傘道
2025-09-01 01:06:38
1683文字
Public デイイト
 

胡蝶の夢

znzrのデイイトです。
Xの相互さんへのプレゼントです。

夢から目が覚める。
あたたかな朝の日差し。
欠伸を一つ、うーんと背伸びをした。
今日の依頼はなく、いわゆる休暇として過ごす日であった。
まだ温もりが残っている毛布から抜け出し、顔を洗う。
鏡に映る首元に残る愛の証。
照れ屋な恋人が精一杯つけてくれた証を見てふふッと笑みを浮かべる。
ねぼすけな恋人を起こしてやるかとベッドに向かう。
「デイン、団長の命令だぞ。起きろよ。」
揺すってもなかなか起きない恋人。
キスしちまうぞ。」
ボソリと呟くと、ビクリと恋人の肩が震えた。
「なんだ、起きてるじゃないか。」
……そりゃ、起きるだろ。」
デインは枕に頭を押し付けた。
顔は見えないが、金色の髪から見える耳は真っ赤だ。
「もう慣れてくれよ。団長の命令で起きてくれ。」
「そんなことで団長の権限を使うなよ。」
呆れた様子でデインは起き上がり、大きく欠伸をした。
「デイン、腹減ってないか?」
「腹減ってないかって団長がお腹空いたんだろ?」
「デイン
ライトは口を尖らして拗ねたような表情をした。
「悪かったよ、ライト。」
恋人の時は名前で呼ぶ。
2人だけの約束だ。
機嫌がなおったのかニコニコと笑みを浮かべるライトを見て、団長の命令は使うという矛盾は指摘しない方がいいのかとデインは心の中で呟く。
「お腹は空いてるなんか作ってくれないか?」
「なんかって冷蔵庫に食材あったかなぁ。」
デインは髪がぐしゃぐしゃのまま、キッチンに向かい冷蔵庫を見た。
「ベーコンあればよかったんだがライト、スクランブルエッグでもいいか?」
「スクランブルエッグかデインが作る料理ならなんでもいいぞ。」
「またそんなこと言う
こんな男前な恋人が実はボトムだなんて誰が信じるんだろう?
デインは冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルに卵を割った。
塩胡椒と牛乳を入れて黄色の生地を作ってから、油を引いたフライパンに卵液を注ぐ。
ふわふわで少しとろみがあるスクランブルエッグ。
「味見しようか?」
デインの肩に顔を乗せて、フライパンの中を見る。
「行儀悪いぞ。でもまあ、お願いするか。」
デインはスプーンでスクランブルエッグを掬い、ライトの口運んだ。
滋養のある優しい味と食感のスクランブルエッグ。
「美味しいなぁ。俺が作ると焦げてしまうのに
「ライトは強火で焼きすぎなんだ。弱火でじっくり焼いてやれば綺麗な黄色になるぞ。」
デインはトースターにパンを入れて温めた。
スクランブルエッグをお皿によそい、トーストを一緒に皿に並べる。
簡素な朝食。
それでも愛しい人が作ってくれた世界で1番美味しい食事だ。
「ありがとう、デイン。」
温かな日差しに香ばしいトーストの匂い。
目の前には最愛の恋人が居て、たわいのない話をしてくれる。
五感が幸せに満たされる。
ライトは幸せな日常に胸がいっぱいになり目を閉じた。


夢から目を醒める。
目を開いたはずなのに眼前には闇が広がっている。
カビと汗がこびりついた臭い。
遠くからは罵声と喧騒が聴こえる。
口の中を切ったのか血の味が口いっぱいに広がっている。
あぁ、そうだ。
ここは地下闘技場。
仲間たちを失い、多額の借金を抱えて。
地下闘技場に送り込まれて。
スポットライトの下で金のために暴力を振るって。
そして目を怪我して
「あぁあぁ
手探りで胸元のドッグタグを掴む。
指先で名前の刻印を探し、一つのドッグタグを見つける。
「デイン……
デインと刻まれたドッグタグ。
彼はここに居ない。
そもそもこの世に居ない。
自分のせいで死んでしまった。
「デインデイン
乾いた唇で名前を呼ぶが、誰も答えてくれない。
仮に答えてくれた人が居たとしても本当に呼んで欲しい人ではない。
ライトは手を伸ばす。
夢の中の恋人に抱きしめて欲しくて
そんなことはできるはずがないのに
あれが夢じゃなくて現実だったら良かったのに。
包帯の下で翡翠色の瞳から涙が溢れた。


私は温かい夢の中を飛ぶ蝶にはなれない。
私は冷たい現実を生きる罪人だ。