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ニイナ
2025-09-02 01:46:34
4597文字
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恋せよ少年
ピ学のロドフ。
中々告白しないローを見かねてロシナンテが背中を押す話。
格好良い人は誰もいませんし、若様が鈍いです。
穏やかな放課後のひととき、ローはおにぎりをボールで遊ばせていた。軽く投げたボールを、ボールにも近いまるみを帯びた身体で追いかけてせっせとローの元へ持ってくるおにぎりに、偉いぞと声をかけてローはその頭を撫でた。
「ローさ」
「なんだよ」
「さっさとドフィに告白したら?」
「っ!?は、え、なに言ってんだコラさん!」
近くのベンチに腰かけていたコラソンから不意に投げかけられた言葉に盛大に動揺し、ローは声をどもらせる。そのとき、おにぎりの顔をぎゅっと握ってしまい、キャウンッ、と切なげに鳴かれる羽目になってしまった。そんなローの動揺には素知らぬふりで、腰を上げたコラソンがおにぎりの頭をやさしくたたいて慰める。
「いやだってああ見えてドフィを好きなやついっぱいいるし。オレも好きだし」
「は?」
「まずクロコダイルだろ。ドフィから絡みにいってるのもちょっと好感度高いっぽいしさァ」
コラソンの忠告の続きにさらりとこぼされたものを追求する間もなく、たとえば、と名前が挙げられてローはむっと眉をしかめた。確かにクロコダイルにはドフラミンゴから声をかけにいくことが多い。手を組まないかと誘いをかけたのも一度ではない、らしいとも聞いていた。そう思うとジリジリと胸が焦げ付いていく。
「けど、あれは絡まれてウザそうにしてるだろ」
「わかってねェな。あれは駆け引きを楽しんでんの。クロコダイル、ドフィに絡まれて時々笑ってるし」
「
…………
」
呆れた、とでもいうようにコラソンにつらつらと話を続けられ、ローの眉間のシワはますます深くなった。苛立ちが燻って舌を打ちそうになる。そんなローの剣幕におにぎりがキュウン、と怯えたようにちいさく鳴いてコラソンの後ろからローを窺っていた。
「あとクザン先生とか」
「は?」
「なんか結構、ドフィにちょっかい出してる気がすんだよな〜〜」
「なんだそれ初耳だぞ」
コラソンの口から飛び出した名前にローは機嫌が下降するのを感じて堪えきれずに舌を打つ。まさか教師も誑かしているのかという腹立たしさと、生徒に手を出そうとしているのかという不快さが腹の中でぐるぐると渦を巻いていた。ローから漂う負のオーラにも怯むことなくコラソンがあっけらかんと話を続けた。
「オレも直接見たわけじゃないんだけど、サーフィンに誘ってたとかなんとか」
「
……
泳げねェくせに」
「泳げなくても好きらしい」
教師のアプローチになるかも知れない話を聞いてローは唸るように吐いて手をキツく握りしめた。苛立ちは収まることを知らずに掘り起こされ、腹が煮えそうになっている。サーフィンに誘われたのが事実だとしてドフラミンゴが頷いたはずもない、とは思うものの納得がいくものでもなかった。
「それに麦わらの少年とか」
「あれはあのバカが勝手に餌付けされてるからだろ!ドフラミンゴが好きとかそういうんじゃねェ!」
「そんなムキになるってことはローにも覚えがあるんじゃねェか?それに食欲は性欲と近いっていうしなァ」
次いで飛び出した名前にローはおにぎりに構わず声を荒らげる。ルフィがドフラミンゴの後にくっついている姿を見かけて呆然と時間を止めてしまったことがあるのは事実だが、ルフィの認識ではドフラミンゴはおそらく美味しいものをくれる男、のはずだった。それなのにある意味で信憑性の高い話をコラソンからされて、ローは唖然と口を開けた。ルフィにその意識がなくとも、無意識のうちにドフラミンゴをそういう対象として見ているのかも知れない、という恐ろしさにゾッとする。
「けど、麦わら屋はさすがに嫌がってるだろ、あいつ」
「鬱陶しそうにはしてるけど、基本ドフィ面倒見良いからつい世話はやいてるんじゃね?」
「
……
」
それを言われてしまうとローは口を閉じるしかなかった。ドフラミンゴが面倒見が良い、というのは確固たる事実で、手のかかるルフィが傍にいたらつい手を伸ばしていそうだと、残念ながら容易く想像できてしまう。年下相手となればまた多少甘くなったりするのもドフラミンゴの良さではあるが、ローにとってはいちいち人を誑かすな、という苛立ちにしか繋がらなかった。ルフィにしてもクザンにしてもクロコダイルにしても、ドフラミンゴへの好意がはっきりしないとはいえ、周りをうろうろされるのは腹が立つ。そもそも知り合ったのはローのほうが先であり、関係性も深いのだ。そこに横槍を入れられるようなことをされて、良い気分でいられるわけがなかった。苛立ちに焦げる胸とぐらぐらと煮える腸を抱えながら、ローは歯を噛んだ。
「あっ、そういやあの機械操ってる赤髪の子とも最近仲良いんだよな」
「あァ?」
「あの能力が気になるらしくてさ〜〜自分の能力と組み合わせたら楽しそうとか思ってんのかも」
「どこまで人を誑かせば気がすむんだあいつは。しかも、よりにもよって、ユースタス屋だ?ふざけんな!おれの能力のほうがよっぽどあいつと相性良いだろ!!」
血管が切れたような錯覚を起こすほど、怒りで目の前が色をなくす。キツく握りしめた手は震えていて、ローは盛大に舌を打った。抑えきれない憤りは禍々しいほど腹の中で渦を巻いていて、覇気にもなっているようだった。そんなローに怯えきったおにぎりがまるい身体をさらに丸めてコラソンの後ろにその身を隠した。クゥン、とあまりにちいさくこぼれた鳴き声は、残念なことにローの耳には入ってこなかった。
「いやそう言っても知らねェって
……
ドフィが人誑しなのは今に始まったことじゃねェし
……
だからさっさと告白したほうがいいんじゃね?」
「コラさん」
真っ当なことをわざわざ口にされ、ローは迸る憤りの矛先をどうしていいかわからなくなる。コラソンの言い分はとても正しく、その通りと言うしかない。ドフラミンゴを他の誰かに取られるなど考えたくもないし、考えるだけで吐き気がした。腹の中も頭の中もぐちゃぐちゃに掻き回されたように不快で、ローはまた舌を打ちたくなった。
「ロシナンテ、そろそろ帰らないと暗くなるぞ」
「ワン!」
「おにぎり
……
!?」
どろどろと澱んだ感情を煮詰めているところで、ふっとやわらかい声がしてローは顔を上げる。下校途中なのだろうドフラミンゴがすこし呆れた顔をしてロシナンテを見つめるのに、どこかの箍が外れかけ、脱兎のごとくドフラミンゴの胸へ飛び込んだおにぎりを目にして、ローの中で何かが切れた。
「ドフラミンゴ」
「なんだ?おにぎりには何もしてないぞ」
「おれと結婚してくれ」
「
………………
は?」
澱みを吐き出すように名前を呼んでドフラミンゴを見つめれば、その目はまた呆れをにじませていた。そんなドフラミンゴにも胸が焦げて焼かれて、ローは言葉を選ぶこともなく口を開いた。するり、と考えるよりも先に想いがこぼれたのに、ドフラミンゴが目を瞠り、コラソンが驚愕の声を上げ、おにぎりがきょとんと目をまるくさせる。
「いやいやロー!何言ってんだ!?」
「ロー、どうした?熱でもあるのか?」
「熱はない。おれは至ってまともだ」
「全然まともじゃねェだろ!いろんなもんすっ飛ばして結婚!?さすがにローが兄上になるのは嫌なんだけど!?」
「なんでだよ。煽ったのコラさんのくせに」
「そりゃ告白しろとは言ったけど求婚しろとは言ってねェよ!?」
ドフラミンゴが実に気遣わしげにローの顔を覗き込み距離を縮めたものの、それはコラソンによって腕を引かれたことで離される。怒号のように落ちてくる言葉が不満でコラソンを見遣れば、驚愕の上に理解不能だと書いたコラソンが首を振っていた。ドフラミンゴの隣を譲りたくないのだから、結婚を考えるのも当然のことでしかない。同じ墓に入ることも想定していれば求婚は正当な手段だった。
「ロー、言う相手を間違えてるぞ。そういうのはロシナンテに言ってやれ」
「はァ?」
「いやなんでオレ?」
「ローはロシナンテが好きなんだろう」
「コラさんは好きだ。けどコラさんと結婚はしねェし、する意味がわからねェ」
ロシナンテとのやり取りを黙って聞いていたドフラミンゴが口を開いたかと思えば見当違いも甚だしいことを言われ、ローは何度目かもわからない舌打ちをする。ローが舌を打つたび、おにぎりが縮こまってドフラミンゴの胸に顔を埋めているのがまた気に食わず、苛立ちが延々と湧いていた。ジリジリと焦げ付く胸を持て余しながら、ドフラミンゴを見つめると、ドフラミンゴが何かに納得したようにひとつ頷いてみせた。
「
…………
そうか、わかった」
「わかった!?」
「ドフラミンゴ」
「結婚じゃなく、決闘の間違いだな、ロー」
「
………………
あ?」
「えっ?」
何ひとつわかっていないくせに理解した、という顔をしたドフラミンゴから告げられた言葉にローは低く声を落とし、コラソンがまた驚愕を浮かべる。この流れでどこをどう捉えたらそうなるのか、本当に微塵も理解できなかった。結婚を決闘と間違えるなど、あり得ないことである。
「フッフッフッ!それなら仕方ねェ、付き合ってやるか。お前もずいぶん強くなったみたいだからなァ」
「〜〜っ、だから違う!クソッ、なんでこういう時だけ無駄に鈍感なんだ!そういう隙が余計なもん引き寄せてんだぞ!いい加減にしろ!!」
「
……
付き合ってやると言ってるだろう」
「いやだから視点が違うっていうか
……
なんていうか
……
」
あまりにも鈍くて感覚のおかしいドフラミンゴに声を上げて、ローは地団駄を踏みたくなった。普段は鋭くて察しが良くて理解も早いドフラミンゴのギャップともとれる様子に、勝手に胸が撃ち抜かれる。ローの好意を少しも信じていやしないドフラミンゴに憤りが増したものの、このまま言葉の綾で丸め込みたくなった。付き合ってやる、という言葉は肯定であり了承である。それならば、ドフラミンゴという男はローとの『結婚』を了承したことになるのだ。屁理屈だとしても、もうなんだって良かったし、言質が大事なのである。
「なら、一生付き合ってもらうからな」
「フフフッ、そう簡単に俺に勝てねェだろう」
「これは勝ち負けじゃねェからいい。コラさんも証人だしな」
「あーー、そういう
……
」
ドフラミンゴの了承を勝手に受け取り、コラソンを証人に立てれば、コラソンだけがローの思考を正しく読んだ。納得して唸るコラソンの顔にはなんとも言えない微妙な表情が浮かんでいたのだが、ローはそれを黙殺した。
「ロー?」
「今更、ナシにはさせねェ。お前は、おれのもんだ。離さねェぞ」
「ちょっと待て、話が見えねェ
……
」
「付き合うって言ったのは、お前だ」
「ドフィも諦めたほうが無難だと思う」
「ロシナンテ!」
ローの考えを読めずに困惑しているドフラミンゴの腕を引いて、ローはロシナンテと暮らす家へと足を向ける。そこにはいつか渡そうと決めている指輪があるので好都合だった。このまま既成事実で丸め込んでドフラミンゴという男を掌中にしようと決めて、ローはぐいぐいとドフラミンゴを引っ張っていく。どうせこの男はローに甘いのだから、絆して落としきるだけだった。意味がわからないと声が上がるのも無視して、ローは帰りの道のりを軽やかな気分で歩いた。
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