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山本
2025-08-31 15:59:52
3529文字
Public
手負いの野良猫と外科医
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手負いの野良猫と外科医【2】
外科医🐯×元野良猫🕒♀の続き。
🐱🕒、人間になる。
【2】
「ただいま」
サンジを拾ってから四ヶ月を迎えた七月二日の昼前の時刻。ようやく帰宅してサンジに向けて言う。外の暑さに比べエアコンを切らない家の中の涼しさに息を吐くとチリンと音を立てサンジがリビングのドアからスルリと姿を現した。
「ニャァン」
「遅くなって悪かったな。ただいま」
家を出る時に脱ぎっ放しだったスリッパを履きキッチンに向かう。
それにしても大変だった。犬用のケーキだのお菓子だのはよく聞くから猫用も探せばあるだろうと高を括っていたら、探せど探せど通販だの要予約だのでその辺で買える猫用ケーキなんてモンは見当たらなかった。
焦って当直の看護師なんかにも聞いて回ったところたった一人、実家の近くの猫カフェで売ってるって言う看護師がいて店を聞いたら案内しますと言われ退勤しても待たされた。その上、実家で昔猫を飼ってたとかいうどうでもいい話を聞かされせっかくだからって意味不明な理屈で猫カフェに滞在させられた。
別におれ自身はサンジ以外の猫に興味があるわけでもない。
なのに可愛いだ何だとそこにいた猫の話をされて、またそいつの家で昔飼ってた猫の話をされ。どの猫を見てもやっぱりサンジが一番可愛いなと確信を持つくらいしかなくてキレそうになったが、店員に下のペットショップで冷凍の犬用猫用ケーキやクッキーなどおやつを販売してると教わったので、ペットショップの開店時間までは何とか耐えた。
ペットショップの開店時間になって実家が近いという看護師に一人で帰れるか聞き、教えてもらったことへの礼と二人分の会計を済ませて退店。ペットショップへ駆け込み猫用ケーキを見せて欲しいと言うと、猫用ケーキの他にも米粉で作った猫用のクッキーも見せてもらった。
苦労した甲斐あって猫用ケーキひとつとクッキーひと袋を買ってやっと帰宅。今に至る。
まさか猫用ケーキのために埼玉にまで行くことになるとは思ってもなかった。東京からすぐ近いと言ってもおれが普段生活してるエリアが都心と言える辺り。それを埼玉まで行ってというのが地味に遠い。
常温で約一時間と言われた解凍時間に、繋ぎにするのにサンジの餌皿を持ってきて洗い、クッキーを乗せる。猫の顔の形にくり抜かれたクッキーの表面には馬肉のペーストでできているらしいデコレーション。親指の第一関節程度の大きさのそれをひとつだけ残して餌皿に乗せる。
「今日はクッキーだ」
食べていいぞと定位置に置く。サンジはジッとおれを見てから餌皿に近付き、クッキーの匂いを嗅いでおれを見た。
「どうした?」
黙ってジーッとおれを見るサンジ。スッと立ち上がりおれの足下に来て匂いを嗅ぎ尻尾でたしんたしんと床を叩く。
「なにか匂うか?」
聞くとまたひとつ床を叩く尻尾。
「何が
……
あァ!これはサンジのケーキとクッキーを売ってる場所を知ってるって相手と猫カフェに行ってたんだ。そんなに猫の匂いが移ってるか?」
「ニャーア」
「匂うのか?」
聞くとフスッと鼻息を漏らすサンジ。目付きはキツいし怒ってるようにしか感じられないが、怒ってるのだろうか。
「いや、浮気じゃないぞ?お前が来て四ヶ月になるからケーキを買おうと。見るか?ほら!」
しゃがみ込み彼女に浮気疑惑の言い訳をするように話して立ち上がり解凍中のケーキを開けて見せる。
「な?解凍できたら切って出すから。これな、小麦や卵なんかを使ってないらしい。生クリームも使ってなくて、サンジが食べるのに材料も気を遣われてるケーキでな、なかなかその辺で売ってないんだぞ!?」
「ニャーオ」
「いいか、サンジ。まず犬や猫は人間の食い物を食えねェ。だがな、犬用のおやつなんかはよく売られるようにはなったが猫用はなかなか少ない。そこに最初に思い至れなかったおれの失態と言えば失態だがな、それをどうにか挽回しようと!」
猫を相手に何故こんなに必死に言い訳をしているんだと思いながら話していると、腰を上げついっとそっぽを向きクッキーに向かう。クンクンと匂いを嗅ぎカリカリと音を立て食べてくれたのでホッとした。
美味しいと思っているといいなと。クッキーを食べる姿を眺めて自動餌やり機を片付ける。これは仕事に出る時のみセットしてるものだ。
仕事に出る時は例え泊まり込む予定がなくても自動餌やり機はセットする。おれは仕事柄、患者の急な処置に迫られることも少なくない。それも心臓血管外科医を目指している分、受け持つ患者は心臓や血管に病巣がある患者が多い。その患者の急な対応となれば手術だ。長時間の手術の後、容態が安定するまで経過を見守ったりなんてこともあるし長時間の拘束は当然にある職業だ。
出勤時には自動餌やり機、それ以外にも合鍵を渡してる協力者もいる状況で必要に応じてペットホテルに預けられるようにそっちもチェック済み。急遽勤務時間が長引くことになった時には協力者である看護師のシャチとペンギンにどこかのタイミングで連絡をしてサンジを頼めるようにしてある。
と、まぁ、自分の仕事柄いつ起こるとも限らない事態にも備えてあるんだが、今のところシャチやペンギンに頼むようなことは起きていない。二度ほど自宅に招いて宅飲みを兼ねてサンジへ面通しをした時の反応を思い浮かべて冷蔵庫を開ける。
初対面でキャットタワーの上からじっと値踏みするようにシャチとペンギンを見つつも、帰る頃には普通に撫でるのを許していたサンジは、二度目訪れた時にはフローリングの上からさっさとキャットタワーの一番てっぺんに移動して再び値踏みするようにじっと見ていてすぐには近くに寄ってこなかった。シャチもペンギンも「やっぱりお猫様って犬と違って気高い、でもそこがいい」と下僕よろしく貢物のオモチャやらおやつやらを差し出してた。
二度目の帰り際も、次もまた一から関係の作り直しをさせられるんだろうなと言いながら撫でまくって猫パンチを食らっていたが。
サンジのケーキのことばかり考えていて自分の食事を考えてなかったなと空っぽの冷蔵庫を眺めて思い出す。野菜室にも何もなくて、冷凍室に二キロのロックアイスが未開封一袋に使いかけが一袋あるのみ。
食えるものがない。ほとほと困りながら、カップ麺くらいないかと探して最後の一個を食べて以降、サンジも嫌ってるからと買い足してなかったことを思い出す。
しまった、本当に食えるモンがねェ。
腰に手を当て棚の前で考え込む。が、正直さっさとシャワーを浴びて寝たいし、その前にサンジのトイレも綺麗にして給水器も綺麗にしてやりたい。サンジのブラッシングもしたいしケーキも食べさせてやりたいと考えた結果、気が向いたらデリバリーを頼もうという結論に行き着いて先にシャワーを浴びてくることにした。
チラリと見ればクッキーを食べ終えたのかペロペロと顔を洗ってる姿。空の餌皿に安堵して回収しつつひと撫ですると、サンジがおれの足にスルッと擦り寄ってきた。
「ニャアー」
「美味かったか?」
「ニャオ」
足に擦り寄って鳴いたサンジがおれを見上げてまた鳴く。言ってることがわかれば良いんだがなと感じつつ、それでも何となく感情は伝わる気がするから良いかと軽く撫でて餌皿を洗いにシンクへ持っていった。
結局、その日はデリバリーを頼むのも面倒になって別にいいかと判断して、サンジにケーキをあげるのとサンジのトイレ掃除、給水器の掃除を済ませて軽く眠った。
事件は一眠りした後、起きてリビングに下りたところで発生していた。
ドアを開けサンジの姿を捜そうとした瞬間、ソファーに発見する金色の丸い後頭部。チリンと音をさせ振り向いたそいつが軽い身のこなしでソファーから二メートルほど離れたフローリングにジャンプすると、足音をさせずに近寄ってきて固まったおれにスルッと抱きついてくる。真っ裸で。
「ロー、やっとお前に言いたいことが言えるぜ。拾ってくれてありがとうな。だが、てめェはもっとちゃんとメシを食え」
固まって動けず状況把握ができずにいるおれを上目遣いに見てじろっと睨む金髪碧眼。その顔がにやんと微笑みするりとおれに抱きつく。
「まァ、けどてめェはメシを食うのが下手みたいだからな。おれが世話してやるよ。安心しろ、美味いモンを食わせてやる」
「
……
だ」
「ん?」
「誰だテメー!!サンジはどこだ!?何故うちに全裸の痴女がいる!?」
パニクったおれは咄嗟に真っ裸の痴女を引き剥がすのもできずに怒鳴った。
首にサンジと同じ鈴のついた綺麗な青い首輪をつけた痴女は、おれの発言に怒ったのか憤怒の形相で思いっきりおれの脛を蹴り飛ばしタンクトップの胸に爪を立てていた。
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