スサ
2025-09-03 18:23:21
2121文字
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【いずれ鬼水になる】人魚の子を拾う話

人魚と蝋燭オマージュ(?)な人魚の子の鬼太郎を拾う水木の話の出だし

 戦傷病者の恩給で、水木と母は小さな店を始めた。長くする商売ではない。元々商家でもないから伝手もない。それでも、電気が行き渡っておらず、停電も多かった頃のこと、手作りの蝋燭は存外売れた。また、まだ信心深い家庭も多く、仏壇に供える蝋燭もそれなりの頻度で消えたものだ。もちろんそれだけでは食べていけないので、何でも屋のように、簡単な修理や配達の請負もした。
 水木はそんな中で、ひとりの赤ん坊を拾った。なんと、体の下半分が魚の子。人魚の子だった。
 戦後、母とふたり移り住んだ海辺の小さな町には灯台とそれを見守るような小さなお宮がある。妙な胸騒ぎを覚えた水木がお宮に海の様子を見にいった、その帰りのことだ。弱々しい声に初めは子猫か何かと思ったが、なぜか放っておけず近づけば、それはおくるみに包まれた赤子だった。捨て子か、と慌てて近寄り抱き上げた、その最初の時は足に気づかなかった。はっきりとはしないが、片目が潰れているのか、ただれたようになっていた。
 抱き上げたその時に沸き上がった気持ちは、なんと言葉にすれば良いだろう。明らかに訳ありだ。水木の手には余る。けれど、泣いていて、生きようとしているのがひしひしと伝わってきた。そうしたらダメだった。気がついたら、水木はその子を家に連れ帰っていたのである。

 人魚の子だ。母はびっくり仰天、腰を抜かした。しかし、あまりにもいとけない様子にさすがに「捨てておいで」とは言えなかったのだろうか。
 息子の手からその子を引き取ると、案外しっかりした様子で世話をし始めた。母の様子に今度は息子の方が驚いたが、しかし、ぼうっとしている暇はなかった。あれこれと母に言いつけられ、てんてこ舞いとなってしまったから。

 そんな嵐の晩から、あっという間に五年ほどが経った。
 人魚の子は鬼太郎と名付けられ、水木家で育てられていた。人前に出たら何をされるかわからないから、遠い親せきの、親を亡くした子を引き取った、その子は事故で歩けなくなってしまっていると言うことにしている。同情する人こそいても勘ぐる人がいなかったのは田舎の素朴さか、水木の人当たりの良さか、漁師達にも大きな怪我は付き物だからか、とにかく鬼太郎は水木母子に見守られ、すくすくと育った。
 しかし6歳になれば学校にやらねばおかしな目でみられる。どうしたものかと考えるが、蝋燭作りを健気に手伝う鬼太郎を見ると、こうして過ごすのも悪くないか、などと考えてしまう。
 鬼太郎は人魚の子だからなのか、人の子より随分聞き分けが良く、賢かった。つぶれた片目は開かないものの、大きなどんぐりまなこで見上げてくるのはかわいらしい。血色も良く、栗色の髪はつやつやだ。車を買ってどこか遠くへ連れて行ってやりたい、というのが最近の水木の密かな願いだった。

 ある時鬼太郎が蝋燭の上に描いた不思議な絵文字のような模様は独特で、いたずら坊主め、と最初は叱ろうとした水木もあんまり良い出来なことに感心し、店に置いてみることにした。するとこれが評判となり、水木母子の小さな商店は賑やかになった。だが、ふたりは戦争で辛酸を舐めたこともあり、鬼太郎を無理に働かせようなどとは考えなかった。売り切れれば終わり。増産はしない。それがまた評判となってしまうことだけはどうしようもなかった。
 そして、もうひとつ。信心深い村人が、この美しい蝋燭を海難避けのお宮に供えたところ、航海の無事が続いたということで大層ありがたがられたのであった。人魚の手になるものだから加護があるのだろうか、と水木も思ったが、そんなことを言えるわけもなく、良いことが続くと良いですが、と控えめに言うくらいだった。

 しかし、村人の親戚や船乗り達から徐々に評判が広がるにつれ、いったい誰がこの絵付けをしているのか、大変霊験あらたかでありがたいことだ、どうかお目通りをと尋ねてくる人が出始めた。これがなかなか厄介で、本当に信心深い人ならともかく、金のにおいを嗅ぎつけてやってきた良くない連中もいた。悪い輩に対しては、水木も普段の穏やかさを引っ込め、こっちは兵隊上がりだ、と凄んでみせたりもしたものだがまあ、性悪というのはどうしようもない。ついに水木の留守を狙って水木の家に入り込む者が現れた。幸い、母の大声に気づいた近所の御婦人達が乗り込んできて、海の女を舐めるんじゃないよと袋叩きにして事なきを得たのだが。このとき、下半身の鰭は気づかれなかったものの、鬼太郎の顔自体は御婦人方の知る所となってしまった。
 歩けないという話は知られていたのもあり、世話好き子ども好きの御婦人などは甲斐甲斐しくお裾分けしてくれたりするようになったのだが、礼を言ったりするのにどうしても鬼太郎を勝手口とはいえ外に出さないといけなくなってしまった。
 頭が痛い、と思いながらも、心配する鬼太郎を抱きしめ、おまえは何も心配しなくていい、と言った水木だったが──とうとう事件が起こってしまった。
 鬼太郎がさらわれてしまったのだ。

*9/14-15の鬼水WEBオンリー「鬼が来たりて迎え水」で完成させて公開します