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山本
2025-09-01 01:18:03
3983文字
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手負いの野良猫と外科医
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手負いの野良猫と外科医【3】
外科医🐯×元野良猫🕒︎︎
人間になった🐱🕒ちゃんと衝撃の連続の🐯
【3】
リビングのソファーの上、おれのロンTを着た全裸痴女が鬱陶しそうにロンTを摘んで引っ張り、顰めっ面で生地を引っ張りまくって首をプルプルと振る。
その動作の度にチリンチリンと鳴る首輪の鈴に眉間の皺がとれない。
どうやらこの痴女の話を信じるなら、こいつの正体はサンジらしい。
ふざけんじゃねェ。そんなことを言われてあっさり信じるバカがどこにいる。ガキでも信じねェよ。
ロンTを思いっきり掴んでグイーッと容赦なく引っ張って足を乗せたソファーを裸足の足がドカドカドカと数回蹴る。どうやらこの痴女は服ってモンがお気に召さないらしい。
知るか、そんな都合。他人様ん家で全裸を晒してんじゃねェ、服を着ろ。
ロンTを引っ張って、辛うじて履かせたボクサーパンツもグイグイ引っ張って嫌そうにソファーをトトトトッと連続で蹴る姿に溜息を飲み込む。頼むから人間なら人間らしく振る舞ってくれとしか思えない。どこの野生児だ。狼か何かに育てられた子供じゃあるまいしとさえ感じる。
「で、お前がサンジだってどう信じりゃいい」
頭が痛む気さえしながら問えば、全裸痴女はチリンと音を立ておれを見た。そして服と格闘しながら話し始める。
「どうって今この家の中に猫のおれはいるのかよ?」
「いや、それは見当たらなかったが、ひょっとしたらどこかに隠れてる可能性も
……
」
「おれローのこと隠れて待ってたことねェと思うんだけど」
言われて確かにと思ってしまった。
サンジはケージにいた時からおれの帰宅は隠れたりすることなく見ていた。最初、ケージの中ではトイレに駆け下りてトイレでお出迎え。ケージの中で定位置らしいブランケットの上で出迎えてくれるようになってから、ケージを撤去して以降は上の方から少しずつフローリングに近付き、最終的にはおれが帰ると歩いてきて出迎えてくれるまでになった。
距離感こそ違えど、いつでもサンジはおれの方をじっと見られる場所で迎えたのだ。一度たりとも隠れたことはない。
「鬱陶しいな、人間の服ってのは。何でこんなモンつけてんだ?動きにくいし邪魔だろ、こんな布」
ものすごく嫌そうにサンジがグイグイ引っ張っているロンT。それはアパレルショップでン万円したものだ。が、もう見るも無惨に生地が伸びてヨレヨレで、二万三千円と頭の中で呟く。春に買ったばかりのロンTが既に見るも無惨なヨレヨレ姿。限定品でデザインが気に入ってただけに少しショックだ。
「はァ
……
ひとまずお前がサンジを知ってるってのは認めよう。だが人間のてめェが猫のサンジだとどうやって信じりゃいい?」
取り敢えず、ロンTは考えないことにして常識的な問題から痴女の主張の真偽を問う。と、ロンTの胸の生地をこれでもかと引っ張ってソファーを蹴ってた痴女がピタッと動きを止めておれを見た。そしてパチパチと瞬きをして自分の体を見てる。
何をしてるんだと思ってると、プルプルと頭を振ってピョコンと金色の毛を跳ねさせる。
動きを止めた痴女を見てギョッとした。
頭を振って跳ねさせた毛だと思ったものは獣の耳で、顔の横にあった耳は姿を消してロンTの裾から長い尻尾まで生えている。
「えっ。え!?どういうことだ?何で痴女から獣の耳と尻尾が!?金色
……
えっ?まさかこの変態真っ裸がサンジ!?えっ。まさか!?」
「誰が変態だ!!おれからすりゃてめェら人間の方が無駄に服なんて布でごちゃごちゃ飾った変態だっつーの!!第一てめェが信じられねェっつーからコレ見せたんだぞ!」
「コスプレする手品師の露出狂か
……
?」
「喧嘩売ってんのかコノヤロー!!てめェメスの一匹も連れて来れねェ、まともにメシも食えねェって半端モンのクセにナメてんのか!!」
突然獣の耳と尻尾を生やした痴女に信じられない気持ちで告げる。その推測にコスプレ痴女が耳と尻尾の毛を逆立てて怒鳴った。だから、思わず反論しようと口を開きかけて、ふと固まった。
メスの一匹も、とは?そう言えばメシを食うのも下手と言っていた。食事自体は得意不得意なんて関係ないと思うのだが、何を言っているんだこいつは。
「メスの一匹も?メシを食うのが下手ってどういうことだ。食うって行為自体に得意も不得意もねェだろう」
「あ?てめェ、おれが来てからこっちメスを連れてきたとこなんて見たことねェぞ。それとも外でヨロシクやってんのか?」
「外?
……
それは恋人ってことか?」
「コイビト?人間は交尾するメスをそう呼ぶのか?よくわかんねェなァ。前にいたとこはジジイの家だったからなァ」
おれの言葉にガシガシ頭を掻いて髪やら耳やらを撫でたり梳いたりして整えるコスプレ痴女。本心から言ってそうな台詞に、ひょっとして痴女だとかじゃなく本当にサンジなのかと驚愕する。
「
……
お前、おま
……
本当にサンジなのか
……
?」
「だからそう言ってんだろうが!ったく、何で人間てのは匂いでわかんねェかな。匂い嗅ぎゃおれだってわかんだろうが。ジジイといいてめェといい、つくづく面倒だな」
ぶすっとした拗ねたような表情にソファーの上に足まで乗せて膝を折り曲げ丸くなり尻尾を体に絡めた格好。ひとつひとつにどんどんサンジだという確信が高まっていく。
驚くほど柔らかい体で丸まって尻尾は腕に巻き付けて、ソファーの肘置きに顎を置きそっぽを向いた姿。拗ねたようにも見えるその素振りに九割超サンジだという確信を得て立ち上がった。
「今日!!おれが帰ってきた時どう感じた?何か違和感はあったか!?」
我ながらデカい声が出たと思うが、反応を伺ってるとそっぽを向いた後頭部の耳がピクッと動いて腕に巻き付いてた尻尾がボスンとソファーを叩いた。
ギロリと振り向いた顔は怒りの表情に見え瞳孔は針のように細くなり、目が吊り上がっている。露骨にわかる不機嫌さの象徴。怒りだ。
「てめェ
……
アレをおれは許してねェからな。おれってのがいながらどこの猫とも知れねェ匂いさせやがってクソ野郎」
ボスンボスンとソファーを叩く尻尾。のそりと体を起こしおれの腕を掴んだ手はさっきまでと打って変わり、爪が鋭く伸びていた。
腕に食い込みチリチリチリと爪跡を残す強さが痛い。金色の耳は僅かに外へ向き、軽く反り返っている。
「あんなに何匹もの匂いをさせやがってこの野郎
……
毎日せっせとおれの匂いつけてやってたってのに、あんなにあっさりと他所の奴らの匂いをベタベタと
……
」
「だから、アレはサンジがうちに来て四ヶ月を祝うのにケーキをと」
「前にいたとこじゃジジイはおれのメシと一緒にてめェのメシも用意してたぞ!!それともてめェは自分のメシも獲ってこれなかったってのか?あんなに他の猫の匂いをさせておいて白々しい!」
「待て、聞け。あの時も言ったがそもそも人間の食い物と猫の食い物は塩分やら材料やら仕様や基準が違う」
「だったら何だ。てめェはおれのメシは獲れるのに人間用のメシは満足に獲れねェってのか?あのカップ麺て奴もそうだ。ありゃ体に毒らしいな。それをバカスカあんな山ほど食いやがって。だからそんなモン食うなつってんのに気付くと食ってるし、てめェにはちゃんと言ってやらなきゃならねェと思ってたんだ」
チリリと爪跡が伸びて腕が傷付き、おれは間違いなくサンジだと確信した。
ああ、これはサンジで間違いねェ。どこでどんな知識を得てどう判断してこんなことを言ってるかは知らないが、間違いなくこの女はサンジだと十割の割合で確信した。
「すまない。まず朝帰ってきた時の匂いと日頃の不健康な食生活で心配させたことを謝る。だが、おれは料理が得意じゃねェ。加えて今日はお前のためのケーキを買うことで頭が一杯になっていて自分のメシのことまで考えられていなかった。今度からは忘れず買ってくると約束する。それで許してくれないか?」
腕につけられる爪跡の痛みなんてどうでも良くて言うと、サンジはきょとんと目を丸くして爪を立てるのをやめた。首輪がチリリンと音をさせサンジの首が傾げられる。
「お前そんなメシ食うの下手だったのかよ?」
「料理のことか?それならかなり不得意だ。レシピ本を見てもレシピサイトを見ても前提知識になる基本がわからねェから絶妙に不味い。それでメシは買うことにしてたが、手間をかけるのが面倒だと思って楽に済ませることにしようと判断したが
……
それが結果的にお前に心配をかけることになってたなら今後は気を付ける」
おれの台詞に耳をピクピクと動かしたサンジが腕についた爪跡を見て尻尾をユラユラ揺らす。と、おれの腕をとって爪跡をペロペロと舐め始めた。
まあ、衛生的とは言えないが、猫のサンジからすりゃ治療してるのと同じ意味を持つ行為だとはわかる。だから、爪を立てられていなかった方の手を頭に置いた。そしてゆっくり頭を撫で髪の毛を指で梳き整えてやる。
「許してくれるのか。ありがとう」
手が当たる度耳がピョコンと動くサンジがペロリと傷跡を舐めおれを見上げる。
「なァ、人間のメシって獲ってきたモンそのままじゃ駄目なんだろ?おれジジイに料理教わったからよ、作ってやろうか。お前のメシ」
ピコピコと動くサンジの左耳に可愛いなと思っていて一瞬聞き逃しそうになった台詞。
料理を、作る?
「サンジが、料理を?」
「んー。レシピ集っての?ジジイが書いてたのとか本とかも教わって読んでたからよ、いくらかは作れるし作ってやろうか。そうすりゃローもメシを上手く食えるんだろ?」
「作れるのか、料理が
……
」
「だからそう言ってんだろうが。どうするんだ?食うか?」
新たな衝撃にやっと落ち着きかけていた脳と感情がまた激しく動きだして状況把握をしきる難易度の高さを実感した。
猫が人間になって、しかも料理だ?意味がわからねェ。
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