最近のカルデアは何かと騒がしい。サーヴァントもカルデア職員も、皆して彩り豊かな長細い紙をを持って「何を書こうかな〜?」と口々に云っている。
伊織が任務で不在中の今、暇を持て余してるタケルはカルデア内を一人でウロウロしながらずっと首を傾げていた。
(皆して、何をやっておるのだ?何やら…紙を持っているようだが…)
「あっ、ヤマトタケルさーんっ!!」
「…ん?」
周りをウロウロしながら首を傾げていたタケルを呼び止める声がしたので振り向くと…アルターエゴのサーヴァント・カズラドロップがいた。タケルは駆け寄るカズラに視線を合わせるように腰を低めた。
「きみは、確か…カズラドロップっと云ったか?」
「はいっ!!タケルさんは、七夕の願い事を書かれましたか?」
「むっ、タナ、バタ??それは…何なんだ??」
ここでまたしてもタケルの知識不足が発揮し、カズラから「えっ、七夕をご存知ないのですかぁ!?」と盛大に驚かれてしまう。タケルは更に首を傾げてしまうが…思わぬ助け舟がやって来た。
「─七夕っていうのは、天の川によって引き離された織姫と彦星が年に一度会うことが許される日を祝う祭りみたいなものさ」
「あっ、シャルルさん!!」
「…シャルルマーニュか」
タケルの背後からシャルルが長細い紙を持ちながらやって来たのだ。シャルルが簡潔に七夕が何なのかを説明してくれたのだ。
「ほむ…オリヒメとヒコボシ??その二人は…恋仲か何かか?」
「そうだな。でも、恋に現を抜かしすぎて引き離されてしまったんだが、仕事に集中できなくなってしまったから…反省して真面目に仕事をするを条件に年に一度だけ会うことが許された日が7月7日。その伝説を元にして生まれた祭りが七夕ってことさ」
「そうなのです!だから皆さんには、この短冊に願い事を書いて貰ってるんです!!主催のマスターが不在なので…マスターに代わってこの私が、短冊の回収に回っているのです!!」
カズラはニコッと可愛らしい笑みを浮かべながらエッヘンと胸を張る。シャルルは苦笑いを浮かべながら「いや、アンタも主催の1人だろ…」とボソリと呟く。タケルはシャルルとカズラのやり取りを聞いて、やっと理解したらしい。
「成る程…だから皆してその紙に何かを書いていたのだな?」
「そーいうこと。伊織殿も知ってると思うぜ…って、その伊織殿も不在なんだよな」
シャルルは伊織が不在なのを思い出し、頭を抱えた。タケルはうーんと考え込む。
(タナバタ…か。現し世にはまだまだ知らぬ催し物があるのだな。しかし…願い事、か…)
タケルは特に聖杯にかける願いがないサーヴァントでも有名だ。それでも七夕というものが気になるタケルは、カズラに声をかけた。
「…その紙に書く願いは、何でも良いのか?」
「はいっ、何でも良いですよ〜」
「至ってしょうもない願いを書く連中の方が多いがな…特にムニエルの願い事は、新所長殿にめちゃくちゃ怒られていたけど…」
「あ…それは却下しました。むしろマスターからも目の前でビリビリに破かれてましたよ」
「ああ…やっぱり」
「…私にも安易に想像できるのは、気のせいか?」
カルデア職員のムニエルは何を書いたのやら…気になるが敢えて言及しないでおこう。タケルは気持ちを切り替えて、カズラが持ってる短冊を指さす。
「その紙を、2枚貰えぬか?」
「2枚…も、ですか?」
「1枚は予備だ」
「わかりました、書いたら私に渡してください!!」
「相解った」
タケルはカズラから短冊2枚受け取り、ひとまず伊織の部屋に戻ることにした。
◇
部屋に戻ったタケルは、短冊と睨めっこしていた。
「願い事か…うーん…」
(あるにはあるのだが…きっと、叶わぬ願い…だからな)
タケルの願いは主に伊織が絡んでいる。伊織はカルデアの戦いが終われば、座に刻まれることなく消えてしまう存在。盈月の儀に関する記憶がなくとも伊織とタケルは互いに惹かれ合い、恋仲になった。
しかし、シャルルからの話を聞いてタケルは自分と伊織は織姫と彦星に似ていると思ってしまったのだ。
(私とイオリは…一度離れてしまった…それがリツカによってまた会うことができた。それを…あの話と重ねてしまうとは…)
タケルの胸がズキズキと痛み出す。それを紛らわすように筆を取り、短冊に文字を書き出したのだった。
数刻後、タケルは短冊を握りしめながらカルデア内をウロウロしていた。
「カズラドロップはどこに…」
タケルはカズラに短冊を渡そうとしているようだ。すると、子どもサーヴァントの輪の中にいるカズラを発見した。
「おーい、カズラドロップ」
「…あっ、タケルさん!!短冊に願いを書かれましたか?」
「うむ、書いたぞ」
タケルはカズラに短冊を渡す。短冊に書かれた願いは…「イオリと共に美味いものをたくさん食べたい」だった。カズラはそれを見て、普段の伊織とタケルの様子が思い浮かんだようで笑みを浮かべていた。
「ふふっ…タケルさんらしい願い事ですね」
「そうだろ、そうだろ」
「ではお預かりしますね。七夕当日にはこれを笹に飾りますので…楽しみにしててください!!」
「ああ、イオリと共に見に行くから…楽しみだなぁ」
タケルは楽しそうな笑顔を浮かべながらカズラと話し込み、その後別れた。しかし…タケルの心中は暗い状態だった。
「…2枚貰ってて正解だったな。これを…見られる訳にはいかぬからな」
タケルは懐からもう一枚の短冊を取り出す。そこには…「イオリと共に誰も知らぬ場所で過ごしたい」と書かれていたのだ。
*****
それから更に数刻後、任務に出ていた立香と伊織がカルデアに帰還してきた。
「あー…やっと終わった〜」
「今回も激戦だったからな…」
「うん…でも、七夕の準備もあるから…まだまだ休めないな〜」
「七夕か…もう、そんな時期か」
(懐かしいな…カヤと共に短冊に願いを書いたりしたな)
伊織は立香の発言で義妹のカヤと共に短冊を書いたりしたことを思い出していた。
「マスター!!」
「…あっ、カズラドロップ」
管制室を出てトボトボと歩いていたところをカズラがやって来た。手にはたくさんの短冊を握りしめていた。
「結構集まったね」
「はいっ、タケルさんにも書いてもらいました!!」
「えっ、タケルが?」
「…セイバーも書いたのか?」
「はいっ!ですが…七夕のことをご存知なかったので…」
「あー…」
「…だと思った」
伊織と立香はカズラの発言に頭を抱えた。タケルの知識不足にはかなり頭を悩ませているからだ。すると伊織を見てカズラは、何も書かれていない短冊を伊織に差し出した。
「良ければ、伊織さんも書きませんか?」
「…俺もか?」
伊織は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。立香が横からペンを差し出してきながらニマニマと悪い笑みを浮かべていた。
「ほら、伊織も書きなよ〜」
「…何を企んでるんだ、マスター」
「別に〜」
「…解ったから」
伊織はカズラから短冊、立香からペンを受け取り壁に短冊を押しつけ文字を書く。スラスラと書かれる文字を立香とカズラはじっと見ていた。そして伊織から渡された短冊には「これからもマスターの剣として戦い抜く」としか書かれていなかったのだ。
「願いというより、抱負じゃないですか!?」
「なんだよ、そりゃ。タケル絡みのことを書くのかなって思ったのに〜」
「あのな…」
伊織は立香とカズラからのブーイングに苦笑いを浮かべていた。カズラはタケルから貰った短冊を伊織に見せた。
「タケルさんはちゃーんとした願いを書いてくださったのに〜!!」
「どれどれ…うわぁ、タケルらしいな」
「セイバー…」
(まったくアイツは…ん?妙に文字が震えてるな…)
カズラと立香は気づいていない様子だが、タケルの短冊は妙に文字が震えたような感じになっていた。それを見た伊織は妙な胸騒ぎを覚えた。
「すまないマスター、俺は部屋に戻らせてもらうぞ」
「ん?どしたの?」
「少し…気がかりなことがあってな」
伊織は立香にペンを返し、立香とカズラに頭を下げ足早に部屋へと戻って行った。
一方のタケルは、畳に横になりながら懐に隠していた短冊を見ていた。
(こんなの…イオリからしたら、迷惑だろうな…)
タケルの目にはうっすらと涙が浮かんでいた、そのため短冊の文字が歪んで見える。すると扉がガラガラと開く音が響いた。
「…ただいま」
「っ、お、おかえり、イオリ…」
タケルは慌てた様子で目元を拭い、起き上がる。伊織はそんなタケルを見て、はぁっと小さくため息を付きながら草履を脱いで畳へと上がりタケルの目の前に座る。
「…それを見せてくれ」
「えっ…」
伊織はタケルが握りしめる短冊に指を差しながら告げる。タケルは一瞬泣きそうになるが、真剣な眼差しを向ける伊織に逆らえず短冊を渡す。
「イオリと共に誰も知らぬ場所で過ごしたい…か。」
「っ…」
伊織に短冊の願いを読み上げられ、タケルの目にまた涙が浮かぶ。伊織はタケルを抱き寄せ、額に口づけを落とした。
「…えっ」
「そんな顔をしないでくれ、俺も…お前と同じだから」
「っ…うっ…うぅ…」
タケルは伊織の言の葉に涙が零れ落ちる。伊織の胸に顔を押しつけ、泣き出してしまう。伊織はタケルを抱きしめながら頭を撫でてやる。
「お前と共に…どこか遠くへ行くことができればな。そうしたら、俺たちを引き裂く者などいないのに、な」
「ぐずっ…わたしっ、イオリとっ…離れ、たく、ないっ…」
「解ってるから…」
(きっと、織姫と彦星の伝説も聞かされたのだろうな…だから…不安が一気に膨れ上がったのだな)
タケルの性格を理解している伊織は、タケルが落ち着くまで抱きしめていた。甘えん坊で寂しがり屋な性格のタケルには、織姫と彦星の伝説は重すぎたのだ。
*****
「…落ち着いたか?」
「うん…」
あれから一通り泣いたタケルは、伊織から離れることなく伊織の胸に顔を埋めたままだった。
「…織姫と彦星の伝説を知って、不安になったのか?」
「…うん」
「やはりな」
伊織は未だに胸に顔を埋めたままのタケルの頭を撫でてやる。
「時折、俺もお前と共にどこか遠くへ行くことができればな…って考えることがあるんだ。」
「…イオリ、も?」
タケルは伊織の言の葉に顔を上げる。伊織はタケルを見ながら優しい笑みを浮かべた。
「ああ…俺も、お前と離れるのは辛い。それぐらい…お前に惚れ込んでいるんだよ」
「っ!!」
タケルの顔が一気に赤くなる、そんなタケルが愛おしくなり伊織はタケルにちゅっと小さく口づけを落とした。
「だから…そんな悲しい顔をしないでくれ、タケル」
「っ、どさくさに名を呼びやがって…でも…ありがとう、イオリ」
タケルはまたほんのりと涙を浮かべながら伊織に微笑みかけたのだった。
そして七夕当日、カルデアにいる者達が書いた短冊や飾りを施された笹が廊下に飾られていた。
「うわぁ…凄いな!!タンザク以外にもいろんな飾りを…」
「七夕は初めてらしいな…短冊以外にも他の飾りを施した笹を飾って織姫と彦星の出会いを祝う祭りだからな」
「そうか…うむっ、とても良いものだな、イオリ!!」
タケルは初めての七夕を花が咲いたかのような笑みを浮かべながら、伊織と共に満喫した…までは良かったが、伊織の書いた短冊を見つけジト目になったのは云うまでもない。
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