Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ふじしろ
2025-08-31 13:54:43
12865文字
Public
アル7
Clear cache
バッドエンドはいつでもそこに
8/31のVEGAで用意した無配本となります
もしタスがあがたさんの前で連れ去られたキャッチャーだったら(あがたの過去の男がタスで、かつタスが若かったら)、という捏造話です。
以下大丈夫という方向けです。
・知らない設定は全て公式とは関係ありません(適当に言ってるだけです)
・タスに人名をつけています
・ネームド・アンネームドのモブキャラ、カオワが出てきます
・タスの出番がすごく少ないタス本です
・捏造とご都合主義にまみれています
・カップリング要素はありません
目が覚めるとそこは廃ホテルの自分のベッドの上だった。
乱れた息とじっとりと掻いた汗にまた夢を見ていたんだと思い出す。
うなされる夢は相変わらず戻った記憶の繰り返しだが、最近は病院で見たピアスの姿も混じるようになっていた。
キャッチャーの少年が連れ去られた後、突然現れたピアスは宿題だと言って綺麗な笑顔を見せる。
あの時は何を言っているのか意味が分からず混乱していたが、改めて思い出すとピアスの様子には怖さを感じた。
野球の試合中にカオスイズムに連れ去られたキャッチャーの少年を追い求めて探せというのが彼の出した宿題だ。
彼はどうもカオスイズムの手下になっているらしい。
宿題と言うのだから彼を追い掛けることに意味があるのだろう。
俺の感情を煽るためか、ショックでも受けるような結末が用意されているのか、今は考えてもよく答えは分からない。
だからこそ見てしまう夢なんだろう。
呼気が落ち着いてライダーフォンを手にすると、時間は既に昼前だった。
狂介も為士も部屋にいる様子はない。
恐らく狂介はバイト、為士は気まぐれに外に出ているのだろう。
二人がいないことにほっとする。
二人とも俺が夢にうなされることは知ってはいるが、出来ればあまり見られたくない姿ではあった。
しかし寝過ぎた、今日はこれからどうするか。
ベッドから降りて、取りあえず汗を流すかとタオルを探した。
■
俺は狂介、為士と共に市民スタジアムに来ていた。
プロ野球の試合よりも地元の学生の野球大会などがメインの球場でプロ球団のスタジアムほど大きくはないがそれでも虹顔市で一番大きな野球場だ。
エージェントから連絡があり、ここでカオストーンの目撃情報があったらしい。
デイゲームをやっているらしく、賑やかな声援とバットに玉が当たる高い音が響く中、取りあえず三人で手分けしてスタジアムの周辺を散策したがカオストーンもカオスワールドへの扉も見つからなかった。
「外じゃないとすると中か」
「中って入るのに金掛かるよな」
「
……
だよな」
狂介の言葉に溜め息混じりに答える。
必要経費だと言えばもちろんエージェントが入場料を補填してくれるが、バイト生活の身では立て替えることがそもそも厳しい。
とは言え中に入らなければどうしようもない、仕方なく頭を掻きながらチケット売り場へと向かう。
程なくしてチケット売り場に辿り着いたが、そこには誰もいなかった。
「あれ? チケットは売ってないのか」
「じゃあ、タダで入れるのかよ。ラッキーじゃん」
顔を綻ばせる狂介の後ろで為士が眉を顰めた。
彼も違和感を覚えたらしい。
知っているプロ球団の応援歌が聞こえてくるので恐らくプロ野球の試合が行われているんだろう。
だからこのまま無料で入場出来るなんて、そんな都合の良いことがあるはずがない。
首を傾げながら、しかしそこに居続けても仕方がないので入場ゲートへと足を運んでみる。
だがそこにも人はおらず、無防備に入口が口を開けているだけだった。
本当にそのまま中へ入れるらしい。
あり得ない事態に嫌な予感を覚えながら、俺たちはスタジアムの中へと足を踏み入れた。
入場して観客席へと向かうとそこは大量のガオナたちに埋め尽くされていた。
応援団と思しき集団には楽団やチアもいて、楽団のメロディに合わせて周りはみんな声を上げている。
グラウンドを見るとガオナクスたちが守備位置に構えている。
いつの間にか風景が青色を帯びていて、ここがカオスワールドだと気付く。
「前に阿形氏が体験した入口が分からないタイプのカオスワールドか」
顎に手を添え、為士が呟いた。
以前病院で入口の扉がないカオスワールドに入ったが、今回も同じタイプらしい。
「そうみたいだな。狂介、為士、気を付けろ」
「あー? 入口が違うだけでカオスワールドなんだろ」
「前の時もピアスが今までにない動きをしていたんだ。だから今回も何かあるかもしれない」
俺の言葉に狂介は握り拳をもう一方の手の平にバチンと当てた。
「細けーことは分かんねえが、この拳で叩き潰すだけだ!」
「単細胞脳筋バカはこれだから
……
」
「うるせえ! 何か文句があんのかよ!」
為士の言葉に狂介が噛み付くと、タイミングを同じくして周り中のガオナが沸き立ち声を上げた。
「五番、佐藤満(みちる)〜」
アナウンサーが次の打者の名前を告げる。
バッターボックスを見るとバットを手にした人間がそこに立った。
ガオナとガオナクスだらけの中の唯一の人間、考えなくても彼がこのカオスワールドを開いた人物であることは明白だった。
「なんだ? 有名な選手なのか?」
「ああ。このチームの大黒柱的な選手だ。四番は退いたがきっちり仕事をこなす良い選手だよ」
狂介の疑問に答える。
バッターボックスの男はサトミチと言う愛称で親しまれている人気も実力もある野球選手だった。
「阿形氏、ならあの男に会いに行こう」
「そうだな。狂介、行くぞ」
「でも試合中だろ? どうやって会うんだよ」
あの男の元に向かおうとした俺たちを狂介の疑問が引き止めた。
確かに試合中だ、ベンチに入れてもらえるわけもないだろうし狂介の言う通りだ。
おもむろにスコアボードに目を向ける。
今は九回裏、一点を追う佐藤たちの攻撃、ランナーは二塁でワンアウト。
ならばこの試合は直に終わるはずだ。
「もうすぐこの試合は終わるだろうから選手の出入り口を探そう」
試合が終われば佐藤もスタジアムを後にするはずだ、そこを捕まえようと話す。
「おう。そう言うことなら早く行こうぜ!」
納得した狂介はやる気満々な笑顔を返した。
観客席を離れて俺たちは選手たちの出入り口を探す。
広いスタジアムを駆け回っているとガオナの大きな声と共に建物が揺れた。
どうやら試合が終わったらしい。
時を同じくして俺たちも選手控室に続く関係者通路を見つけていた。
ここで待っていれば佐藤選手を捕まえられるはずた。
当然試合が終わって直ぐに選手が帰るわけもなく、俺たちはいくらか待つことになったがようやく奥から人が歩いてくるのを確認した。
「サトミチさん!」
歩いてくる人物に愛称で呼び掛けると、彼は不思議そうな顔で俺たちを見た。
「君たちは一体
……
何故ここに?」
「たまたま通り掛かったら試合をしていたようなので」
それらしいことを言ってみたがあり得ないことだったのだろう、佐藤は訝しげに眉を顰め俺の顔を眺めた。
下手に嘘を吐くのは逆効果のようだ。
「実はこの球場がおかしなことになっているかも知れないと聞いて調べに来たんです」
苦笑いしながら答えると彼の表情が厳しいものに変わる。
警戒を強めているのは火を見るより明らかだった。
「それで? 俺に何か用があるのか」
「ここは危険です。もう足を踏み入れないで欲しいんです」
「断る。ここはやっと見つけた俺の居場所なんだ」
ここが現実ではないことは認識しているのだろう、佐藤は俺から顔を背け不機嫌そうに答えた。
居場所、彼ほど実力も人気もあって人に請われる人物に必要な居場所とは何なのだろう。
仮面ライダーになれるという点以外は極一般的な人間の俺には彼の居場所を欲する気持ちが直ぐには想像出来なかった。
「貴方ほどの人ならもっとちゃんとした居場所があるじゃないですか」
思ったままをぶつけると佐藤は目を見開き怒りを顕にした。
「何も知らないやつが勝手なことを言うな!」
大きな声を出すと彼は俺たちを押し退けて走って行ってしまった。
彼ほどの人間にも俺たちには理解し難い悩みなどがあるのかも知れない。
失敗したなと思わず頭を掻く。
「兄貴、追い掛けるぞ!」
そう言うと狂介は弾かれたように佐藤を追って走り出した。
そうだ、このまま放っておくわけにはいかない、狂介の声に俺も駆け出す。
そのままスタジアムを出ると突然声を掛けられた。
声の方を見るといつから居るのか男性が立っていた。
男は白いポロシャツにスラックスという会社員のような格好をしている。
「球場から出てきたよな? 中は一体どうなっているんだ」
そのままその男と少し話すと、彼はニジスポの記者でたまたまスタジアムの近くを通り掛かり、試合がないはずなのに歓声を聞いて来たという話だった。
中の様子を言い淀んでいると情報交換はどうだと持ち掛けてきた。
何か聞きたいことがあれば答える、そう言う。
それならと適当にぼかしながらカオスワールドのことを話すと、おかしな部分もあったんだろう、彼は時折訝しげな表情を浮かべつつも口を挟むことなく最後まで話を聞いた。
「そうか、何だか大変なことになっているみたいだな。で。君たちは何か知りたいことがあるのか?」
「サトミチさんのことを少し教えてもらえませんか?」
そう言っていくつかの質問に答えてもらう。
どうやら佐藤には今、引退の噂が飛び交っているらしい。
球団側から戦力外通告か出たとする話と、佐藤自身が引退を望んでいるが引き留められている話、両方の噂が交錯していると言う。
確かに佐藤自身はもういつ引退の話が出てもおかしくはない年齢だ、ない話ではない。
いずれにしても自分の望んだようになっていないならカオスワールドを開くのに十分な理由になりえる。
「君たちが佐藤とどんな関係かは知らないが、良かったら力になってやってくれよ」
「え?」
佐藤について質問した俺に記者の男はそう言った。
「あいつとは中学の野球部からの付き合いだけど俺じゃ力不足なんだろうな。そういう話はあまりしないからさ」
そう苦笑いを零す。
きっとこの人は日頃から佐藤選手のことを気に掛けているんだろうな、彼が話す言葉には優しさが溢れていた。
■
翌日、俺たちは再び市民スタジアムに足を運んだ。
昨日あの後、佐藤を追い掛けた狂介と合流して更に聞き込みや調査をしていき、佐藤が引退後を見据えた動きを取っているらしいことを突き止めた。
ならば今日も彼はスタジアムにやって来て、そこで引退セレモニーみたいなものが行われるのではないかと言うのが俺らの読みだった。
つまりカオスの完成はそのタイミング、恐らく試合に出るであろうことを考えると説得に与えられた時間はあまりなかった。
昨日話したニジスポの記者の力も借りて調べた結果、佐藤は引退後に飲食店をやろうとしているらしい。
そこでいわゆる「子ども食堂」的な取り組みを通じて、家の事情でクラブ活動をすることが難しい子どもたちの支援を行いたいようだ。
つまりは未来のアスリートを育てたいと考えているのだろう。
昨日俺たちが彼に話し掛けたからか今日は入場ゲートにガオナが待ち構えていた。
変身して彼らをいなすと、球場内の道案内を買ってくれて一緒にいた記者の男は当然のように驚いていた。
その後ずっと緊張した面持ちだったのは佐藤を心配してのことなのだろう。
それでも彼はガオナとガオナクスだらけのスタジアムで怯むことなく俺たちをグラウンドへ続く通路へと案内してくれた。
「あいつのこと、頼む!」
「分かりました。貴方はここにいて下さい」
試合中の乱闘も覚悟していたがここに辿り着くまてに思っていた以上に時間が掛かってしまったらしい、ブルペンの出入口からグラウンドへと出ると既に試合は終わり、セレモニーが始まろうとしているところだった。
お立ち台に立つ佐藤を確認し、俺たちはそこに向かって駆け出す。
が、突然強い力で身体を吹き飛ばされた。
グラウンドに転がった身体を慌てて起こすとマイタスがお立ち台への道を塞いでいた。
「相変わらず成長のない連中だな」
地べたに這いつくばる俺らをマイタスは見下ろして、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「マイタス!」
その場に立ち上がりカオスリングを取り出す。
「変身!」
三人声を合わせて変身するとマイタスは雄叫びを上げて怪人態へと姿を変えた。
その後ろでその様子を眺めていた佐藤が驚いた顔を見せる。
説得出来るチャンスだ、そう思って気合いを入れる。
「マイタス、お前に邪魔はさせない」
拳にありったけの力を込め、彼の顔を目掛けて振り上げる。
しかしマイタスは片手でやすやすと俺の拳を受け止めた。
その隙に狂介が彼の足元目掛けてスライディングするが、足を踏まれて動きを止められた後に横へと蹴り飛ばされる。
マイタスから離れた俺と入れ違いで為士が二色のライズをそれぞれ操りマイタスに向かっていった。
「おい、お前! お前は引退出来ればそれでいいのかよ!」
為士がマイタスにあしらわれるのとほぼ同じくしてうつ伏せになっていた狂介が頭を上げて佐藤に向かって叫んだ。
その言葉に佐藤はハッとしたように目を見開く。
「やりたいことがあるんじゃねぇのかよ!」
狂介の言葉に我に返ったのか、佐藤はふらふらと身体を揺らして一歩後退した。
「満! こっちだ!」
いつの間にかブルペンの出入口から顔を覗かせていた記者の男が声を上げた。
佐藤は彼に気付くとお立ち台を降りてブルペンへと走り出した。
その様子を確認したマイタスは苦々しい顔で舌打ちした。
「いつも余計なことをしやがって」
そう言うと彼は大技を出すつもりなのだろう、両腕を構えた。
その時だった、突然彼の後方に二体のガオナクスが現れ、それぞれにマイタスの腕を掴み動きを封じた。
「ああ?」
マイタスはガオナクスを振り解こうとしている様子だったが何故かまったく歯が立たないようだった。
「彼らは貴方のデータを元に力の出力を調整した特別仕様です。抵抗は無駄ですよ」
聞き覚えのある声に俺たちは一斉に声のした方へと顔を向ける。
そこにはピアスが立っていた。
「人の管轄地区まで出しゃばってきて、大した言い草だな」
不服そうにマイタスが言うとピアスは目を細めて笑みを浮かべた。
「実験がそろそろいい頃合いなのでね」
そう言うとピアスはガオナクスに視線で合図を送る。
ガオナクスたちはマイタスの手首を取り、前へ差し出すように動かした。
ピアスはマイタスの目の前まで歩くと衣服の中から布袋を取り出す。
そのまま両手を合わせ上を向けられたマイタスの手の平に何か置くような仕草をした。
「ぐっ」
「まだまだありますよ」
うめき声を上げたマイタスの手の平の上でピアスは布袋をひっくり返す。
「カオストーン?」
キラリと光ったそれは色とりどりのカオストーンだった。
マイタスはまだうめき声を上げている。
その様子はカオストーンに干渉を受けて記憶が戻る時の様子に似ていた。
マイタスのカオストーンがあるのか、あるとするならば彼の記憶は改竄されているのか。
マイタスの様子に困惑する。
「阿形松之助、貴方にも一つ差し上げましょう」
ピアスはそう言いながら俺の方へと近付いてきた。
俺に差し出してくるということは、この石は恐らく俺の記憶から作られたものなのだろう。
きっと連れ去られたキャッチャーの少年の記憶だ、そう思ってカオストーンに触れることを躊躇する。
「受け取るも受け取らないも自由です」
ピアスは綺麗な顔で笑うと俺に選択を迫った。
今ここで知ることを避けたとしてもいつかはこの石と向き合う時が来る、そう自分に言い聞かせ震える手をピアスに差し出した。
彼が手の平にカオストーンを置くとズキンと頭を強く叩かれたかのような衝撃の後、記憶がフラッシュバックする。
野球のユニフォームを来た小さい俺は少年と並んで歩いていた。
俺よりも背の高い彼も同じユニフォームを着ている。
顔を見上げるとその顔を俺は知っていた。
今よりずっと幼いが、しっかりと面影がある。
彼はマイタスだった。
「真宙兄、どうしたらもっと上手く投げれるようになれるんだろう」
「うーん。今は身体作りが一番の近道かもな。投げ方を覚えても身体の能力が追いついてないとちゃんと投げられないからな」
「そっか。なら明日から俺、走り込みを増やすよ」
俺はマイタスを真宙と呼び、笑顔で話している。
記憶が繋がる。
そうだ、あの日連れ去られたのは真宙兄だった。
俺より少し年上でバッテリーを組んでいる彼のことが俺は大好きだったんだ。
いつも優しくて頼れて、でも全然年上ぶっていなくて一番の友達だと思っていた。
「兄貴!」
「阿形氏!」
狂介と為士の声に我に返る。
慌ててマイタスの様子をうかがうと、彼を押さえていたガオナクスはいつの間にか消えており、彼はその場に崩れ落ちていた。
「マイタス!」
彼の名を叫ぶとマイタスは直ぐに立ち上がり、反対側のブルペンへと駆け出した。
「おい、何が起きてるんだよ!」
「俺が知るか」
事の成り行きが飲み込めていない狂介と為士は少し離れた場所で様子を眺めていた。
「さて、宿題の答えを出してもらいましょうか。次に合うのを楽しみにしていますよ、阿形松之助」
そう言い残し、ピアスは姿を消した。
もうグラウンドにマイタスの姿はなかった。
俺は直ぐに彼を探さなきゃ、そう思った。
■
スタジアムでの一件から一週間が経とうとしていた。
狂介と為士には俺が思い出した記憶を伝え、マイタスを探すのに協力して欲しいと頼んだ。
簡単にまとめると連れ去られたキャッチャーの男子は記憶を改竄され、恐らく教育されてアルセブンのマイタスになった。
だから彼のカオストーンが存在し、今回ピアスが無理矢理に彼の記憶を呼び覚まして今に至っている。
二人とも最初は半信半疑だったが、俺の真剣さとマイタスから話を聞かないと信じられないと言うことで協力してくれることになった。
「なあ、マイタスってどんなヤツだったんだ」
俺の話を聞いていた狂介が口を挟む。
「うーん、そうだな。全部思い出したわけではないけど、いい兄貴って感じかな」
そう答えると珍しく狂介と為士は目を合わせ、二人で嫌そうな顔をする。
「阿形の兄貴は兄貴って感じたけどよー」
「俺もまったく想像が出来ん」
そんな二人に思わず苦笑いを溢す。
「まあ、今のマイタスから想像出来ないのは分かるよ。でも見た目なんかもずっと幼かったし、本当に子どもの時の話だからな」
真宙兄はクラブに入って一番最初に仲良くなったチームメイトだった。
もちろん彼は他の子たちとも仲が良く、何だかんだと面倒見も良い上級生だった。
俺はそんな真宙兄のことが大好きで懐いていた。
ピッチャーの座を射止めた時、何よりも嬉しかったのは真宙兄とバッテリーが組めることだったくらいだ。
中学に上がったら学校の部活へ活動の場を移すことになるから、真宙兄の卒業に間に合ったことが本当に嬉しかった。
いつも笑ってくれて、俺の話を聞いてくれて、励ましてくれて、そんな記憶だけを思い出したが、きっともっとケンカしたりわちゃわちゃみんなでやってたんだろうなと思う。
戻って来た記憶は小さくともそう確信させるくらい眩しいものだった。
「そうだなあ。いつか写真とか探すことが出来たら納得してもらえそうなんだがな」
思い出しながらポツリと呟くと、狂介は居心地が悪そうな顔をして頭をガシガシ掻いた。
「あー、とにかくヤツを探すぞ! 話はそれからだ」
「そうだな。阿形氏が嘘を吐いているとは思わないが、やはり信じられん」
そうして俺たちはマイタスを探し始めた。
探しながら俺はずっとマイタスに何を話したら良いのだろうかと考えていた。
もちろん話したいことはたくさんある。
けれど今必要なのは懐かしい思い出話なんかじゃない、記憶が戻ったマイタスをどうするのかということだ。
彼がどうするのか、そして俺たちはどうしたらいいのか。
あんな目に合わされてもなおカオスイズムに戻ろうとするとは考えにくいと思いはするが、なら俺はどうしたらいいのだろう。
普通の生活に戻れるように手助けしてまた友達に戻ろうとするのか、戦う力があるのだからいっそ仲間に誘うか。
どうするのが正解なのか全然分からず、思考は取り留めもなく湧いては消えてちっともまとまることはなかった。
そうして三人掛かりで工業地区のあちこちを探し回ったがマイタスはなかなか見つからなかった。
もっとも俺たちが住み着くより前からこの地区を大幹部として見てきている、だから俺たちには分からない隠れ場所なんかを知っていてもおかしくはないし、カオスイズムに戻っている可能性だってないとは言い切れない。
本当はマイタス探しにもっと時間を割きたいところだが、だからと言ってバイトを休むわけにもいかない。
バイトが終わり、今日はどこを周るかとぼんやり考えながら信号待ちをしている時だった。
反対側の歩道に見慣れた姿を捉えた。
「マイタス!」
信号が青に変わるや否や俺は弾かれたように横断歩道を渡り、その姿を追い掛けた。
マイタスは俺が向かってくるのを確認すると踵を返して走り始める。
彼は埠頭の方へと向かっているようだった。
見失わぬよう全力で追い掛けたが、埠頭の倉庫街に到着した時には彼を見失っていた。
激しく呼吸を繰り返しながらボトムのポケットからライダーフォンを出して狂介と為士にメッセージを送る。
これで後から二人も来てくれるだろう、安堵から息を吐く。
「阿形」
名前を呼ばれて声のした方へと顔を向けるとそこにはマイタスが立っていた。
「マイタス
……
いや、真宙兄って呼んだ方がいいのかな」
「マイタスでいいぞ。お前らと同じく記憶を失くしてるとは思わなかったし、あんな風に思い出させられたところでその名前に愛着なんかないからな」
答えながらマイタスは自嘲的に薄く笑んだ。
ようやく捕まえたのはいいが一体何を話したら良いのだろう、思わずゴクリと唾を飲み込む。
「その
……
カオスイズムに戻るのか?」
一番気になっていたことをたずねると、彼はくつくつと声を上げて笑った。
「この状況で戻れると思ってるんならお前はだいぶおめでたいヤツだな」
「それじゃあ
……
」
「例えそうでも俺はカオスイズムを裏切る気はない」
「どうして! 俺たちは奴らに酷いことをされたじゃないか」
「お前の価値観を押し付けてんじゃねえよ。俺は俺の意思でカオスイズムにいるんだ、それが偽りの記憶だったとしてもな」
そう語るマイタスの赤色の瞳はまったく迷いがない。
それは彼が本気だと言うことをまざまざと見せつけた。
「とは言え帰る場所も怪しいからな、ひとつ提案がある」
「提案?」
「阿形。お前、俺のことを倒していいぞ」
ニヤリと口角を上げマイタスが放った言葉の意味が俺には直ぐに理解が出来なかった。
確かに真宙兄の記憶が戻るまではマイタスは憎きカオスイズムの大幹部で倒さなくてはならない、そう考えていた。
でも彼は俺が慕っていた野球チームのチームメイトで、カオスイズムを裏切る気はないと言ってはいるが説得の余地はあるんじゃないか、きっとそうだと信じたい気持ちが今は胸に溢れている。
俺がたじろぎ、答えられずにいるとマイタスは呆れたように息を吐き出した。
「その気にさせてやらないと駄目みたいだな」
彼は声を上げると怪人態になり腕を大きく振り上げた。
攻撃が来る、そう思い慌てて横へと避けると衝撃波は倉庫の入口を直撃し、見るも無惨な姿に変えてしまう。
マイタスを止めるにしてもこのままでは攻撃を避けることすら厳しい。
仕方なくカオスリングを取り出し、俺も変身する。
「マイタス、俺はお前と戦う気はない」
「俺はある。それにお前にだって戦う理由はあるだろう」
「今はそんなものはない!」
「まだクビだとは言われてないからな、俺はお前にとって憎くて仕方ないカオスイズムの一員だ」
「黙れ!」
彼の攻撃を紙一重で避けながら間を詰めていく。
とても身体を掴んで動きを止めるようなことは出来そうもない。
仕方なく動きを止めさせるために加減して拳を繰り出すと拳は彼の腹部を直撃した。
まさか当たるとは思っていなくて驚きで身体が固まる。
さほど強い力ではなかったはずだがマイタスはふらつき、その場に膝を突いた。
「な
……
」
その様子に情けない声が漏れる。
怪人態が解けると彼はそのまま倒れ込んだ。
「マイタス!」
うつ伏せになった身体を掴み半身を起こすとマイタスは白い顔をして薄っすらとだけ目を開いた。
「阿形氏!」
「兄貴!」
マイタスとのやり取りで気が付かなかったが、メッセージを確認してやって来ていた狂介と為士が俺たちの所へと駆け寄って来る。
「何が起こってるんだ?」
「怪人態は燃費が悪いんだよ。メンテナンスを怠ると使い物にならねえ」
「お前、それを知っていてわざと
……
」
もしアカデミーのあるあの世界で日常的に身体のメンテナンスを行うことで怪人態の能力が維持されているのなら、一週間も離れている彼が怪人態でまともに戦えるはずがないと言うことか。
それで何故怪人態に変身して戦うことを選んだのか、俺には理解出来なかった。
「おい! まだ話があるんだ!」
黙ってしまったマイタスに大声で呼び掛ける。
しかし彼は答えることなくマイタスの身体は先端から消え始める。
そのままあっという間に俺の腕から彼の姿はなくなってしまった。
「どう
……
して」
「マイタスはカオスイズムで回収させてもらいました。彼も貴重な被検体ですので」
声の方へと視線を向けると満足気な表情を浮かべたピアスが立っていた。
「ピアス、てめぇ!」
狂介が噛み付くが彼は飄々として表情ひとつ変えなかった。
「さすがマイタスは私が見込んだ生徒です。最後まで期待通りでした。それに引き換え、阿形松之助」
俺の名前を呼びながらピアスの表情が冷たいものに変わっていく。
「宿題の答えも答えられそうにないですね。だから落ちこぼれだと言うのです」
軽く鼻で笑うと彼は更に言葉を重ねた。
「貴方がせめて人並みなら、もっと違う結末もあったでしょうね。マイタスも可哀想に」
ピアスは皮肉めいた言葉と共に惨酷で美しい笑みを向けた。
俺がもっとしっかりしていれば。
いや、違う、真宙兄の記憶を改竄して大幹部に仕立て上げて弄んだのは他でもないピアスじゃないか。
怒りと不甲斐なさが入り混じり、頭の中が殴られたみたいにガンガンと揺れる。
そして段々と絶対に許せないという復讐心に感情が収束していった。
感情のまま拳を振り上げピアスに向かっていくが、彼は難なく片手で俺の攻撃を受け止める。
そのまま腕を振り払われて俺は地面に転がった。
思考がオーバーヒートを起こし頭は激しい痛みに襲われ、そのままそこで意識が途切れた。
俺が意識を失ってからピアスは早々に姿を消し、狂介と為士の二人で俺を廃ホテルまで運んでくれたらしい。
次に意識を取り戻して起き上がるまで、何日も俺はソファの背もたれに顔を埋めるようにして横たわり、ほとんど身動きしなかったと彼らから聞いた。
バイトも休むことになり、魚屋の親父さんがひどく心配していたと狂介は話した。
その間のことを話す時の狂介と為士は気まずそうで、どこか苦しそうで胸が強く締め付けられた。
■
「よう、奥空いてるか?」
「阿形さん、いらっしゃいませ」
久しぶりに仮面カフェへと来た俺にエージェントはいつも通りに挨拶をした後、少し困ったような顔をして言葉に詰まった。
「色々心配掛けて悪かったな。もう大丈夫だ」
そう言うとエージェントはホッとした様子でVIPルームへと通してくれた。
「お昼がまだでしたら何か食べていかれますか」
「そうだな、お粥とか出来るか?何日も食べていなかったからまだ固形物だと重くてさ」
「かしこまりました。レオンに伝えて来ますね」
笑顔で答えたエージェントは執事に注文を伝えに部屋を出ると、しばらくしてティーカップとポットをトレイに載せて戻ってきた。
「これ、マーシュマロウとミントのハーブティーです。どちらも胃に効くと言われているんですよ」
「ありがとう」
ハーブティーと言われて薬みたいなお茶を想像したが、恐る恐る飲んでみるとミントの清涼感がほんのりと利いた緑茶のような味で飲みやすいものだった。
温かいお茶に気持ちが解れたのか思わず息を吐く。
エージェントに会いに来たはいいが、何から話したら良いのだろう。
そう思っているとエージェントの方から声を掛けてきた。
「荒鬼くんと神威くんから一通り話は聞いています」
「そうだよな」
「もし話したいことがあれば聞かせてください。無理をする必要はないので」
静かな声でエージェントはそう言った。
俺は少し考えてから口を開く。
「あの日のこと、つい考えてしまうんだが、やっとあれがマイタスなりの責任の取り方だったんじゃないかなって思えるようになったよ」
「責任
……
なんでしょうか?」
「結局アルセブンだったと言ってもヤツも俺たちと同じ目に合わされてたわけだろ? それでもカオスイズムに残ることでケジメを付けようとしたのかなって」
「
……
」
俺の考えをエージェントは肯定も否定もしなかった。
「そうは言ってもやっぱり俺には理解出来ないんだけど。でもそうであって欲しいとは思うよ」
そのまましばし沈黙が訪れる。
俺がちゃんとマイタスを理解しようとしていたら、ピアスの言う通り違う結末があったのかもしれない。
何度も拳を交えてきたが復讐という色眼鏡でしか彼を見ず、決してそれ以上知ろうとはしなかった。
悔やんても悔やみきれないこの気持ちはあまりに情けない自業自得でしかなくエージェントには言わないでおこう、そう思った。
「そうだ、夢にサトミチさんが出てきたんだ」
話題を変えるとエージェントはいつの間にか落ちていた視線をハッとしたように上げた。
「野球選手の方ですね、今回のカオスワールドを開いた」
「そう。それで友人も夢も失わずに済んだって礼を言われて、それでやっと起きたんだ」
「そうだったんですね」
「俺が動かない間にお礼に来てくれてたらしいんだ。記憶にはないけれど頭のどこかでは彼の言葉をちゃんと聞いてたんだろうな」
そう言いながらハーブティーをすする。
エージェントは温かく優しげな表情で真っ直ぐに俺の顔を見ていた。
「おかしな話なんだけど、サトミチさんの言葉を思い出すたびに迷いが生まれるんだ」
「迷い、ですか?」
「俺はカオスイズムに絶対に復讐をすると心に決めているし、その気持ちが今回のことで増したはずだったんだ」
意識を失う前に全身で味わった許せないという感情を思い出し、肌がピリピリとする。
激しく頭を揺らすあの感情は決して忘れることが出来ないだろう。
「でも本当にしたいことは復讐なのか? って」
そう告げるとエージェントは僅かに目を見開いた。
でもその表情がどんな気持ちからのものかは俺には分からなかった。
「私はゆっくり考えたらいいと思うとしか言えないですが
…
」
エージェントはゆっくりと、落ち着いた口調で話し始める。
「どんな結論でも阿形さんが出した答えなら私は受け留めますし、応援します」
真っ直ぐに俺の目を見つめて発せられた言葉にはとてつもない説得力があった。
この人ならたとえ誤った答えを出したとしても本当に受け留めてしまうんだろう、そう感じさせるのにそれは十分過ぎるものだった。
「ご主人様ぁー」
一瞬の張り詰めた空気を執事の少し抜けた声が破る。
呼ばれて席を立ったエージェントは今度は土鍋を持って戻って来た。
「阿形さん、中華粥だそうです。熱いので気を付けて食べてくださいね」
エージェントは満面の笑みでテーブルに置いた土鍋の蓋を鍋つかみで挟んで開けた。
わっと立ち上がる湯気に乗って美味しそうな香りが部屋中に広がった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内