魔王が転じた黒龍を倒して、全てが終わって、ハテノの家をゼルダに譲ったため、新たにアッカレに購入した自宅を、二人の新居として改めて同棲を始めた。ハテノの家は相変わらず村人に開放されていて、ゼルダ先生としての授業がある日に使っている。別荘のような扱いだ。
あの時、ハイラル城の地下で俺が手を取れなかった、暗闇に落ちていったゼルダが、泪の記憶でしか見ることができなかったゼルダが、龍になり万年ほ時を超える事を選び、人である事を捨て去ったゼルダが。今、実体を持ってすぐ隣に居るという事実に、俺は未だに実は夢だったのではないかと戸惑う。あの時取れなかった手。ラウル王達の力を借りて人に戻ったゼルダを、俺はあの時必死に追い掛け、手を伸ばし、掴んだ。もう二度と離すものか。そのつもりで抱き締め、抱え込んで湖に落下した。普通であれば、あの速度で湖に落下すれば死んでいたと思う。女神の加護とやらか、ラウル王達が守ってくれたのか、俺達は死ななかった。
ゼルダが目覚めたとき、俺は思わず泣いてしまった。泪の記憶でゼルダが龍化した時も泣いた。あのときは絶望の涙だった。今度は安堵の涙だった。堰を切ったように涙が止まらなくなり、幼子のようにしゃくり上げる俺を、目覚めたばかりのゼルダが抱き締めて、背中を優しく擦ってくれた。
駆け付けてきた賢者の皆に見守られながら泣いて、そのまま泣き疲れて眠ってしまって、砦で目覚めた時に揶揄われて恥ずかしくなってしまったのは記憶に新しい。
それから、異変により民に及んだ被害を確認し、復興のためにゼルダが駆けずり回る日々が始まった。俺もゼルダの護衛として共にハイラルを回ったり。けれど、ゼルダから離れて討伐に回ることが増え始めてから、俺の何かが少しずつ崩れ始めた。いや、自覚がないだけできっとギリギリで保っていたのだろう。
ゼルダと数日離れていると不安感が強まり、旅をしていた頃なら有り得ない細かなミスが積み重なり始めた。それらは右手の剣を、戦う意思を鈍らせ、負傷が増える。俺自身、その頃は何が起こっているのか全くわからなかった。やがて討伐隊から、調査隊から、色々な人から、世界を救ったのだから休むべきだという声が上がり、俺は長い休暇を貰うことになった。ゼルダは心配そうに俺を労ってくれた。
その時の俺の戸惑いを、そして俺自身も無自覚だった、今にも泡沫のようにゼルダが消えてしまうかも知れないという恐怖を、ゼルダは感じ取ったのだと思う。
ゼルダは、度々今が夢なのではないかと思ってしまった俺が一人でぼうっとしているとき、必ず俺に寄り添う。以前よりスキンシップが増えた気がする。そっと頬を撫でたり、手を繋いだり、抱き締めてくれたり…触れるだけのキスをしたり。
その度に俺はゼルダの存在を感じて安堵するのだ。ああ、ゼルダはちゃんとここにいるんだ、この温もりは嘘じゃないんだ、と。
たぶん俺はもうゼルダが居ないと生きていけないのだと思う。
ゼルダが帰ってきたと実感できるのは触れ合っている間だけで、肌が離れて少し経つとまた不安になってしまう。目の前で消えてしまうのではないかと、またゼルダを失うのではないかと。
だから俺は、ゼルダに離れてほしくなくてわざと甘えるのだ。この浅ましい俺をゼルダに知られたら、幻滅されてしまうかも知れない。ゼルダには知られたくない。この微温湯のような今が続けばいい。
これは愛や恋なんてうつくしいものではなく、独り善がりな依存だ。わかっている。
それでも、俺はゼルダから離れられない。ずっとゼルダのために戦い、ゼルダのために旅をして、ゼルダのために生きてきた。
ゼルダが居ない世界で俺は生きられない。
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