スズ
2025-09-02 23:46:44
2521文字
Public あつおさ
 

溶けても

事後の麦茶からんころんあつおさがイチャイチャしてるだけの話。

◆あつおさワンドロライお題「溶ける」で投稿したものです



 冷房を効かせてるのに、汗がこめかみを伝うから思わず笑いがこみ上げる。
 キンキンに冷やしているとは言わんけど。でも一枚しか着てなかった侑のTシャツを破くみたいに脱がされた瞬間は、ひやっと感じたくらいの空気だった。おそらく世界は真っ昼間だから(なにせ時計を見れてない、見る隙も無かった)身体にやさしい温度設定のままだと、動くだけですぐに汗ばむ。なんせ俺が今転がっているのは、プロのアスリートをやってる片割れが借りた南向きの角部屋のリビングにあるどでかいソファ。日当たり良好。冬場はぽかぽかしてこのソファでよくうたた寝をしてしまうし、夏場はこうして暑いくせにやはり転がってしまう。しかも大の男が素っ裸のまま、かさなりあって。
 喉が渇いたような気がしなくもない。確か、飲み物をソファのそばのローテーブルに置いたはずだ。くたびれてベッドで蕩けた俺を置いて、こんな日でも(こんな日だからこそ朝のまだ気温が酷い温度にならないうちに)せっせとロードワークに出ていった片割れが、帰ってきたらキンと冷えた麦茶を飲めるようにと氷まで入れて。なのに、ちらりと見たら、氷は悲しくも小さく溶けていまにも消えそうだ。
 原因はもちろんコイツだ。俺がいまうつ伏せで上半身だけ重なるように下敷きにしている(この育った胸筋は枕にちょうどいい)この男。俺の片割れ。半身。バレーで飯を食い、俺の飯で身体を作る、俺の男。
 コイツが昨日、身体がその形を覚えてしまうのではというくらい丹念に、丁寧に、それはもうしつこく容赦せず、貪るように暴かれた余韻がもうぜんぜん抜けなくて。まだなかにいるみたいで。そんなやばい俺を置いて一言もなしに出ていったアホが脱いでいったのは、昨日の片割れの匂いを吸い込んだTシャツ。俺はこれはしめたと、抜け殻みたいに置かれたそのTシャツをありがたく着てから、飲み物を汲んで、そしてこのソファに転がって待っていた。
 少しだけオーバーサイズのこの黒いTシャツは、侑の最近のお気に入り。ただオーバーサイズといってもちょっとダボつくだけで、もちろんなにも着てない下半身はモロダシ。パンツをぜんぶ洗濯でもしとんのかって間抜けな格好だけど、でも俺はアイツの片割れなもんで。こんな間抜けな格好の俺が、アイツにはとびきりの香辛料になることくらいはお見通し。
 少し息を切らし、汗を流して帰ってきた金髪サングラス野郎は、リビングに入ってきて俺を見つけた途端、おもしろいくらい足音をどすどすと変えてソファに近づいてきた。
 と思ったら、自分の身につけていたあらゆるものを剥ぎ取って(もちろんお気に入りのサングラスとキャップもそのへんに放り出して)問答無用とのしかかってきて、食らいつくみたいなキスと一緒に、人の股にまた指を滑り込ませた。
 その荒れるキスと弄られる手だけで、俺はとっても簡単に肚の奥を疼かせてしまう。カラダが期待して、勝手に開いてく。芯が熟れて、先走った先端をTシャツにわざと引っ掛けたら「フッフ、おまえのお気に入り、汚してもうたわ」て舌足らずに囁いて、仕上げは完璧。
 ぶちん、っと血管が切れそうなくらいこめかみをひくつかせた侑は。

「お前は、──ホンマに俺をどうしたいんや」

 嬉しいのか、キレてるのか、興奮しすぎておかしくなってるのか、全部がごったになってるのか。
 言って舌舐めずりしながら勢いよくTシャツを剥ぎ取って俺をひん剥いて、あとはまあ、ご想像の通り。
 どうしたいかって?
 そんなもん、俺のことどうにかしたくてたまらなくしたいに決まっとるやろ。アホツム。
 でもそこは俺の片割れサマなので、ちゃんと「こんな余韻で疼く身体になるまでこれでもかと抱き潰しといて放置してくなやボケカス、朝から寝込みでも襲って一発ぶち込んで起こすくらいしてみんかい」という、こちらの誘いに全力で応じてくれましたとさ。おかげでカーテンが開いたままの窓から燦々と降り注ぐお日様はとっくに日差しを全開にしてて、用意してやったグラスの氷もそりゃ溶ける。からんともコロンとも鳴りもせず静かに溶けて、薄まった麦茶が出来上がった。
「はーー……、冷房26°でもあかんのか。暑すぎるやろ日本の夏」
 汗が浮く額に張り付いた金色の前髪をかき上げた侑は、言いながらそれでも汗だくの俺の身体を抱き込んだままソファに転がるのをやめない。
 暑いなら離せばいいのにと思うけど。でも汗かきながらやはり抱きしめられて寝転ぶことがやめられない自分もまた、同じだけアホなのかも。
 わかってるくせに、離れたくない。
 暑いと文句を垂れながら、それでも体温を溶かしたい。
 肌と肌の湿度を重ねて、ぐちゃぐちゃになりたい。許されるならずっと。あの麦茶と氷みたいに、最初から薄まった麦茶だったらいい。
「あついなぁ、サム」
「せやなぁ、ツム」
 けれどそんなことはできないし、できたところでどうせ選びやしない。自分たちにはそれぞれ生きる場所があって、それもまた片割れの体温と同じくらいに譲れない。そう。こんなにも溶け合えるのは限られた時間、切り取られた今だけ。だからこそ。
「なぁ、サム。温度、下げてええ?」
 腕のなかに抱いたままの俺に、侑が問いかける。このままじっとしてれば、そのうち汗でむしろ身体が冷えていくだろうに。ようするに、もっと動くことしてもいいか?という許可取り。いくら最近予定合わなくてご無沙汰とはいえ、元気やなぁ。
「んーー……
……あかんの……?」
 人のこめかみにかわいいキスを送りながら、その骨ばった手のひらがカワイクナイ動きで剥き出しの尻を撫で回す。わざとやわこく撫でたと思えば、ときどき強めに揉みしだいて。
 けど、まだまだ元気なのは、こちとら同じ。
 だから俺は抗いもせず、腕の中に収まったまま鼻から甘い声を出して、どろりと蕩けて。
「温度下げるより、……シャワーで一回ひやすんはどうや?」
 なんて、ここぞとばかりにおねだりして、片割れの心臓の上から耳を離して見上げれば。俺を見下ろす金茶色が、お安い御用と言わんばかりにうっとりと細まった。