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望月 鏡翠
2025-09-02 21:30:17
893文字
Public
日課
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#1829 「灰色」「水」「荷車」
#毎日最低800文字のSSを書く
ドアを開く前に、家の中のものに目張りをする。寝室は特に慎重に行った。キッチンも机も布をかけてから、慎重に扉を開ける。どんなにゆっくり扉を開けても、目の細かい灰は舞い上がった。
マスクの中で慎重に呼吸し、ゆっくり踏み締める。外に出て、そっとドアを閉めた。うっすらと色が変わった扉を外からノックする。扉の隙間が塞がれた音を確認してから、まずは扉の外の灰を掃除した。ドアが開く程度には常に掃除をしていないと、家の外に出られなくなってしまう。その場合、窓から外に出るしかなく、家の中が汚染されることはわかりきっていた。
わずかずつではあるが、降り積もる灰の量は確実に多くなっている。
扉が二度と開かなくなる家も増えた。昔は心配して、住人が無事が確認しにいっていた。いつしかやめてしまった。時間が足りないのもそうだが、何より心に余裕がなくなった。
もし中の人間が死んでいたら、どうなるのか。どこに連絡をすればいいのか。そして、その対応をしたあとの自分の生活はどうなるのか。
通販で注文すればものが届いていた頃はいい。しかし文明の光は、灰の降り積もる大地からあっという間に失われてしまった。今は自分の足で何もかもを取りに行かなければならない。対価を求められることはなくなった。受け取る人間がいないから。
街は静かな家が増えつつある。外に出ることを諦めて、中で暮らし続けることを選ぶのか、それとも死んでしまったのか、確かめることがなくなったからわからないままだ。
街も人も徐々に死んでいる。
車は粉塵が舞い込んでエンジンが壊れてしまうから、使われなくなった。今は人間が引く荷車が主な輸送手段になっている。降り積もった柔らかい灰に車輪を取られるから引いていくのは大変な苦労を伴う。そのうちソリに変えた方がいいのかもしれない。
水を汲みに行く場所も、そろそろ変えなければならなくなる。灰色に濁って上澄だけ掬っても、わずかに泥が混ざり込む。
もうこの辺りも終わりに近いだろう。
引っ越す場所を探す必要がある。灰色に汚染されていない場所が、この世界に残されていればいいのだが。
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