばしてやるからな!!」
真っ赤な顔で睨み付け怒鳴るサンジに眉間に皺を寄せ不思議そうなロー。店内の客は二人を不思議そうに見ていて、けれど片方は神父姿のローであることから何か神聖なことを話しているんだろうと呑気に考えていた。
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